『入国申請』
「え?
あ、はい。転移陣があそこにあったので」
「マジか?!
いや、わざわざそんな嘘はつかんわな。
それでもまあ、よく生きて出て来れたもんだ。
あそこの魔獣はべらぼうに強いと言われていて。
めったに出て来ないが、この町の防壁もその対策なんだよ」
兵士はジロジロと熱心すぎるくらいの視線でオフェーリアを見つめると、ため息をついて椅子に座り直した。
「怪我はないようだな。
まったく、驚かせてくれるなよ。
……さて、あんたがどこから来たのかはわかった。
なのでこれから通常の入国申請を行う」
それは初めてここに来たもの、入国許可証を持たないものが記入する書類だ。
「ふうん、やっぱり古代語から派生した言語のようね」
「何、小難しいこと言ってるんだよ。
ちゃんと喋っているじゃないか」
それは検問の時話しかけられて、とっさに判断して受け答えだだけだ。
そして質問を慎重に聞いて答えていた。
だからひょっとすると変な言い回しをしていたかもしれない。
「ふむふむ……えーっと、まずは名前、フェリアと。
年齢?女性に聞くもんじゃないわよ!」
「……そこは空欄で結構です」
彼も女性に歳を聞くことの無謀さを身にしみてわかっている。そしてそれがどれほど恐ろしいかも。
目の前のこの少女も、実は少女という年齢ではないのかもしれない。
開けてはいけないものは開けるべきではないのだ。
「出身は……どう書きましょう?」
「そこは【中大陸】と書いてくれ」
「なるほど、ここでは【中大陸】と呼ばれているのですか。
今思い出しましたが、向こうでのギルドカードは身分証になりませんかね」
そう言ってオフェーリアは東亜大陸のものを含めた2枚のギルドカードを取り出した。
「あんた、冒険者だったのかよ」
「素材の採取と売買のために登録しただけです。
今回こちらに来たのも固有種の研究のためですから」
「大陸間に直接の交流はないが、うちの大陸にだってギルドはある。
かえって人種の多いこの大陸では、他所以上に重要かもしれないな」
「人種?」
「あんたも気付いているんだろう?
陽西大陸には獣人やその混血種の割合が多いんだ」
そう、目の前の兵士も牛の耳と角、そして尻尾がある。