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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第三章 汝の魂に安らぎを
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其の15 過去の記憶・4

かなり遅くなりスイマセン(o_ _)o


もう少しで過去の記憶が終わります


ではお楽しみ下さい


 その姿にサツキは瞳を見開き驚きの声を上げる。


「…どうしたのじゃ?その顔は?」


 一晩を小高い丘で過ごし、気持ちよく目覚めたサツキはシグルスの腫れ上がった顔に驚いた表情を浮かべた。


「…察してくれ」


 苦笑いしながら一晩、考え抜いて出した結論を呟く。


「イフじゃな…なら、仕方ないのじゃ」


 何かを察したサツキは微かに震えながら頷いた。


 昨夜、サツキが寝入った後にシグルスはイフの手により地獄の折檻を受ける羽目になったのだ。


 サツキを起こさぬように森の中へと拉致されたシグルスは「オレが主のはずなのだが…」と項垂れながら主従関係にあるはずの精霊にボコボコにされていた。


「私の気持ちもしらないで!この、バカ!浮気性!どうせ、私なんて主従契約の精霊でしかないわよ!……このばかぁ!」


 頬を赤らめながら涙目で的確に急所を突いてくる頃には「死ぬんじゃないか、オレ」と朦朧とする意識の中で過去の記憶が走馬燈のように駆けていくのを実感していた。


 ポコッ。


 最後に胸元に当てられた握り拳が彼女にしては柔らかな感触であり、若干飛びかけた意識を総動員して彼女を見つめる。


 彼女は泣いていた。


 彼の胸に顔を埋めて、まるで子供のように泣く彼女の姿が視界に入った。


「…ごめんな、心配かけて」


 その姿にどれだけ彼女に心配をかけたのか悟ったシグルスはそっと彼女の髪に触れると優しく撫でる。


「ひゃあ?」


 ビクッと肩を震わせ奇妙な声と共に顔を上げ潤んだ瞳が彼を見つめる……だが、腫れ上がった顔で自分を見つめてくる彼の姿にイフは堪らず吹き出してしまった。


「ぷっ!?何その顔!?あはははっ!」


 笑い出すイフに彼は呆れた表情を浮かべる。


「…誰のせいだと思ってんだ?」


 少し膨れっ面になりながらも苦笑いを浮かべて彼女を抱き寄せると耳元で囁くように語りかける。


「ありがとう…」


 その言葉に内心は喜びながらも素直に顔に出す事のできない不器用な彼女は少し視線を逸らしながら頬を赤らめてぶっきらぼうに頷いた。


「今度だけは許してあげるわ」


 その言葉にシグルスは彼女をさらに抱きしめる。


 彼の暖かな温もりが彼女を包み込んでいく。

 

 静かな夜更けに二人は語らずとも分かり合える。


 二人はそんな関係でもあった。


「…もう戻るわ、アンタも限界でしょ?」


 苦笑する彼女に微笑み返しながら微かに頷く。


「…だな、さすがに具現化を維持するのはキツい」


 その声は確かに少しキツそうではあった。


「そ、そうよね…だけど」


 続けて言葉が出ず、少し哀しげに俯く彼女の姿に彼は何が心残りなのかは容易に想像が付いた。


 あの苦しみを味わいたくないのだ。


「大丈夫…もう二度と不安にさせない」


 安心させるように優しく髪を撫でる。


「…うん、わかった。またね、シグルス」


 その仕草に無防備笑顔を彼に向ける。


 彼の背中にそっと手を触れると彼は優しく抱きしめてくれた。


 その温もりを感じながら彼の胸に頬を寄せると彼女の身体は徐々に光に包まれていき、やがて光の粒子となり霧散した。


 背中に残る彼女の温もりを感じながらシグルスはしばらくの間、夜空を見上げ感傷に浸る……けれども、腫れ上がった顔では絵にもならないぐらい無様な姿だった。


「…どうするかな」


 目を覚ましたサツキが彼の顔を見て驚く姿が目に浮かぶ。


 どう、説明するのが一番良いのかを模索する。


 それが昨夜のことであり、夜通し考えた末に出した結論がサツキに言った彼の言葉であった。


 幸いなことにイフからのクレームはない。


「正解…なのか?」


 そんな疑問に頭を悩ませながら旅仕度を始める。

 

 着の身着のままのシグルス達は食べ尽くした獣肉を残骸を処理する程度のため、直ぐに旅支度を整えることが出来た。


「さてと、サツキはまずどこに行きたい?」


 目的地を定めるのも旅支度の一つであり、彼女の要望に先ず耳を傾けることから始めようと思っていた。


「…帝、この世界の帝に会いたいのじゃ」


 予想通りだった。


 彼女の願いを叶えるにはそれしかないのだろうと思いながらもシグルスはその難易度に思案を巡らせる。


「…どうするかな」


 帝に会う事はなかなか難関である。


 最初にどの帝(・・・)に会うかだ。


 多重世界において帝は一人しか存在はしない。


 けれど、その人格はその限りではない。


 サツキが求める帝が誰なのか見極める必要がある。


「…妾の力を使えば直接赴く事はできるのじゃ」


「力?…あぁ、あれか」


 地下牢での事を思い出した。


 石壁から顔を覗かせたサツキ、珍しい能力であるのには気付いていたがそれが何なのかまでは想像することが出来なかった。


 あの地下牢は強固な術式で外部からの侵入者を完全に遮断していた事までは理解していた。


 そんな場所に進入できる能力にシグルスは一つだけ思い当たるのだが自分の考えに懐疑的になる。


「…【空間転移】なのか?」


 ボソリと呟くと彼女が頷いて肯定してくれる。


 その仕草に思わず唖然としたシグルスだったが、彼女なら可能かもしれないと考え直す。


 多重世界を創り上げた経緯を考えれば、その力の暴走が原因だと断言できてシグルスの解けずにいた疑問の欠片が全てが繋がった。


「だからか…」


 顎に手を当て考え込むシグルスの様子を心配げに見つめる。


「何を一人で納得しておるのじゃ?妾の力に何か引っかかるモノでもあったか?」


 チラリとサツキを見つめ哀しげな表情を浮かべた。


「いや、自分の中で納得が出来ただけだ。この世界の成り立ち…サツキの力の暴走だろ?」


 彼女はハッとした表情を浮かべ俯く。


 その仕草が全てを物語っている。


「妾の未熟が………」


 言葉にならない小さな声で呟く姿が震えていた。


(…シグルス)


 イフの声が聞こえた。


「顕現せよ、イフリート」


 小さく呟きイフを呼び出す。


 宙に姿を現したイフは彼女の華奢な身体を優しく包み込むように抱きしめる。


「サツキ、貴女一人で背負い込む必要なんてないのよ。私達も背負うわ……だから、貴女一人で抱え込む必要はないのよ」


 慈愛に満ちた声にサツキは瞳を見開く。


「そうだな、サツキはオレにとって命の恩人だ。」


 笑顔を向けるシグルスに視線を向ける。


「じゃが…妾に関われば命を失うかもしれんのじゃ」


 俯くサツキにシグルスは頬をポリポリと掻く。


「っで?」


 その一言に顔を上げマジマジと彼を見つめる。


「えっ?死ぬかもしれんのじゃぞ?」


「じゃあ、死なせなければ良い。簡単なことだろ?」


 単純明快な言葉にサツキはハッとした。


 なぜ自分は死ぬことを前提に行動しようとしているのか…それは無理からぬ事だったのかもしれない。


 今まで、多くの血と命を犠牲にしてきたからだ。


 心の中で諦めに似た覚悟があったのかもしれない。


けれど、彼は生きることを前提とした。


 当たり前のことであるはずなのにサツキは気付くことすら出来ずにいたのだ……それをシグルスは気付かせてくれた。


「ありがとうなのじゃ」


 二人に出会ってどれだけ感謝の言葉を発したのだろうか。心地良い空気を感じながらサツキは心が救われる思いだった。


「じゃあ、行くか?」


「わかったのじゃ!」


 サツキは二人から離れると両手をダラリと伸ばし瞳を閉じると意識を掌に集中させる。


 淡い白光と共に掌から赤と黒の鎖が出現し地を這う蛇のように周囲に広がっていく。


「この鎖は?」


 三人の周囲を取り囲むように鎖が広がっていく様子を見つめながら、その力の強さを感じ取りシグルスは圧倒されていく。


「妾の血脈の力じゃ……」


 意識を集中するため瞳を閉じながら答えた。


 「赤と黒か…帝に近しい者だけが所持することを許される彩色ということは本流に近い血脈…ということか」


 イフと目が合い互いに頷きあう。


「…力を感じるわ。哀しいけれど暖かな温もり…」


 サツキの心を現しているかのような不安定な感覚にイフは彼女を後ろから優しく抱きしめた。


 微かに反応し後ろを振り返ると優しさに満ちた瞳と目が合いサツキも自然と微笑を浮かべる。


 イフの瞳には緊張や恐怖を取り除く力があるのかもしれないと思わせるほどサツキの心は安らいでいた。


「…では行くのじゃ」


 光が強さを増し、その姿を包み込んでいく。


            *


 薄暗い部屋の一室で男は深い悲しみに満ちていた。


 闇に包まれているとはいえ部屋と呼ぶには余りにも広すぎる場所であり周囲の調度品は絢爛豪華な装飾に彩られ部屋の主である男の存在を誇示しているようだった。


 それは男の座る玉座が物語っている。


「…なにゆえ、争わねばならぬのか?」


 自問する男に誰も答えようとしない。


 否、答えられるはずがない。


 その部屋には誰もいないのだから…。


 けれど男は誰かに尋ねるように呟く。


「我の血脈は何故、目覚めぬ…」


 さらに自問が続く。


 己の力に目覚めることなく意識だけが多重世界の今を伝え、男は自分の無力さに心を痛めていた。


 多重世界の統治者達……彼らは男と縁のある者達ばかりであり、彼らの血脈は男から受け継いだ古き力であった。


 だが、彼らが目覚めた血脈の力と今の世界の成り立ちが男を苦悩させ悲観に暮れさせる。


「今の我にこの世界を統べる方法がない……なら何故、我は帝と呼ばれここにいるのだ?民を苦しみから救うことも出来ない無能な我は何のために存在するのだ?」


 両手で頭を抱え踞る。


(しゃーねぇだろ?お前は器なんだから)


 呆れたような声が聞こえた。


「グレンデルか……そうか、我は器に過ぎなかったな…吾は身の丈に合わぬ存在でしかない」


 自らの存在を否定的に嘆く帝にグレンデルは闇から姿を現し、彼の姿に呆れながらボリボリと頭を掻く。


「辛気くせぇなぁ…ったく、これでオレの主人格ってどんだけなんだよ。まぁ、しゃーねぇか。ほら、報告に来たぜ」


 グレンデルが帝の手に触れる。


 淡い光と共に帝の内へと姿を消していく。


「フェンリルの世界か…彼奴の世界も増悪に満ちておるのか?何故にこのような世界になってしまったのじゃ…」


 悲嘆に暮れる帝にグレンデルも溜息しか出てこない。


(全く相変わらずねぇ~)


 別の声が聞こえた。


 少し間延びした眠気を誘う女性の声。


「お主も帰ってきたか……アイシス」


「ただいまぁ~、なんだか帰ってこなきゃって気がしたから帰ってきたわよ~。あっ、そうそうついでに報告もね~」


 漆黒の長い髪を靡かせながら見る者を惑わす漆黒の瞳で帝の前に姿を現したアイシスと呼ばれた女性は帝に跪き彼の手に口づけを交わし彼の内へと姿を消す。


 彼女の記憶が帝の意識に流れ込む。


「意志造りの世界は相変わらずか……彼奴は何を考えているのか。余には破滅を求めているようにしか思えん」


 彼の世界から消えゆく多くの存在、記憶に留める事も出来ずに失われていく人々の苦しみ…否、それすらも感じることなく存在そのものが無かったことになる世界、それが意志造りの世界だった。


 帝には理解できない思考もアイシスの視点で客観的に見れば理解することも出来なくはない。


 理想の世界。


 幾千もの仮初めの世界を選別し最も理想的な世界を構築する事は民にとっても幸福なのかもしれない。


 けれど、人の生き方を一人の人間だけが決めて良いものでは決してないと思いたかった。


 人は困難に立ち向かうことで成長する。


 誰かに与えられた人生では人は堕落するのだ。


 たとえ、間違いで遠回りだとしても経験することによってでしか人は理解できないし未来を見据えることも出来ない。


「…だが、彼奴は自らの世界を望んだのだな」


 帝の言葉にアイシスは苦笑する。


(ええ、自らの望む世界が民を救うと信じているようね~。けど、私の目には民は人形にしか見えなかったわねぇ)


 自らの意志で決めた未来だと信じ込んでいる民達の姿を思い出しアイシスの意識が微かに震えた。


(おっ?珍しいなぁ…お前が他者に興味を持つなんて?)


 グレンデルが珍しそうに彼女の意識を見つめる。


(アンタみたいに人格破綻してないからねぇ~。民の行く末が心配になるのは当然でしょう~)


(アッハハ!人格破綻かぁ、違いねぇな!)


 見下すように彼の意識を馬鹿にすると彼自身も自覚があるのか彼女の言葉を豪快に笑い飛ばす。


 自らの意識内での二人のやり取りを憂鬱な気持ちで聞きながら帝は二人のもたらした世界の記録を見つめ直す。


 血で血を洗う醜い争いは既に三百年もの月日が流れているにも関わらず終息する気配すら見いだせない。


「二人はこの世界をどう見る?」


 帝の問いに二人はしばし沈黙する。


(…お前次第じゃねぇか?)


 簡潔に痛い部分を的確に付いてくる。


(そうねぇ~今の多重世界の均衡は危ういモノだけど切っ掛けさえあれば何とかなる気もするのよねぇ~)


 確かにこの三百年の間では今の時代が最も安定しているかもしれないのは事実だった。


 ただ、それは単純にやり尽くしただけなのだ。


 この均衡を破る画期的な何かがもたらされない限り、今の状況は薄氷の上を慎重に歩いているだけに過ぎない。


 その何かが問題だった。


「余に力があれば……」


 帝が闇の中で苦悶の表情を浮かべる。


(…全く辛気臭ぇな、おい)


 溜息混じりのグレンデルにアイシスも苦笑する。


(まぁ、だから~私達が必要なんでしょ~)


 この多重世界の理を見出し主人格である帝の意志を導くため、それぞれの人格達が統治者達の血脈に介入する。


 それは時に幾千もの命を奪い、時には五護衆なる者達をそれぞれの世界に導き今の薄氷の現状を創り上げた。


 思い悩む帝の意志のために……。


 すでに準備が整っていると言っても良い。


 後は帝の血脈が目覚めるだけだった。


 だが、切っ掛けが見つからない。


「ただいま…」


 少女の声が聞こえた。


 その声はか細く消え入りそうでありながら聞く者達を捉えて放さず、誰もが声の主へと意識を傾ける。


 姿は見えず気配だけを身に纏い帝に近付く。


「トリニティ……汝も戻ったか」


 帝は意識を少女、トリニティに向ける。


「うんっ…報告」


 短く返事をすると帝の手に触れ消え去る。


「常闇の世界、彼奴らは争いを望みながらも血を拒むか……矛盾だらけではあるが……弱者には歴史は刻めぬか」


 弱気者が理想を語っても力がなければ理想に終わる、ならば力を誇示することで理想を現実のモノとする…常闇の世界の思想は実直なまでに正直なモノに感じた。


(まぁ、事実だな…)


 グレンデルが素直な意見を述べる。


(でもぉ~、弱者が正しい場合は?)


 疑問を定義するアイシスにトリニティが呟く。


(…実現できなければ虚構に終わる)


 トリニティが真理を突く。


「なら、世界を安定させるにはどうすれば良い?」


 彼らの問答に帝が投げかける。


(簡単だ…同じ道へと導かせれば良い)


 帝の意識に彼等の問いに答える声がした。


「…お主も戻ったのか?」


 全ての人格が揃う事に驚きを禁じ得ない帝は、声の主に戸惑いを隠せず狼狽した声で問いかけた。


(何故だろうな…呼ばれた気がした)


 その声は自分でも何故この場所に舞い戻っているのか分からず若干、声が震えているのが判った。


「バルドル…汝までも…どういうことなのだ?」


 帝の前に姿を見せるバルドルは自分が何故、この場所にいるのかすら分からないかのように戸惑っていた。


(…判らない。常世の世界にいた筈だが…)


 バルドルの赴いた世界から何故か帝の意識に取り込まれている彼は未だ狼狽していたが他の人格達は何かを察した。


(なぁ、俺達は自分の意志で戻ったんだよな…)


 珍しく自信なさげにグレンデルが呟く。


(…えぇ、そのはずよぉ)


 アイシスも戸惑いを隠せない。


(戻らなくちゃ…と思った)


 トリニティが呟く。


(我は気が付けば汝らの会話に参加していた…)


 バルドルは理解できない様子で周囲を見渡す。


 しばしの沈黙が流れた。


「…一体、誰が?」


 帝の疑問を遮るように新たな声が聞こえた。


「…猊下、何者かが侵入して参ります」


 聞き慣れた従者の声に帝は静かに瞳を開く。


 瞳に映る世界は見慣れた謁見の間だった。


 今までいた意識に構築された薄暗い室内とは違い、その場所は絢爛豪華な体を要していた。


 皇座から一段下がった場所に臣下が並び立ち、帝に対峙するように一人の女が跪き頭を垂れていた。


 何故かこの場に不釣り合いなメイド服姿のためか、周囲にかなりの違和感を与える女に帝は声をかけた。


「ミユルか…顔を上げよ」


 名を呼ばれ顔を上げる。


「…はっ、瞑想中とは存じておりましたが火急の件ゆえにお声をお掛けさせて頂きました」


 跪いたまま顔だけを上げ帝を見つめる。


「よい…っで、侵入者とは?」


 片手を軽く振りミユルに先を促す。


「この謁見の間にて空間の歪みを感じました…数刻後、何者かが現れる可能性が御座います」


 周囲の臣下達から驚きの声が上がる。


 空間の歪み、それは【空間転移】の予兆でありその能力を持つ者は多重世界でも余り類の見ない力であったからだ。


 けれど、その身に希少な能力を要するミユルの発言には信憑性があり誰もが不安を隠しきれずにいた。


「ミユル殿、確かなのですか?」


 白銀の甲冑に身を包んだ近衛騎士の一人が周囲を忙しげに警戒しながら尋ねるとミユルは微かに頷くことで肯定した。


「近衛騎士は周囲を警戒せよ!帝は我が護る!」


 ミユルに尋ねた騎士が他の騎士達に檄を飛ばす。


「猊下、一先ずは安全な場所へと……」


 臣下の一人が恭しく頭を垂れ帝に進言する。


「どこに逃げろというのじゃ?無意味であろう?」


 冷たい視線を発言した者に向ける。


 帝の言葉は的を得ていた。


 空間を自由に行き来できるのであれば、安全な場所などあるはずもなく、その発言が無意味であることは明白だったからだ。


「で、ですが!」


 なおも食い下がる臣下を帝を無言で制した。


「…もう良い、お主らは下がれ。進入してくる者は余に会いに来るのであろう。お主らまで死に急ぐことはあるまい」


 その瞳は先程までとは違い慈愛に満ちていた。


「私もその方が良いかと思われます。もし、猊下に敵対する者であれば容赦は致しません……ゆえに大変、申し上げにくいのですが貴殿らは正直、邪魔でしかありません」


 キッパリと言い切ったミユルに臣下達は口を噤むしかない。何故ならば、彼女の力を知っているからだ。


 帝の世界の五護衆のミユル、彼女が力を解放すれば実際に彼等は彼女にとって邪魔な存在でしかならない。


「我々は残ります!」


 先ほどの近衛騎士の一人が声を張り上げるが、ミユルは微かに溜息を漏らすと彼女らに向けて軽く手を振った。


「邪魔でしかない…」


 ミユルの手の動きに合わせて騎士達の周囲の空間が歪み捩れ、切り裂かれたかのような裂け目が生じ、まるで何者かに引き寄せられるかのように騎士や臣下達が裂け目に吸い寄せられていく。


「ミユル殿!」


 叫ぶ騎士の声を無視しミユルは裂け目を閉じた。


「すまぬな…其方に責任を押しつけて」


 静寂に包まれた部屋で帝が謝罪する。


 彼等には生き延びてほしい気持ちを帝から察したミユルが取った強硬手段は彼等の心に後悔を与えるかもしれない。


 そして、もし帝が命を落とせば彼女は彼等からの怨嗟の念を全て引き受ける事は明白であった。


 けれど、それを受け止めることは彼女自らの意志であり覚悟だと見抜いた帝は謝罪するしか出来なかった。


「いえ、これも仕事ですので…」


 静かに答えるミユルに自らの無力さに打ちひしがれる。


「…きます!」


 ミユルは視線を右の壁へと向け叫んだ。


 その視界の先では淡い白光を放ちながら幾何学の魔方陣が形成されていく様子が見えた。


 その光景を見つめながらミユルは瞬時に対応できるように体制を整えて、帝の正面に立ちその身に殺気を纏わせる。


「…余を導く者か、世界を破滅させる者か」


 淡い白光を見つめながら帝は小さく呟くのだった。


読んでいただきありがとう御座います


ブクマ、評価が増えてました


本当にありがとう御座います


(o_ _)o感謝に堪えません


今後とも筆の遅い、身ですが見捨てずに読んで頂ければ幸いです



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