其の15 二つの魂と深淵の闇
筆が遅く申し訳ありません(o_ _)o
ーあらすじー
サツキとの会話により覚悟を決めた浩介が常闇の神器に触れた瞬間、浩介の意識は闇に飲み込まれてしまう。深淵の闇に堕ちていく浩介、彼の意識は常闇の神器に封印された人格の元へと向かうのだった。
*過去の記憶4~にかけて帝の人格達が登場しています……参考までに。
ではお楽しみください。
果てしなく続く闇の中で引き寄せられるように浩介は落ち続けていく。
そして、その浮遊感の心地よさに彼の意識は闇に溶け込まれていくように朦朧としていた。
言葉では言い表すことの出来ない安堵感に彼は自分という自我を保つことが出来ないでいた。
肉体と意識の別離を感じる…けれど、浩介は自分が自分であることを忘れているわけではなく…彼自身その感覚を説明する事が出来ない。
〔彼奴の時とはだいぶ違うな……誰かいる?〕
前に触れた神器の主とは明らかに違う違和感を覚えながら呟く浩介はふと誰かに見られてるような視線を感じ、思わず眉間に皺を寄せて訝しげな表情を浮かべた。
深淵の闇の中で視線の主を見つけることなど出来る筈もないにも関わらず浩介の意識は誰かが近くにいると認識することが出来たからだ。
それだけでなく奇妙な感覚さえ覚えた。
〔…懐かしいな〕
その感覚に何故か懐かしさを感じたのだ。
浩介の呟きに空間全体が微かに震える。
ーあらっ?あらあら、まぁ~!?少しは記憶があるのかしらぁ~?わ、た、しよぉ~。ア・イ・シ・スよぉ~
同時に意識に語りかけてくる何とも緊張感のない間延びした女性の声が浩介に語りかけてきた。
あまりの場違いな口調に気を削がれてしまう。
浩介は何だか緊張していた自分がアホらしく感じ、無意識に小さな溜息をついてしまった。
〔………はぁ、なんか緊張感に欠けるな。あんたが常闇の神器に納められていた帝の人格なのか?〕
浩介の問いに空間が微かに震えた気がした。
その震えはどこか楽しげに感じるものであった。
ー違うわよぉ~
予想外な答えに浩介の思考が一瞬、停止する。
〔…へっ?〕
思わず間の抜けた声が出てしまった。
この闇に満ちた底無しの空間でこの手に触れた神器は常闇の世界のものであったはずだと記憶を手繰り寄せる。
確かに間違いないと確信した浩介は何か奇妙な違和感に襲われ、その原因が声の主であると結論に至った彼が取るべき行動は一つ……警戒しかない。
〔お前は誰だ?〕
グレ記憶にある常闇の神器に納められている存在と語りかけてくる存在に違和感を覚えたのだ。
気の抜けるような間延びした声に緩んだ緊張感を纏い直し、警戒心に満ちた口調で問い質す。
ーだからぁ~、アイシスって名乗ったわよぉ~
不服そうな口調で非難の声を上げてくる。
そう言えば確かに声の主は最初に名乗っていた。
浩介はグレ記憶を呼び起こしその名を思い出す。
〔…何故、ここにいる?〕
その記憶に浩介は疑念の表情を浮かべる。
そう、この場所にいるはずのない存在だからだ。
ーそうねぇ~…………警告?
しばし考えるような仕草を見せ、アイシスの声のトーンが変化した。その瞬間、浩介の意識にゾクリと寒気が走る。
威圧感とも違う恐怖、先程までの間の抜けた声と相まって更に彼の意識の奥深くに刻み込まれた。
〔……警告、なんのために?〕
警戒心を露わにした声で聞き返す。
ーふふっ、そ~んなにぃ警戒しないでよぉ~。もぅ、可愛いんだからぁ~。ただね……
言葉を切る声の主に焦燥感が増してきた。
〔ただ…なんだ?〕
続きを促すように問いかける浩介に声の主は言葉を選ぶように押し黙り暫しの静寂が流れた。
漆黒の闇のせいで互いの顔色は分からない。
ただ、微かに揺れ動く空間の震えで互いの感情を読み取ることが出来た。
それはグレ記憶の恩恵とも言えるものであった。
その恩恵が警笛を鳴らしている。
一言一句、聞き逃すなと呼びかけていたのだ。
静寂により緊張感が増していく。
だが、そんな重苦しい静寂を破るかの如くアイシスとは別の少女の声が聞こえてきた。
ーアイシス……いい加減にする。
その声は小さくか細いものであったが何故か浩介の意識にハッキリと聞こえたのだ。
それはアイシスに対して微かな怒気を含んでいるが、どこか呆れたような口調にも感じられた。
グレ記憶から存在の正体を確かめる。
〔…この世界の主か〕
口調がグレ記憶の存在と一致した。
この少女の声が本来の常闇の神器に封印された存在である確信した浩介は更に緊張感が増していく。
理由は分からないが、帝の人格の二人が同時にこの場所に存在しているのだから彼の意識は概ね正しい判断だと言えた。
けれど、先の帝の人格であるグレンデル一人に対して浩介は彼の行った試練に打ち負けそうになった……今回は二人、無意識の内にゴクリと唾を飲み込んでしまう。
耐えられるだろうか…恐怖が蝕み始める。
そんな浩介に対してアイシスは沈黙を破った。
その口調は先程と同じで緊張感を欠く間延びしたもので、どこか作為的に感じられて浩介は更に警戒してしまう。
ーあら?あらあらぁ~。トリニティちゃんってば……もう、出てきたのぉ~?残念だわぁ~、もうちょっと遊びたかったのにぃ~。
アイシスが残念そうな声を上げるとトリニティと呼ばれた声の主が少しムッとするのが分かった。
ーここは私の場所…いつまで居るつもり…なの?
微かにだがトリニティから威圧感を感じた。
空間が彼女の感情に応じて揺れる。
けれど、アイシスはどこ吹く風のように…。
ーあらあらぁ~?怒っちゃったのぉ~?
からかうような口調でころころ笑う。
完全に舐めた態度にしか見えない。
ーむぅ…当然。封印されてから…ずっといる。
案の定、トリニティの不機嫌さが増していく。
ーそれは仕方ないじゃなぁ~い。
更に煽るような口ぶりでアイシスが否定する。
その言葉にトリニティは更に苛立ちを深めた。
ー……なにが……仕方ない?私は…不愉快。
周囲の雰囲気が張り詰めていく。
その場は一触即発の空気に包まれた。
ーあら?怒っちゃったの?う~ん、怒らせるつもりはなかったんだけどなぁ~………よしっ!良い子、良い子してあげる!
二人が近付いていくのが何となくだが分かった。
ーうぅ…子供扱い……馬鹿にしてる
会話の流れからアイシスがトリニティを無理やり撫でたのだろうと推測するしかない…なにせ闇の中であるため浩介は会話から憶測するしかなかった。
この時点で浩介は完全に蚊帳の外に置かれており正直、どうでも良い会話にしか聞こえない。
先程のアイシスの言葉が気にはなるものの二人の会話にはそれを忘れさせるようなほのぼの感が垣間見えてしまう。
〔…なぁ?〕
浩介はたまらず二人に声をかけた。
ーうんっ?どうしたのぉ~?あっ!相手して貰えなくて淋しいんでしょ~?しょうがないなぁ~この淋しいんぼぉは~。お姉さんが相手してあげるわよぉ。はぁ~い、顕現しまぁ~す!
完全にお門違いなアイシスの言葉に浩介は脱力感に呵まれてしまう。緊張感を持って二人の会話に聞き耳を立てていた自分がバカらしくなるほどだ。
だが、アイシスの顕現するという言葉に嫌な予感を感じた浩介は声のする位置から取りあえず距離を開けた。そして、それは賢明な判断であると言えた。
なぜなら、アイシスが言葉を発した直後に淡い白光が声のした場所を中心にして周囲を一瞬にして埋め尽くしたからだ。
何が起きたのか思考が追いつかない。
〔…眩しい〕
闇に慣れていた瞳が急激な変化についていけず浩介は咄嗟に視線を逸らし、その白光を回避することを選んだ。
ーうん?大丈夫よぉ~害は無いからぁ~。
浩介の行動に微笑の含まれたアイシスの声が浩介に意識に響いてくる。けれど、今の浩介は警戒心の塊である。
そんな言葉を信用するわけがない。
かなりの距離を取り、警戒心を露わにしていた。
ー……うぅ、私の世界で勝手なこと…しないで。
かなりのお怒りモードのトリニティの声もアイシスにはどこ吹く風の如く聞き流される。
ーさぁ~!私達の姿のお披露目ぇ~。
完全に悪のりしているのが分かった。
〔…なんだか、いやな予感しかしない〕
かなり危機的な状況であると認識しているにも関わらず、意識の片隅では違う意味での不安が湧き上がってきていた。
〔…この世界、大丈夫か?〕
今まで共に旅をしてきた仲間達の奇行が脳裏を過ぎり、彼女らの行動や言動を思い出した浩介は……呆れるしかなかった。
*
徐々に視界が晴れていくと同時に今まで感じていた浮遊感がなくなり足裏に確かな感触を覚えた。
恐る恐る瞳を開き、周囲の状況を確認する。
先程までとは真反対の白一色の空間が存在しており、奥行きも高さもどれだけあるのかすら判断することが出来ないほど遠近感を狂わされる。
そんな広大な空間を見渡しながら浩介は先程まで二人が居たであろう場所に視線を向けた。
〔……あぁ、そう〕
視界に映った光景に浩介は思わず脱力してしまった。なにせ、目の前の状況が予想外すぎたからだ。
目の前に広がる光景はどこかのカフェテラスを思わせるもので、白い空間に足の長い黒色をした丸テーブルと同色の椅子が四脚あった。
その椅子に座り優雅に足を組んで紅茶をすする女性と対照的に怒っているのか頬を膨らませた幼女が向かい合うように座っている。
その姿にどちらがこの世界の主であるかなど一目瞭然であるにも関わらず傍目からアイシスの方が主に見えてしまうのが残念で為らない。
ー初めましてかしらぁ~?
少し小首を傾げながら微笑を浮かべる。
その姿は腰まで伸びた長い黒髪と少し垂れた黒い瞳をしており、悪戯っぽい笑みと共に楽しそうに浩介を見つめてくる。
今の状況を楽しんでいるのが分かる彼女の姿に頬を膨らませて怒りを露わにしていた幼女が諦めたかのように小さく溜息をついた。
ーはぁ……また、先に喋る……私、トリニティ
アイシスを横目にガックリと項垂れながら呟くような声で浩介にトリニティが名を名乗るのだった。
〔えっと、君がこの世界の主で間違いないよな?〕
微笑を浮かべているアイシスをあえて無視して、トリニティに語りかける浩介に彼女は小さく頷く。
ー…そう…私はこの神器に…封印されし魂……。
少し誇らしげに胸を張るが、哀しいことに幼女体型である彼女の胸元は張るほどもない。
しかも、傍に居るのは大人の艶やかさを前面に押し出しているアイシスである……その光景は保護者に付いてきた幼女そのものだった。
心なしか優しげな瞳でトリニティを見つめるアイシスに浩介は思わず視線を逸らし涙ぐむ。
ー…何故、視線を逸らす?…なんだか不愉快。
浩介の仕草に頬を膨らませて抗議するトリニティの姿にアイシスの表情が徐々に蕩けていく。
その瞬間、彼女の姿が視界から消えた。
ーあら、あら、あら~!?う~ん、トリニティちゃんってば可愛いんだからぁ~!もう、ギュッと抱きしめたくなっちゃうじゃない~!
気が付くと対面に座っていたはずのアイシスが何時の間にかトリニティを背後から満面の笑みで抱きしめていたのだ。
ーうぅ……屈辱
突如に背後から抱きしめられてアイシスに成されるがまま頬擦りされているトリニティの表情は涙目で顔を俯かせている。
心なしか身体もプルプルと震えていた。
ただ、そんなことはお構いなしと言わんばかりにアイシスは更に密着し抱きしめてくる。
成されるがままのトリニティの瞳は虚ろ気になりながらウルウルと潤んでおり、その瞳が浩介の視線と重なった。
その視線を逸らすことも出来ずに浩介は額に手を当て諦めるかのように小さな溜息を吐く。
〔はぁ……あ~っと…質問して良いか?〕
正直な話、関わりたくないと思っている浩介ではあったがトリニティの表情に仕方なく話しかけたのだが…。
ーだめぇ~。
間髪入れずに即答されてしまう。
その迷いのない回答に頬を引き詰まらせる浩介を見てニンマリと笑みを浮かべたアイシスは困惑する彼に対して悪戯っぽく口元に指を添えた。
ーだってぇ~、いまトリニティちゃん成分補給中なんだものぉ~!これだけはぁ~譲れないわぁ~。
トリニティの頭を撫でながら頬擦りする彼女の表情は恍惚を通り越して狂喜と言っても良いかもしれない。
誰かに似ている気がした。
〔…あぁ、ニルと同類だな〕
仲間の顔を思い出し苦笑いを浮かべてしまう。
ただ、微かにだが違和感も感じていた。
演技をしている……なんの根拠もないがアイシスの行動に浩介は何かが噛み合っていないように感じたのだった。
読んでいただき有り難うございます
<(_ _)>
なかなか投稿できずに本当にすいません。
こんな筆の遅い作者ですが見捨てずにいて頂けると嬉しいです(T^T)
次回はもう少し早く投稿を……出来るといいなぁ~……いえ、頑張ります
てわは、失礼いたします(o_ _)o




