『冬籠りの冒険者ギルド』
久しぶりに雪の止んだある日、オフェーリアは気まぐれで門前町にやって来ていた。
そこは思っていたよりも整備されていて、門から広場の周りの主要な施設に向かう道が雪かきされている。
「さすがにここは手が入っているか……」
ここに来る前上空から見たところによると、城下町の方はそれほどでもない。
多層階の建物が多いせいか、それとも雪に埋もれた時のために設えてある通路があるせいか雪かきされている場所は少ない。
「まあ、まずはギルドを覗いてみようかな。
こんな時に来る冒険者なんてまずいないだろうから、ひょっとしたら閉鎖されてるかもね」
などと言いながらドアに手をかけると、それは普通に開いた。
「おや〜珍しいお客だ!」
薄暗く照明のランプの火を落とした中、手許の蝋燭の灯で本でも読んでいたのだろう、かけていた眼鏡を外してこちらを見たのは鑑定士の爺だ。
「開店休業のようね。
でもまさかやってるとは思わなかったわ」
「儂はここに住んどるからな」
これはオフェーリアも初耳だった。
「この間行った解体場の手前に部屋がある。
食事も普段ならギルド併設の食堂で済ませるんじゃ……なので冬籠りの間は休みになって不便なことこの上ない」
現に爺は冬籠りに入る前に購入したパンなどで食いつないでいた。
そろそろ食べ物がなくなるので調達しにいかなければならないところだ。
「じゃあちょうどよかったかしら。
実はシチューを作りすぎちゃってね、食べてもらえる人を探していたの」
異空間収納から出した鍋はたった今火から下ろしたように熱々だった。
「おお、済まない。
もうこの歳になってから料理を覚える気になれなくてな。
冬籠りは毎年なんだがな」
一体何の獣人なのかわかりにくい、一見して普通の人間に見える爺はカウンターの向こうから出てきてオフェーリアに謝意を示した。