ヒロイック・テロリスト
そんな砂しぶきに思わず後ずさってしまう中、黄色いロボットはすぐさま立ち上がって紫色の光の剣を拾い上げ、僕と凉蘭の事など構わずにとある方へ体と闘志を向けていく。何となくその先へ目を向けてみたその時、見た感じ僕と同年代と思われる男性が走り込んで来て、黄色いロボットが振り下ろした紫色の光の剣を腕1本で勇ましく払い退ける。まるでやじ馬のような気分の中、黄色いロボットは自棄になったように紫色の光の剣を何度もしつこく男性に向かって振り回していくが、端から見てもその両者の間には実力の差があるようで、紫色の光の剣が尽く捌かれると最後に黄色いロボットは殴り飛ばされ、再び豪快に砂しぶきを舞い上がらせる。
強いなぁ。南原さんやシンジ君みたいに、一見全くの丸腰なのに。
砂が舞い落ちていく一瞬の静寂の後、紫色の光が優しく空気に溶けていき剣が消滅すると、黄色いロボットも光となって消えていき、そこには1人の倒れている男性が残された。
もしかして、終わっちゃった?・・・。
「オトナリ君」
ばったり出会ったかのような呼び掛けの方に黄色いロボットを倒した男性が顔を向けると、男性の下にはタツヒロが歩み寄った。すると正にばったり出会ったかのような微笑みを浮かべた男性のその態度に、ふと気が留まる。
「おお、タツヒロ君も来てたんだ。オッシーに何かあったとか?」
タツヒロ君、知り合いなんだ、この人と。
「ううん、知り合いがオッシーに会いたいって言うから、連れてきたんだ。あのテロリストって、突発的なもの?」
「いや、マークしてたんだ」
タツヒロ君、何者だろ。まさかタツヒロ君もって事はないよな、ノブさん達の仲間だし。
「タツヒロ君、何で、知り合いなの?だって、一応テロリストなのに」
タツヒロにそう聞いてみた時の、テロリストという言葉に対して特に反発する訳でもないオトナリの態度にも、またふと気が留まる。
「最初はね、グループの中で巨大生物を担当してるホンマさんを、普通にテロリストとしてやっつけようとしてたんだけど、ちょっとした誤解もあって、それに話してみるとやっぱりアリサカさんの仲間だけあってそんなに悪くない人だって分かってさ。それから、これは普通にノブさん達も知ってる事なんだけどさ、ホンマさんとはたまに協力し合ったりしてるんだよ。能力者の中には、動物を操って悪い事をする人とかもいるし、そういう情報交換とかね。だからまぁオトナリ君とも顔見知りでね」
「アリサカ、って・・・テロリストの?」
凉蘭がそう口を開くと、まるでアリサカという人物を知らないかのようなその口振りに、オトナリとタツヒロは若干驚くような表情で顔を見合わせる。
「鳥井さん、アリサカソウマ、知らないの?」
「ニュースで、ちらっと名前聞いただけ」
「えー、有名なのに。1番ファンサイトがあるテロリストなのに」
「何それ。テロリストなのに?ファンサイト?」
「うん。アリサカソウマがリーダーをやってるテログループの主な活動は、テロ鎮圧だから」
「テロ鎮圧するテロリスト?何それ」
まるで理解出来ないといったような不信感溢れる眼差しで凉蘭がオトナリを見つめるも、オトナリはそういう態度はもうすでに慣れきったと言わんばかりに毅然と凉蘭を見つめ返す。
「周りに嫌われても悪い奴をやっつけるのが本当のヒーローだって僕は思うから、ちゃんと信念を持って活動してるアリサカさんの仲間に入ったんだ」
「ふーん。アリサカって、ダークヒーローだったんだ」
ダークヒーロー、か。オトナリ君なんて、いかにもヒーローマンガの主人公っていう雰囲気だけど。
やはりテロリストとあってか、警察と合流する事はせずに去っていくオトナリと別れて、組織への扉を作る壁探しの道すがら、何となく凉蘭の横顔を見ると、すぐに凉蘭は僕に顔を向けてきた。
ヤバイ、何か喋らなきゃ。
「能力者って、ホント色々だよね」
「タツヒロは、何でわざわざテロリストのアリサカに協力してるの?」
「確かにたまに建物とかに破壊活動はしてるけど、それは他のテロリストに対してのある意味マーキングっていうか、それに能力者以外は殺さないっていうのがアリサカ達のルールだし、僕はそんなに悪い人達だとは思わないけどな」
「ふーん」
組織に戻るとふと見た究は寛ぎながらいつものように手を挙げてみせ、頭の中にあるちょっとした違和感を自覚しながらそして究の居るテーブルに着くと、究はおもむろに立ち上がり、何となく言いたい事が分かるような笑みを浮かべてみせた。
「オッシーの力、使えるって事だよな。本物のオッシーとは戦えないし、貴重な経験だな」
「ちょうど僕も、レベルアップしたスランバー達の力、試してみたかったんだよね。しかもオッシーだけじゃないよ?ラーニング出来たの。タツヒロ君も知らない、能力者になったばかりの野良猫のシロロンのもついでにラーニングしてきた。そもそも巨大生物同士の力を合わせるのが目標だし」
それから究と2人で闘技場へ入りながら、究と戦う事がそういえば初めてだという事をふと自覚する。そして適当に向かい合うと究は正にボスキャラである魔王の如くスラッとした佇まいのまま、スランバー、ベーグ、シバーを出現させた。
「ちょ、全員は無理」
「分かってるって、じゃあ先ずはスランバー」
ベーグとシバーが究の背後に下がり、スランバーが前に出たのでシロロンを発動させるが、その瞬間に感じたのは“倦怠感”だった。
「おお、それが野良猫の力か。何かアレだな、ゴリラの時と違って、身長も少し伸びたな。やっぱり巨大生物だからかな」
「多分」
ふう、何だろ。この変な感じ、まるで、風邪引いて怠いみたい。
「行けスランバーっ」
倦怠感を引きずりながらも突撃してきたスランバーをかわすと、すぐさまスランバーはUターンして再び飛び込んできたので逆に殴り返す。しかし氷片を散らしてふらふらしたと思いきや、スランバーは怒ったように自身の頭上に4本の吹雪を作り出して放ってきたので、再び倦怠感を感じながらもそれらをかわしていくが、最後の1本をかわした直後にその倦怠感が途端に脚に絡みついてきた。
うーん、何なんだ、これ。
するとそんな隙を狙うかのように、吹雪を纏ったスランバーは先程よりも速度を上げて突っ込んで来て、とっさに腕を出すもののその衝撃は強く、体は勢いよく倒れ込んだ。
「さすがだな。全力で突っ込んでも全然吹き飛びもしないのか。じゃあ次はベーグだな。スランバー、下がっていいよ」
ふう、いやぁ、確かに体は丈夫なんだけど・・・あれ?ちょっと体が軽くなってきた。慣れてきたのかな。
まるで指の骨でも鳴らすように、自身の周りに小さく炎を花火みたいに鳴らすそんな態度にどことなく可愛らしさがあるベーグが前に出てくると、ベーグは炎を纏い、剣身のように鋭く尖った。
ゲームじゃ炎属性の戦闘魔晶は剣による近接攻撃と炎の弾丸による連続攻撃だけど・・・。
カメレオンを発動して透明になると、ベーグはキョロキョロしながら適当に暴れ出したのでその中で隙を突き、ベーグを殴り飛ばす。手応えはあるものの、スランバー同様ふらふらとよろめいただけでベーグは姿勢を直し、距離を取ってから姿を現した僕に向かって剣先から炎を弾丸のように連射してきた。
うお、やっぱり。
しかし本当に弾丸のように高速で飛んでくる炎など避けきれる訳もなく、身を屈めてやり過ごした頃にはすでにベーグが詰め寄って来ていて、とっさに炎の剣をかわすと炎は風を切り、音を鳴らす。それからベーグが炎の剣を振り下ろす前に“ワシゴリラ”を発動させ、飛び上がって炎の剣をかわしてベーグを蹴り飛ばす。すると勢いよく地面に落ちたベーグはまるでこけしが倒れたかのように横たわったまま黙り込んだ。
「ベ、ベーグ、大丈夫?」
思わずそう声をかけてしまうが、ゆっくり起き上がって浮き上がったベーグはまるで溜め息でも吐くように炎の剣を消し、小さく上下に揺れてみせた。
ん・・・。
しかしそんなサインの意味など分かる訳もなく、直後にベーグは究の下へ戻っていった。
「究、ベーグ何だって?」
「聖の強さに感心してるってさ」
「そっか」
改めて見ると、戦闘魔晶って・・・可愛いかも。
「ていうか聖、2つ目の力使わないのか?」
「いや2つ目は、戦闘用じゃないんだ。ストックしてるDNA情報を合成してまとめて、実質的にストックの空きを作るんだよ」
「ああ、地味だけど、いいじゃんそれ。それより、すごいな、聖、その見た目、まるでキメラだ。例えようがないくらい混ざってるけど、強そうって事は分かる」
キメラか、確かに。
「これなら3体同時でもいけるかも」
しかしその瞬間、究は何やら考えがあるかのように微笑む。
「いや、4対4にしよう」
「え?」
すると直後、スランバーは左肩、ベーグは右肩、シバーは胸元にと、3体はそれぞれ究の体にくっついた。
「知ってるだろ?戦闘魔晶を装着すると、魔王のステータスが上がるの。それに聖だって、ワシにゴリラに、シロロンだっけ?そしてオッシーで4体だろ?」
「なるほど」
つまり、本気って事か・・・。でもな。いや、いいか。
すっと意識をしてオッシーを発動させたその直後、何やら体は途端に動かなくなり、そしてそのまま体はきれいに音を立てて後ろに倒れ込んだ。
「え?聖?」
何だこれ。まったく動けない。重たすぎる、石みたいだ。
「おーい。え、ちょっと・・・何だよ。ホントにどうした?聖!」
オッシーを解除した途端、嘘のように体は軽くなったので起き上がると、目の前に歩み寄って来ていた究は安堵したように溜め息をついた。
「何してんだよ」
「分かんない。石みたいに動けなくなった」
「俺だって戦闘魔晶を全員装着した時の力まだ試してないんだからさ。もう1回やって?」
「うん」
立ち上がってからもう1度オッシーを発動してみるが、やはり体はまったくコントロールが利かず、まるで棒切れが呆気なく倒れるかのようにそのまま体は地面を鳴らした。
「何だよー」
ホールに戻ると凉蘭の居るテーブルにはヒカルコにユウジ、そしてマナミが居て、まるで友達かのような雰囲気を漂わせていた。そんな時にふと凉蘭と目が合うと、凉蘭の眼差しを追うようにみんなも僕と究に顔を向けてくる。
「どうやらマナミの力は使わなくていいみたいだね」
そうは言うものの、ユウジは心配するような表情などまったく浮かべず、至って彼らしい気の抜けたような笑みを浮かべる。
「でも、自分の力なのに、何で動けなくなったか自分でも分かんないんだ」
「まぁ覚醒自体、もう想像を越えちゃってるからね。でも俺が思うに、DNA情報っていうくらいだから、情報量が膨大だとそれだけ体が慣れるのに時間がかかるんじゃないかな」
「ああ、そっか。あでも、シロロンの力はすぐに慣れたのに、オッシーは、全然だった」
「それは多分レベルの違いだよ」
そう言いながらタツヒロがやって来て、持っている飲み物を一口飲む。
「オッシーはね、能力者としてはレベル2なんだ。でもシロロンは能力者になったばかりだからレベルは1。情報量が違うとしたらそこなんじゃないかな」
「そうなのかぁ」
「コクエンと戦うまでに慣れとけよな?まぁオッシー抜きのキメラでも十分だろうけど」
「うん、分かってるけど」
単に時間がかかるだけなら、夜寝る時にでもやっとけばいいのかな。
「単純にオッシーだけでやってみれば?いきなり重ねてやっちゃうからダウンロードが遅くなったんじゃないの?」
ダウンロードって、さすがIT系女子だな。
「それもそうだね」
「それかもっと覚醒してバージョンアップすれば、普通にダウンロードの速度だって速くなるだろうし」
「うん」
オッシーとシロロンを合わせたら、レベルも反映されるのかな。
「ていうかノブさんは?」
究の問いに、ユウジはさっきから何となく気にはなっていた舞台の方へと指を差す。
「あっちに組織のオーナーの部屋があるんだけど、組織間の情報共有とか、街で起こってる事件の情報収集とか、そういうのはオーナーに頼むとやってくれるんだ。まだ居るんじゃないかな」
あれ、もしかして、オッシーとシロロン、合わせてレベル3だから、まだレベル2の僕には扱えなかったのかな?。そしたら、どんなに頑張っても覚醒しなきゃダメなんじゃ・・・。
沢山のテーブルセットに舞台、そんな内装のホールの用途が今一パッとしない中、究と凉蘭の2人と共に舞台に上がり、舞台の角にあるガラス張りの小部屋に入ると、1つの丸テーブルと4つの椅子にテレビという、何となく誰かの部屋っぽい雰囲気のあるその空間には正面と右側と、また2つの扉があった。
どっち?・・・。
その直後、正面の方の扉が勝手に開き、僕と同年代くらいの1人の男性が姿を現した。何となく知的な印象のある眼鏡を掛けた男性の突然の登場に、その場の空気は静かに止まった。
「あ、もしかしてオーナー?」
「違うよ」
ちなみにスランバーは微睡み。シバーは身震い。ベーグは朦朧。という意味があります。凍えれば微睡み、痺れれば震えて、暑さに朦朧とする。戦闘魔晶たちの属性を表しています。
ありがとうございました




