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そして、彼女に鎖で繋がれ異世界を旅をする! ?  作者: 村山真悟
第三章 汝の魂に安らぎを
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其の14 過去の記憶・3

過去の記憶編まだまだ続きます(汗)


書きたい部分まであと少しです


お楽しみ下さい


 時間が経つにつれ重要なことを思い出した。


「腹減った……」


 今まで忘れていたが地下牢に監禁していた日数を考えれば肉体的に限界を迎えていてもおかしくはない。


 グゥー。


 盛大にお腹が鳴る。


「……捕まえてこようか?」


 何時ものことらしくイフは当たり前のように狩りに行く準備を始める。ただ、魔力の(焼き加減)調整をするだけではあるのだが…。


「…あぁ、レアで頼む」


 慣れているらしく焼き加減だけを注文する。


「うんっ?どういうことじゃ?レアとはなんじゃ?」


 疑問だらけの二人の会話について行けず疑問符が意識に浮かぶサツキにシグルスは苦笑いを浮かべながら応える。


「まぁ、待ってれば分かるさ…じゃあ、頼むな」


「はい、はい、レアですね」


 ふらふらと宙に浮かびながら、やる気のない返事を返して近くの森へとイフが消えていくのを確認するとシグルスは「ふぁあ~」と大きな欠伸をしながら草原に寝転んだ。


「な、なんなんじゃ?いったい?」


 二人を交互に見ながら訳が分からず混乱するサツキにシグルスは我関せずの様子で寝入っていく。


 ポフッ。


 サツキはその場に座り込み首を傾げる。


「意味が分からないのじゃ……」


 二人の行動が理解できないとでも言いたげな瞳でシグルスに視線を向けるが当の本人は気持ち良さそうに眠っている。


「…それにしても良い天気じゃな」


 澄み切った青空を見上げるサツキの頬を撫でる暖かな風の感触に思わず微笑を浮かべた。 


 何時ぶりだろうか…そんな疑問が脳裏に過ぎる。


 今まで、これ程までにゆっくりとした時間が流れるのを感じた記憶がなかったように思い、なぜだか落ち着くことができない。


 不安とは違う感覚。


「久方ぶりの気がするのぅ…」


 自然の風を感じながら静かな時間を甘受するのはどれくらいぶりだろうかと記憶を思い返そうとする。


 けれど、そう考えた瞬間に彼女の思考は意識に潜む幾十もの人格によって遮られ、罵詈雑言を喚き散らしながら彼女を追い詰めていく。


「…やめるのじゃ」


 眉間に皺を寄せ両手で耳を塞ぐ。


 だが、彼らの声は意識を駆け巡り彼女を疲弊させていく。誰にも理解されぬ苦しさに身体が微かに震える。


(身の程を知れ…お前の今は多くの咎人の憎しみの上で成り立っている事を思い出せ…永遠に苦しみ続ければ良い、それがお主にはお似合いじゃ)


 自分で在って違う存在が現実を突きつける。


(…貴女には生きる価値もない……ねぇ?何で生きてるの?お願いだから死んでよ)


 懇願する自分の分身。


(何を求めるの?血と憎しみが貴女なのに?)


 愉しそうに真理を突きつける……自分の声。


(…苦シイ…イタイ…ネェ、タスケテヨ)


 心の痛みに苦しみ自分の罪悪感をさらけ出す声。


 安らぎを得ようとすると過去の過ちを持ちだし、不相応だと非難を向けてくる彼ら……サツキと名付けられた彼女に存在するは幾つもの人格が今の心を糾弾するのだ。


 それらは彼女の本来の人格を蔑みながら意識の奥深くへと追いやり、それぞれが自己主張をして自らの存在意義を求めた。


 世界を変革する者、感情のまま殺戮を繰り返す者、異世界にて真実の心を得る者、そして、全ての罪を背負い苦しむ者……。


 それらは全て彼女自身でありながら今の彼女とはまるで違う存在でありサツキ自身ですら全てを理解する事はできない。


 けれど、今の彼女は彼等の言葉に抗えるモノをシグルスから与えられた……サツキと言う名である。


 名乗る名を得た彼女の意識は彼等を押さえることが出来る。


 徐々に遠のいていく呪詛混じりの声にも今の彼女の心を打ち砕くことは決して出来ない。


 身体の震えが止む。


 意識が鮮明になっていく。


 耳を塞いでいた両手を空高く伸ばし彼女は微笑んだ。


「…ふむ、サツキか。よい名じゃな」


 与えられた名に満足そうに彼女は頷いた。


 澄み切った青空を見つめながら、たとえ僅かな時間だとしても大切にしたいと心から思った。


 ただ……。


 彼女の瞳が曇る。


 過去はやり直せない。


 あの人がいない世界など必要なんてない。


 それだけは全ての人格の共通認識だった。


 今のこの世界を生み出したのは現実を直視できなかった自分が原因であることなのは分かっている。


 あの人の死を認めたくなかった。


 認めれば彼女には何も残らないことを知っていたからだ。


「……妾の罪はどうすれば償えるのじゃ」


 景色が歪んで見える。


 瞳にたまった涙が頬を伝う。


 自分でない自分が引き起こした罪、サツキは自らの不相応な強大な力を扱うことが出来なかった。


 異世界を渡り歩く力【空間転移】それが彼女に与えられた力であったのだが、彼女はその力を制御できずに世界そのものの姿を変えてしまったのだ。


 ただ、暴走する意識をつなぎ止めたのはあの人の優しさだった。幾つもの世界に意識が飛んでいき、それぞれの人格がそれぞれの方法で世界をあるべき姿へと戻そうとした。


 けれど、その行為が世界に混乱をもたらした。


 そして……ある人格があの人を殺害した。


 抗いがたい心の闇が行動を起こしたのだ。


 今でも瞼を閉じればあの人の優しさに満ちた瞳と哀しげな表情が鮮明に思い起こされる。


 そう、あの人の名は………帝の君。


 今の帝とは違う世界に存在した彼女が最も信頼し唯一、心を許した只一人の相手。


 けれど……彼はもういない。


 この多重世界の帝は彼女の知る帝ではない。


 だが、彼女は微かな希望を求めこの世界に降り立った。なぜなら、この世界の帝にあの人の面影を垣間見たからだ。


 帝の魂は相応しい器に収まる。


 この世界の帝の肉体と精神は残念ながらその魂を受け入れることの出来るだけの器を持ってはいなかった。


 けれど、彼は彼女と同じように個別の人格が産みだすことにより足りない器を満たす術を身に付けた。


 それぞれの人格が役割を持ち、主人格に集約することで器の代わりを成し遂げたのだ。


 探求心、慈愛、憤怒、輪廻、それぞれの人格が血脈として統治者達の力となり争いは止む術を見失っていた。


 彼に会えば救われるかもしれない。


 そんな思いに囚われた彼女はこの世界を渡り歩いていた時、意識に鮮烈に訴えかける声を聞いた。


 その声からはかつての自分のように愛しき者を救いたいという強い思念が感じられ彼女の心を揺り動かしたのだ。


 それがイフリートであった。


「お主は愛されておるのぅ……」


 小さく呟いた声にシグルスは瞳を閉じたまま「…まぁね」と答えながら口許を緩ませる。


「起きておったか…」


 慌てて頬を伝う涙を袖で拭う。


「う~ん、これでも女の子に横で泣かれてる状態でグースカと寝れるほど俺の神経は図太くないからな……よっと!」


 勢いよく起き上がるとサツキの目線に合わせて優しげな微笑を浮かべながら、そっと彼女の頬を伝う涙を拭ってやる。


「まぁ、事情は何となくだが理解してるつもりだ。サツキが求めるなら俺は力を貸してやる……どうする?」


 シグルス自体は元から手助けをするつもりでいるのだが、サツキの意思に委ねてみたい欲求に駆られ彼女の瞳を見つめる。


「……を…貸して…じゃ」


 俯きながらか細く呟く。


「うんっ?」


 聞こえてはいるが再度、聞きなおす。


 彼女の意思をハッキリと聞きたかった。


「力を貸してほしいのじゃ。妾は償わなければならないのじゃ、妾の過ちを…だから力を貸してほしいのじゃ」


 両手を握りしめ瞳をぎゅっと閉じて叫んだ。その仕草は彼に拒否されるのが怖くてまともに顔を見れなかったからだった。


 どれくらいの沈黙だったのだろうか。


 ほんの刹那であったはずの沈黙が怖ろしかった。


 拒否されるかもしれない…そんな考えが脳裏を過ぎりながらも恐る恐る瞳を開くと、そこには優しげな表情で見つめる瞳があった。


 ポンッ。


 軽く頭に手を置き、優しく彼女の髪を撫でた。


「わかった、力を貸そう」


 その言葉に瞳を見開く。


 信じられなかった。


「まことか?」


 思わず聞き返してしまう。


「あぁ、もちろん」


 優しげな微笑でコクリと頷いてくれる。


「ありがとうなのじゃ!」


 満面の笑みを浮かべながらサツキは彼に抱きつき、何時ぶりか分からぬ喜びが身体から滲み出てくるのを感じた。


 嬉しかった。


 その感情だけが彼女の心を暖かく包み込む。


 この瞬間だけ彼女の心が救われたのかもしれない。悩み、苦しみ、打ちひしがれた彼女を彼が優しく包み込んでくれたのだった。


            *


 ドスンッ!


 抱きつく二人の目の前にこんがりと焼けた獣肉が投げ落とされ、ビクッと肩を震わせシながらグルスは宙で仁王立ちするイフを見上げた。


「…手の早いことで」


 ジト目で見下ろすイフの瞳は……怖かった。


「…誤解だ」


 自分に抱きついているサツキの身体をそっと離し、頬を伝う冷や汗を拭うとイフに引き攣った笑顔を向ける。


 間男の体を拭いきれない。


「冗談よ……食事にしましょうサツキ」


 視線を逸らしサツキに笑顔を向けながら獣肉の部位を切り取り綺麗に盛りつけると彼女に手渡した。


「…あ、ありがとうなのじゃ」


 若干の恐怖を感じながら差し出された皿を手に取りマジマジと香ばしい香りを立ち上らせる薄くスライスされた肉を見つめていた彼女は恐る恐るそれを口に入れる。


 口に入れた瞬間、溢れ出す肉汁と溶けていく食感にサツキの瞳は大きく見開き驚いた表情でイフを見つめた。


「美味しいのじゃ!何なのじゃ?この肉は!?口に入れただけで溶けて無くなっていくのじゃ!これが、これがレアなのか?」


 驚きながらもその手は次々と皿の肉へと向かい、口に含むたびに手足をバタバタさせて幸せそうな笑顔で喜んでいる姿にイフも思わず笑顔が溢れる。


「まぁ、レアってのは焼き方で肉の名称じゃないんだが……イフ、俺にも切り分けて……うっわぁ!?あっぶねぇ~」


 ザクッ。


 シグルスの足下にナイフが突き刺さる。


「勝手にスライスして食べれば?」


 冷たい視線がシグルスの身体に突き刺さる。


「はい、はい…ってか丸焦げじゃないか……」


 サツキに切り分けた部位以外は全て黒焦げで、一部は炭化している箇所すらあり、シグルスは溜息混じりに食べれそうな部分を切り分けて口に放り込む。


「おっ!?なかなかイケるな」


 確かに口の中で一瞬にして肉が溶けていく。


 黒焦げの部分はさすがに食べれないが十分に満足のいく食事を堪能できて思わず頬が緩んでしまう。


 美味しい食事は人を幸せにする。


「良い焼き加減だな……美味いよイフ」


「あっそぉ…良かったわね」


 その言葉に少し頬を赤らめながらもイフは視線を合わせようともせずに素っ気ない返事をする。


(う~ん、まだ怒ってるなぁ……面倒くさい)


 心の内で思わず呟いたシグルスは直ぐに自分の浅はかさに気づき後悔するが後の祭りだった。


 イフの頬がピクッと痙攣する。


 契約した精霊とは会話をせずとも意識内で互いの感情をやり取りできることを忘れていた。


「…ふぅ~ん、面倒くさいのぉ?」


 冷たい殺気を感じながら口に含んだ肉はしっかりと飲み込んで今度は恐怖にゴクリと生唾を飲んだ。


(…死んだな、オレ)


 ゆっくりと瞳を閉じる。


 人間、諦めが肝心だ。


 死の制裁を覚悟した。


 だが、何も起こらない…。


 瞳を恐る恐るを開く。


「…馬鹿じゃないの?」


 思ってもみなかった言葉を投げかけられる。


 茫然とするシグルスにイフはサツキに笑顔で接しながら彼の意識に冷たい声で呟いた。


(憶えておきなさいよ……)


 背筋が凍り付くのを感じた。


 どうやら、イフはサツキの前では何も(制裁)しないようだった。ただ、シグルスを見つめる瞳は殺意と怨念に満ちており彼の心中は穏やかではない。


 サツキの目の届かない場所での地獄を想像して、主でありながらもイフに頭が上がらない彼は恐怖のどん底に叩き落とされている。


「サツキ、傍を離れるな…オレの命に関わる」


 シグルスの真剣な瞳を不思議そうに見つめながらも、その手は肉を口に放り囲む動作を止めることはなかった。


「うむ、モグモグ、分かっ、モグモグ、のじゃ」


 喋るか食べるかどちらかを選べと言いたかったが、その問いには間違いなく食べる方を選択することに気づき、彼は最後の晩餐となるであろう食事を沈痛な面持ちで味わうのだった。

読んでいただきありがとう御座います


ブクマ、評価ありがとう御座います


読んで頂けるだけでもありがたいです


今後とも、よろしくお願いします。


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