『顛末』
ルバングル王国第四王子エクトルの葬儀の日は朝から霧雨が続き、さながらそれはまだ若い王子を偲ぶ涙雨のようであった。
この時、公式には婚約者候補でもなかったオフェーリアは葬儀に出席するのを控え、屋敷で冥福を祈っていた……表向きには。
オフェーリアが、エクトルの命が失われるように仕向けた翌日、副官とともにダンジョンに潜ってからそれほど経たずに彼は発見された。
いや、彼というより彼だったもの……それほど王子の遺体は損傷が激しかった。
そしてその事に関して公式な見解が発表されていた。
「フェリア殿、では明後日にはこの国を発たれると仰るのか」
「ええ、以前から本国から帰国の命令が出ておりましたし、エクトル殿下も居られなくなりました。
私の輿入れは正式に破棄されておりますので、もうこれ以上は……」
オフェーリアの形の良い眉が辛そうに顰められる。
騎士団の者たちは、亡き王子とオフェーリアの間には友情以上のものがあったと信じていた。
「……今日はあのダンジョンで、殿下の身に何が起きたのかお知らせに上がったのですが、お辛そうなので後日書簡にしたためてお渡しする事に致しましょうか」
「いえ、それには及びません。
どうか教えて下さいませ」
「フェリア殿は【ダンジョンの罠】というものをご存知か?」
突然飛んだ話題に戸惑うオフェーリアだったが、
副官は丁寧に説明してくれた。
「あのダンジョンには昔から【罠】が仕掛けられているという噂がまことしやかに囁かれていた。
……【罠】は数年から数十年に一度あるか、ないか。
でも100年ほど前に生還した冒険者から聞き取り調査した書類が存在しておりました」
「生還?
どのような【罠】なのですか?」
魔法を使えない人間たちの前に現れるダンジョン・トラップ、それはそれは異常事態だろう。
「突然、ダンジョン内の別の場所に転移させられるそうです。
それが実力以上の階層なら……おわかりですね?」
この後副官は、ダンジョン内での行方不明はこの罠が関わっている場合がある事、そしてエクトル王子が誰とも会わずに30階層に到着することが出来た事を指摘した。
「結果、殿下はあの谷の上、空中に転移させられ、落下したことによって亡くなられたのです」
「まぁ、お気の毒な殿下」
事象はオフェーリアに都合よく動き、収まっていった。




