『提案』
事態が動かないままにすでにひと月。
オフェーリアの屋敷はまるで以前からそこにあったかのように円滑に回っている。
時折り王家から使者が来るが、それ以外は自由に過ごしている。
そんななか、ある日やってきた使者に向かってオフェーリアは声を張り上げた。
「私が高等貴族学院に留学?
妙な冗談を言わないで下さい。
私のこと、一体何歳だと思っておられるのです?」
魔法族特有の、異常なほど遅い加齢のせいで、オフェーリアの見た目は未だ少女に見える。
だが本当は生まれてから40年近く経っており、この世界では早いものならすでに孫がいてもおかしくない年代なのだ。
「現在学院にはフェリア様の婚約者候補である公爵家の嫡男殿も在籍しておられます。
婚約の件が膠着状態の今、学院で縁を結ばれるのも如何かと」
どうやらこの使者は公爵家側の者のようだ。
宮廷では今、元々の婚家の予定であった公爵家と、後から割り込んだ形の第4王子派に分かれ、日々陰謀を巡らせている。
「それは王命でしょうか?」
もしそうならばオフェーリアに否と言う権利はない。
「いえ……そういうわけではございませんが」
煮え切らない使者の態度に、彼は蝙蝠なのだとオフェーリアは思った。
公爵家は本人同士の間に縁を結びたい。
そして第4王子側は何故か時間稼ぎをしたいようだ。
「……この場で即答は出来かねますわ。
書面でのお返事では如何でしょうか?」
「それで結構です」
使者は満足してオフェーリア邸を後にしたのだった。
「フェリア様、本当に学院に通われるのですか?」
ドーソンが心配そうに聞いてくる。
彼女は学院という一種の閉鎖社会がどれほど特殊なのか、その身を以てよく知っていた。




