『どこに行こうかな』
図書館の引き篭り主となって、あっという間に10年。
魔法族の都では時間の経過が違うのか、それとも元々寿命が長いので感覚が違うのか、オフェーリアとしてもさほど年月が経ったという気はしない。
だがまわりではそれだけの年月が経過していて、久しぶりに行った場所で見知った顔がなかったこともある。
たとえばダンジョン都市ミケルバ。
そこの冒険者ギルド長ジャンは先日寿命を全うしたそうだ。
オフェーリアにとって親しくしていた人間が先に逝くのは初めてではないが、さすがに堪える。
魔法族としてはまだ幼いオフェーリアにとってはよけいに引き籠る原因となった。
「たまには遠出でもした方がよいのではなくて?」
周りのものがびっくりするほど、大嫌いな図書館に現れたダイアナは本には目もくれず、真っ直ぐにオフェーリアのウッドハウスを訪問した。
そして今、読書中の彼女に“説教”している。
「遠出、ですか?」
「そうよ、あなたには余りある時間があるのよ。
だからたまには外出しなさい」
「そうですね」
ちょうど気分転換したかったこともあって、その気になったオフェーリアは地図を取り出した。
「どうせ行くなら今まで行ったことのない国がいいですね。
東亜大陸のルバングル王国以外の国でもいいわ。
ダイアナ、どこかお薦めってありますか?」
「そうね……
また別の大陸に行ってみる?
西の大陸とは最近は交流がないけど、まだ魔法族の混血種は残っていると思うけど」
「え?そんなところがあるの?」
ダイアナがいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「本が大好きなあなたも地図までは守備範囲ではないようね。
まあ、たしかに最近はあちらの話は聞かないし、極端に他人と接触しないフェリアが知らないのも無理ないわね」
ダイアナが自前の地図をサッと机の上に広げた。
「これが西宝大陸の地図よ」