『アリバイ工作』
オフェーリアは踵を返し、襟元から頭を出したピピと共に転移した。
その間際エクトルの叫び声を聞いた気がする。
「あのクズ、まだ生きていたの。
止めを刺さなくて気の毒なことをしたわね」
一応オフェーリアも、生きたまま喰われるのは残酷だと思う。
でももう仕方ないのだ。
「それにしても彼にはずいぶんお高いポーションをいくつも使って差し上げたのに、残念だわ」
1人と1匹が転移してきたのはピピの生まれた場所、ここは第三階層に入ってすぐの場所に分岐があるのだが目につきにくく、オフェーリアに発見されるまで知られていなかったのも頷ける。
それは今も続き、この場所を知るもの以外は入る事がない。
さて、アリバイにはもう一押し必要だろう。
オフェーリアはいくつもある洞穴の中でピピの卵のあった穴に入っていった。
「ここにはまだピピの卵の殻が残っているはずなの。
それと壁面に生えている食虫苔を採取すれば十分でしょう」
クロコダイラワニンが発見されたのち調査が入ったようだが、ピピの殻の破片はそのまま残されていた。
色合いが特徴的なそれを拾い苔を採取して、昼下がりの日差しの中ダンジョンを後にした。
「今日はもう上がりか?」
ダンジョン入り口に立つ2人のうちの1人が、オフェーリアに気安く声をかけてくる。
顔見知りの彼はついさっき交代したばかりだ。
「あれ?ひとりかい?」
もう1人が入場者の名が書き込まれている台帳を取り上げ、最も新しいページに書き込まれた名を指し示した。