『クズの末路』
「なるほど、やましい事があるから本当に1人で来たのね」
オフェーリアに殴られたことによって折れた肋骨を押さえて呻くエクトルを尻目に、あたり一帯どころかダンジョンの入り口から45階層まで探査してみたところ、彼の従者や護衛に至るまでだれも伴っていなかった事が確認できてニンマリと嗤う。
「当然入り口では姿を見られているでしょう。
その時に私のことは聞いたかしら?
……私がここにきていることを知っているのだから、聞いているわね?
ひょっとすると私がダンジョンに入ったことを、ここの番兵から報告されたのかしら」
すべて図星でエクトルは目を見開き驚いている。
「ふぅん、これは少しアリバイを考えた方が良いわね……」
オフェーリアはどうにか起き上がろうとするエクトルを蹴飛ばし、その膝を思い切り踏みつけた。
「ぎゃああぁぁーー」
男の絶叫が響き渡り、ミスリルの防具を付けたまま、その弱い部分……膝があらぬ方向に曲がっている。
エクトルは鎧を着けることによって不自由になった柔軟性で必死に身体を曲げて患部を庇おうとしている。
そしてその口からは、痛みのあまり嗚咽がもれていた。
「情けないこと」
オフェーリアはピピを抱き上げ、ローブの中に押し込んだ。
そしてエクトルの首の後ろを掴むと、この場から一瞬で姿を消した。
「ここはどこだ、俺をどうするつもりだ?!」
オフェーリアが転移してやってきたのは30階層、このダンジョンでは下層の入り口といった所だ。
今、オフェーリアたちの前には高さ10mほどの浅い谷が続いていて、それがオフェーリアの【ライト】の魔法で照らし出されていた。
「どうも致しませんわ、第四王子殿下。
でも、そうですわね」
エクトルの利き腕を掴んだその瞬間、前腕の曲がるはずのない部分がミスリルの籠手ごと直角に折れ曲がり、さらなる強烈な痛みが襲ってきた。
悶絶するエクトルを今度こそ谷に蹴り飛ばしたオフェーリアは谷底で痙攣するその姿を冷たい目で見下ろしている。
「ほら、もう魔獣がやってきた。
私がここで見届けて差し上げるので、安心して食べられてくださいな、殿下」
久々の生きの良い獲物をめがけて、岩トカゲの群れが集まってきた。