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トカゲと白猫

それから犯人ではない方の警官がやって来てシンジと話し、少女に謝るというのを見届けてから道すがら、ふと究は怠そうに両手を頭に乗せた。

「暇だなぁ、結局ノブさんの情報待ちなのかなぁ。シンジ君はいつもどうやって調査してんの?」

「オレ、そういうのやってない」

「え・・・・・」

「オレ戦闘担当だから」

「・・・そっか」

当てもなく歩くという内心で少し焦りが募る空気の中、突然肩を優しくつつかれたので顔を向ける。

「ドラゴン居たのに、ラーニングしなかったの?」

そう言って凉蘭は一瞬ドキッとするほど、ほんの小さく微笑んでみせる。

「忘れてた、っていうか、いや違くない?人間じゃん」

「じゃあ、ちょうど暇だし、巨大生物探せば?」

あ、そう、だな・・・。

「え、聖、巨大生物がどうしたって?」

「実はさ、最初から巨大生物目当てなんだよ、DNAラーニング考えたの。ゴリラとかは護身用でさ」

「マジか!?えっ!良いじゃん」

「コクエンと戦う前に手に入れたくてさ」

「だよな。じゃあ探すか巨大生物。シンジ君知らない?居そうなとこ」

「巨大生物に詳しいのはタツヒロ辺りだからなぁ。じゃあとりあえず組織に戻るか」

思い立ったように適当な壁にシールキーを貼るシンジを何となく見ていて、そして本当に適当な壁に不自然に出来た普通の扉を改めてまじまじと見ると、それから戻った組織のその異空間さ加減が逆に普通なものにふと感じた。

能力者にとっては当たり前の世界なんだろうけど、能力者じゃなかったってだけで、今まで世界が変わってた事に気付かなかったんだもんなぁ。能力者になってなかったら、ずっと知らないままなのかな。

「あ」

小さくそう声を漏らしたシンジは同時にとある方へと歩き出していったので何となくついていくと、そのテーブルには僕と同年代と思われる2人の女性が居て、近付いてきたシンジに2人はふとした表情を向ける。

「タツヒロに会いたいんだけど、連絡してくれない?」

シンジがそう聞いた直後、前髪を真っ直ぐ揃えたきれいなストレートヘアが目を引く方の女性が僕達の方を見てくる。

「見ない顔だね。どこかの組織の人?」

「いや、こないだ能力者になったばかりで、テロリストにやられたから力を貸して欲しいって北村さんから連絡貰って、覚醒の特訓に付き合ってる。そんで、聖は動物のDNAを取り込んで戦う力だから、巨大生物に会いたいんだって」

「ふーん。私、シノダヒカルコ、よろしく」

「あ、うん。赤荻聖です。こっちは究、こっちが鳥井さん」

何だろう、鳥井さんと同じような匂いっていうか・・・。

「高校生?」

そう言ってヒカルコは決して深くはないのにどこかフレンドリーさを垣間見せる微笑みを浮かべて見せる。

「うん、2年」

「ならタメだね。じゃあちょっと待ってて、連絡してみる」

「うん。ありがとう」

隣のテーブルの椅子に腰掛け、電話をかけるヒカルコからふと、ヒカルコの隣に座る女性の隣に座り、その女性とすごく親しげに会話するシンジに目線を移す。

「もしもし?シンジがタツヒロ呼んでるからすぐ来てくれない?。巨大生物の事でだよ。うん、はーい。聖、すぐ来るから」

「うん」

すぐねぇ、普通だったら電車乗ったり、タクシー使ったりするんだろうけど。アレがあるしな・・・。

「あ、ここだよー」

ヒカルコが手を振る方へ振り返ると、ヒカルコが電話を切ってから10秒そこそこで僕達も使ってきたその扉の前には1人の男性が居た。何となくホストっぽい顔立ちだが、物腰から伺える雰囲気は柔らかいその男性はそしてヒカルコに応えるように手を挙げながらこちらの方にやって来る中、やはり見ない顔なのか、ふと男性は僕や究達に目を向けてくる。

「シンジ、用って?」

「能力者になったばかりでオレ達が特訓を手伝ってんだ。そんで聖の力は動物のDNAを取り込んで戦う力でさ、巨大生物に会いたいんだって」

その一瞬、ほんの微かではあるが、タツヒロの表情には他人の能力に興味を抱くような驚きや感心ではなく、不穏さが伺えた。

「取り込むって、どんな風に?まさか光の粉的な感じにして存在ごと吸収するとか」

「いやそんなファンタジーな感じじゃないよ。本体は必要無いっていうか、動物を見ながら念じるだけで情報だけが頭の中に入ってくるって感じで」

「ああ・・・じゃあいいか」

真っ先に心配するって事は、保護活動的な感じなのかな。

「ていうか、巨大生物の場所知らないなんて事無いよね?有名だし」

「それはそうなんだけど。他に情報があるなら詳しい人に聞いてみた方がいいし」

「そっか、それはそうだね。比較的まだ知り渡ってないのは若州海浜公園で最初に目撃された『若州公園のカイチョウリュウ』とか」

「ど、どんな奴?『お台場のオッシー』とどっちが強いかな」

「見た目は、イルカにウミドリみたいな足と翼が生えた感じ。多分イルカがベースなんだと思う。若州海浜公園ってゲートブリッジの目の前だからさ。それで海の鳥の竜って事で海鳥竜って呼んでるよ。でも力の強さとか戦闘能力で言ったら、やっぱりオッシーかな」

「いやぁ、やっぱりオッシー、カッコイイしなぁ」

「新しい情報の巨大生物よりも、僕と顔見知りの巨大生物の方が安全だと思うよ?巨大生物は基本、知能が高いから」

「そっか。じゃあほんとすぐだからさ、付き添って貰っていいかな」

「うんいいよ」

やった、見た目に依らず、優しいんだな、タツヒロ君。

「聖、俺ら待ってるからさ。帰って来たら闘技場で見せてよ」

「・・・うん」

「私も行こうかな、間近で見たいし」

そう言って歩み寄って来る凉蘭の特に浮き足立ってる訳でもない表情を見ながら、タツヒロと2人きりで行くという緊張が薄れたと同時に代わりやって来た若干の気まずさを感じていく。それからタツヒロのシールキーで作った扉を抜け、当然のように賑やかなお台場を3人で歩いていく。

「タツヒロ君は、巨大生物の保護活動的な事してるの?」

「まあね。オッシーは普通の時は大人しくて人より小さいから、よく悪い奴がちょっかい出しに来るんだ。そういう奴を追い払ったり、後は動物の方にも人を襲わないようにって言い聞かせて回ったり」

「動物、好きなの?」

凉蘭がそう聞くと、タツヒロは若干照れ臭そうに笑みを溢す。

「うん」

「言い聞かせるって、もしかして動物と話せる能力とか?」

すると笑みは少し深まり、照れ臭そうなものから正解を言われて嬉しそうなものへと変わる。

「そうなんだ。最初は組織に動物と話せる能力を持った子が居て、付き添って貰ってたんだけど、自分でも持とうと思ってさ」

タツヒロの話を聞きながら砂浜に差し掛かり、のんびり歩く人達、波打ち際で遊ぶ人達、優しい照り返しなど、ふとその全体的な長閑さを横目にしていく。

「ん?」

そんな時、歩きながらタツヒロがそう何かに気を止めたと同時に、僕もふと台場公園に通じる一本道に見える人気の多さに目が留まると、何となく沸き上がったその胸騒ぎはそのまま台場公園へと目線を向かせた。

何かのイベントかな。いやでもイベントって普通砂浜の方でだよな。

「やけに賑やかじゃない?あっち」

「うん」

すると凉蘭が言葉にしたからなのか、煙のように不安定だった胸騒ぎは急速に色付いていき、そして台場公園への一本道に差し掛かる頃にはその胸騒ぎは水風船のように重たさを感じさせていた。その直後、台場公園から微かに悲鳴のようなものが聞こえてくると、そのフットワークに手練れ感を感じるほどタツヒロは軽く走り出した。

さっき言ってた、巨大生物にちょっかい出す悪い奴かな。こういう事、結構あるのかな?

そして台場公園に着くと、そのやじ馬の多さは観客の如く、まるで中央広場を闘技場のように囃し立てていた。

「オッシー」

するとそう口走り、まるでケンカしてるペットを見つけて駆けつけるかのようにタツヒロは広場へ下っていく。

うわ、オッシー戦ってる・・・。しかも何か、正に動物同士のじゃれ合いみたいに。相手も動物かな。

ヒトよりも裕に大きな身体に頭の角、分厚そうに黒ずんだ滑らかな質感の皮膚、そしてトカゲがゴリラの骨格を成したといったようなその姿は正にモンスターであり、巨大生物の代名詞と言えるほどのカッコ良さがあるそんなオッシーは筋肉隆々の腕を振り回し、オッシーよりも少しだけ小さい、どことなくネコっぽいようでイノシシっぽいような巨大生物をひっくり返した。

「オッシーどうしたの?」

必死そうに足をばたつかせながら巨大ネコが立ち上がると同時に、その一言で嘘のように大人しくなったオッシーは何やらタツヒロと見つめ合う。

「そっか・・・」

え?今会話したの?・・・。

「ガァァー」

巨大ネコが威嚇してもタツヒロはまるで動じず、巨大ネコに体を向ける。

「ここはオッシーの縄張りなんだよ。ごめんね」

やじ馬達の一部がまるでライブで流れてる曲がいきなり止まったかのような苛立ちを沸かせるものの、そんな空気など我関せずといったようにタツヒロは巨大ネコと見つめ合う。

「そっか。オッシー、ちょっと休みたかっただけなんだって。許してあげてよ。・・・え。オッシーが取っておいた魚、勝手に食べちゃったの?・・・んー、ん?うん。そうだよね、知らなかったんならしょうがないよね。それについても悪いと思ってるみたいだからさ。え、あー、オッシー、また来てもいいかって。でもほら、友達は多い方がいいよ?うん。じゃふたりとも、仲直りしてこれからも仲良くね」

「何してんだよぉ、オイ」

オッシー達の和解を見計らってか、帰っていく人達も見えるそんな中、やじ馬の中から1人のワルそうな男性が出てきて、周りの目が向けられていく。

「せっかく良いとこだったのによぉ。こっちは撮ってんだから邪魔してんじゃねぇよ」

しかし威勢の割りには男性はタツヒロの下へ詰め寄るような素振りは見せず、そう文句を吐き捨てるとハンディカメラを持つ仲間と思われる男性と共に帰っていくやじ馬達に紛れていく。そんなところでふとオッシーを見ると、その巨体は風船が空気を吐き出すように瞬時に小さくなり、お台場のオッシーと言われるだけのアイドル感溢れる本来のオッシーへと変化を遂げた。するとそれに呼応するように巨大ネコも体を萎ませ、至って普通の白い野良猫へと変身し、そしてやじ馬達によって形作られた闘技場も撮影会場へとその姿を変えていった。体型は同じでも、強さを強調するかのような角が引っ込んだ、大型犬ほどのオッシーがキョロキョロするその可愛らしさがまたやじ馬達からシャッター音を鳴らしていく中、ふと気が付くと凉蘭もやじ馬達に混ざっていたので、仕方なく中央広場へと下っていく。

「タツヒロ君、そのネコも、お台場が縄張りなの?」

「ううん。このネコは僕も今日初めて見たよ。だからこそオッシーの縄張りとか知らなかったんだろうし」

その瞬間、白い野良猫はまるでタツヒロを呼ぶように鳴いた。

「そっか。ついこの間能力者になったばかりなんだって」

「そうなんだ」

ネコの能力者・・・。まぁ能力者なのは人間だけじゃないし、他に言い方なんて無いよな。鉱石はそもそも地中にあるものだし、もしかしたら人間よりも野生動物の方が能力者になる確率は高いのかもな。

「それより聖君、力、使うんでしょ?」

「タツヒロ君がオッシー達と話してる間にもう済ませたよ」

「あは、そっか。本当にすぐなんだね」

「ねぇ、ネコに名前付けなくていいの?」

凉蘭がそう口を開くと、ネコはまた鳴き声を上げ、タツヒロを振り向かせる。

「言葉分かるの?そっか。何かね、女の子にシロロンって呼ばれてたから、それでいいってさ」

オッシーとシロロンに大きく手を振り、満足げな笑みを浮かべるタツヒロを横目にそして台場公園を後にした矢先、海浜公園の展望広場の辺りから、突如何人かの悲鳴と共にここからでも分かるほどの眩しい黄色と紫色の光が立ち上った。

まさか・・・。

「・・・テロ、かな」

そう呟くとタツヒロは僕と顔を見合わせてきて、まるで普通の人のようにその表情を曇らせる。

「すぐノブさん達呼ばなきゃ」

「タツヒロ君戦わないの?」

「戦わない事は、ないけど、僕はテロ鎮圧よりも動物達を守りたいからさ」

「そっか」

そりゃ、人それぞれの活動があって当たり前だよな。能力者だからって、テロをするか、鎮圧するか、どちらかじゃなきゃいけない訳じゃない。ていうか、タツヒロ君みたいに怖がるのがそもそも普通なんだよな。

「僕と鳥井さんが行くから、タツヒロ君は下がっててよ。僕達、テロ鎮圧の為に能力者になったから」

「だから特訓してるのか、すごいね」

力を試すタイミング、良すぎるけどまぁいいか。こんなご時世だし。

駆け足で展望広場へとやって来たその時、ちょうど目の前の砂浜に“紫色の光の剣”と“黄色いロボット”が転がり込んできて、水しぶきのように砂が舞い上がる。

最初の方はエネルゲイア×ディビエイトでお馴染みの人物が出てきますね。現在の状態も紹介がてら。


ありがとうございました

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