『証人』
台帳の一番新しい欄に第四王子エクトルの名がある。
その2つほど前にオフェーリアの名があって、今日入場した者はオフェーリア以外まだ誰も戻って来ていない。
「?
今日も私はひとりで潜ってたのだけど?
ああ、ピピが一緒だったわね」
襟元から顔を出したピピが非難する様に鳴く。
「ぴぴぃ」
よしよしと頭を撫でると納得したのか再びローブの中に戻ったピピを布越しに撫でてやるとまた「ピィ」と鳴いた。
「エクトル殿下が嬢ちゃんの事を聞いてきたらしい。
俺はその時はまだ当番ではなくて細かいことは知らんが……会わなかったか?」
「ええ、今日は私、例の横道に入っていたの。
誰も来なかったわ」
さもあらん、あそこを知っているのはギルドの連中とダンジョン警備の兵士、そしてオフェーリアの他に僅かなものたちだけなのだ。
「そうか……
たしかに約束しているわけではないと仰っていたな。
いきなり行って驚かせたいと仰っていた」
たしかにびっくりした。
そして激怒したのだが。
おそらくエクトルは自分の王子という身分から、嫌がられたり怒らせたりするということに思いが至らなかったのだろう。
そしてまさか、命を落とすことになるとは。
「そうか、とりあえずお疲れさん。
殿下もそのうち戻ってくるだろう。
これからギルドに行くのかい?」
「そうね、今日は横道の奥の洞穴から希少な苔を採取してきたから、少し売ろうかしら」
「苔かい?」
「そうよ。
これは熱病の薬の材料になるの。
今までの薬より効きがいいものができるのよ。
学院で懇意になった薬師殿にレシピを差し上げたの」
なので、採取するのに多少骨が折れるが十分採算が取れるはずだ。
「じゃあ、次はいつ来るかわからないけど。
あ、殿下に宜しくお伝えして下さい」
何とも白々しい。




