『ドーソンの部屋』
以前は伯爵家のタウンハウスだった屋敷は、貴族街では平均的な敷地に品の良い建物が建っていた。
庭も手入れが行き届き、急に主人が変わったとはとても思えない様子だった。
「ある程度の家具は設えてあるわ。
私の故郷の備えなので少し趣きが違うけど華奢で素敵でしょう?」
猫足の家具は女性的で煌びやかだ。
玄関ホールに敷かれた絨毯も色合いは抑えられているが豪奢な花柄の段通だった。
「あなたたちのお部屋も一応用意してあるのよ。
もちろん、好みでなければ変えてもらっていいのよ」
3人とも、元々の仕事場である王宮に住居である部屋を残している。
その上で迎賓館に派遣されていたのだが、今回オフェーリアが引っ越すにあたって、特に女官の2人は志願してここにやってきたのだ。
「一番に案内させるわ。
……お茶にするので早めに戻ってらっしゃいね」
すでに3人は心ここにあらず、の状態だった。
厳しく教育された女官と言えど年若い女性である。
【オートマタ】と呼ばれたメイドに案内されて3階までやってきた3人は、まずはドーソンに与えられた部屋に向かった。
「この部屋の鍵はこれデス」
鍵穴に鍵を差し込み捻ると、カチリと音がして鍵が開いた。
扉を開けて入ってみると、一階で見たのよりはシンプルだが猫足の家具が目に飛び込んできた。
使用人用の部屋だが十分な広さのある部屋で、寝台の前にはつづれ折りの衝立で仕切りがしてある。
座り心地の良さそうな1人掛けのソファーやローテーブル、小振りな書き物用のライディングデスクには可愛らしい花柄の彫り物が入っている。
「まあ、なんて……」
思わず声に出してしまったドーソンは、気まずそうに2人を見た。
だが彼女らはもう自分たちの部屋に思いを馳せて、気もそぞろだ。




