『パンの調達』
初日の宿がある村は春一番の乗り合い馬車を歓迎してくれた。
その村はハズレの町を出発して必ず一夜目の宿を取る村で、昨日までは同様に冬籠りをしていた村だった。
だがこれからは毎日のように各地に向かう馬車で賑わうことになるその第一便を、喜びと共に迎え入れてくれた。
ハズレのものとは比べものにならないほど緩い検問を受け、乗り合い馬車は村の中に招き入れられた。
そしてそのまま宿屋に向かい、まずはオフェーリアが宿を取ることになる。
「いらっしゃい、春一番のお客はかわいいお嬢さんなんだね。
うちは夕食と朝食込みで一泊、銀貨50枚だけど乗り合い馬車のお客さんには45枚で泊まってもらってるよ。
少し高いと思うかもしれないけど個室だし、なにより部屋に洗面台があるから女性には嬉しい造りだと思うよ」
「わかりました、ありがとう。
一泊お願いします」
案内された部屋に入り、鍵をかける。
そしてオフェーリアは大急ぎで都に転移した。
それは先ほどこの村に入ってきたときに見た食料品店の規模などにより、大量のパンなどの仕入れが不可能だと見てとったからだ。
旅装のまま懇意にしているパン屋に駆け込んだオフェーリアは、大食漢の旅のお供たちの話をしてまずは今ある食パンを買い込んだ。
それはもちろんサンドイッチ用にスライスしてもらい、すぐに異空間収納に入れていく。
焼き立てのロールパンや細長い形のロールパンも同様で、籠に入れられたそれらも買い込んでいく。
「フェリアちゃん、明朝まで待ってくれたら特別に焼くよ?」
「おばさん、お願いできる?
本当に、本当に迷惑かけます」
オフェーリアはぺこりと頭を下げた。
「そうだ!
いくつか発酵済みのパン種も持っていくかい?
フェリアちゃんの異空間収納なら時間停止なんだろう?」
「おばさん、いいの?」
「どうやら儲け話のようだし、この際ウチも便乗させてもらうよ」
そう言う女将がオフェーリアに、必要以上に気を使わせてないよう軽口で返していることに感謝して、この後の注文が行われた。