其の16 真性どSは腹黒だった
リアの母親……腹黒です
娘もドン引きです
そういったお話です
エルズの言葉にセレスは恍惚としていた表情が一気に青ざめていくのが判った。
「エルズ様、いまなんとおっしゃいましたか?」
青ざめた表情を浮かべエルズの方へと視線を向ける。
「うん?セレスより上位の精霊といったけど?」
悪戯っぽい笑みでセレスを楽しそうに見つめる。
「わたくしは精霊界の皇女として……」
自分の身分を自分自身で確認しながらもセレスは何かに気付き顔面が蒼白になっていく。
「……ちなみに雅様はなんの精霊でいらっしゃいますか?」
自分の憶測が間違いであってほしいと淡い期待を込めながらエルズに問いかけたが彼女の笑みで察してしまった。
「うんっ?あぁ、雅は【八咫烏の太刀】の化身だよ。ちなみに一応だけど主は……ってか所有者は俺かな」
雅の主の浩介が申し訳なさそうにセレスに答える。
「……【八咫烏の太刀】って神剣ですわよね」
浩介はワナワナと震えるセレスに頷く。
「幾千年もの月日を存在し続ける御方……ふぁおぅ!?」
セレスは頬に両手を当て奇妙な叫び声を上げる。
可愛らしい顔立ちが失意のどん底へと落ちていく。
彼女は自分がしでかしてしまった事の重大さに気付き、絶望に満ちた虚ろな瞳を雅へと向けた。
涙目でニルに縋りつく雅の姿を捕らえたセレスは自分のしでかした不始末に対処すべく頭をフル回転させる。
そして、出た結論は額を床に擦り付けながら平伏す行為……浩介がもっとも得意とする謝罪の手段…土下座だった。
「申し訳ございませんでした!雅様がそのような高位な存在とは露知らずご無礼を働き不徳の致すところに御座います!」
傍から見れば年端もいかぬ少女の土下座は虐待以外何物でもないのだが土下座する少女は数百年生きている精霊であり、この場にいる者の中でトップ3に入る年長者である。
セレスの行動に雅は涙目でキョトンとする。
精霊は存在した年月が上下関係を生み出す。
セレスは精霊界の皇女であるのかもしれないが、セレス本人は精霊として生を受けて数百年しか存在していない。
片や世界は違うとしても神剣と呼ばれる【八咫烏の太刀】の化身、雅は数千年の時を生きている。
どちらが上位の存在かは明確だった。
精霊の世界では存在した年月がそのまま格として扱われる。
セレスと雅とでは格が断然に違うため、彼女のしでかしたことは精霊の世界では万死に値するものだった。
「ふふふっ、雅ちゃんはどう対処するのかしらね」
楽しそうなエルズの笑みに皐月と浩介はドン引きする。
「悪魔のようだわ……」
皐月の呟きに「…お前も変わらないだろ」と浩介は心の中で呟きながら『人の振り見て我が振り直せ』の名言を二人に送りたい気持ちになる。
「セレス様は謝罪されていますがどうされますか?」
ニルの言葉に彼女に抱きついたまま土下座するセレスを涙で見つめながらプイッと視線を逸らす。
「うぅ~、お主は妾に近付くなぁ!妾は、ひっく、妾は、うっぐっ……お前なんか大っ嫌いなのじゃ!うわ~ん!!」
とうとう泣き出してしまった雅をニルが優しく撫でながら「よし、よし、怖かったですねぇ」などと慰めてはいるが、内心は「…ヤバいわ…どうしましょう」とかなり焦っていた。それもそのはずである。
最終的に雅にトラウマものの恐怖を経験させたのはセレスの性癖の説明を放棄したニル本人だったからだ。
「あらあら、どうしましょうか?雅ちゃんの主殿」
頬に手を当てエルズは困ったような表情を浮かべる。
けれど、口許はにやけていた。
「はぁ…俺に聞くなよ。ったく、仕方ないな」
ため息混じりに立ち上がった浩介を背後からエルズがそっと耳元に唇を寄せ、囁くように彼に助言する。
「精霊界に恩を売るチャンスよ……」
その言葉に浩介の背中に寒気と同時に鳥肌が立つ。
「どんだけ人でなしなんだよ……」
エルズの微笑をジト目で見つめ彼女の腹黒さに呆れる。
「だ、大嫌いでご、ございますか?わた、わた、わたくしは一体ど、どうすれば?」
顔面蒼白でワナワナと震えながらセレスが怯えていた。
今にも卒倒しそうな顔で、泣きじゃくる雅を見つめ狼狽えている彼女に浩介が近付くとハッとした表情を浮かべる。
「あぁ、雅様の主殿ぉ~わたくしはどうすればぁ!」
先ほどまでの見下したモノではなく、すがるような瞳で見つめてくる痛々しい眼差しに浩介は憐れみの表情を浮かべた。
「何とかしてやるから、そんな顔をするなよ」
叱咤されると思っていたセレスは呆然と浩介を見る。
「…えっ?」
一瞬、何を言われたのか理解できていなかった彼女の瞳が徐々に生気を取り戻していく。
「お願い致します!わた、わた、わた、わたくしは……」
狼狽えすぎて言葉にならない。
取りあえず浩介は泣きじゃくる雅に声をかける。
「雅、こっちにおいで」
浩介から呼ばれニルにしがみついていた雅が振り返る。
「うっ、ぐぅ、ひぃ、あ、あるじどのぉ?うわ~ん」
浩介に飛びつくように抱きつき、また泣き出す。
気のせいか自分の手を離れたニルの表情が心底ホッとした表情をしたように感じた。
最近では目元だけで彼女の感情がある程度まで判るようになっていた。
「雅、彼女を許してやってくれないか?彼女も悪気はなかったんだ…ちょっと度が過ぎたのと放棄したのは問題だが」
その言葉に若干、一名ビクッと肩を震わせたのが視界に入ったが「…まぁ、少し反省をね」と敢えて無視する。
「……じゃが、妾は怖かったのじゃ!」
涙目でセレスをキッと睨む。
「申し訳御座いませんでしたぁ!わたくしに出来ることは何でも致しますから!どうか、どうかお許し下さい!!」
更に額を床にこすりつけるセレスの背後から不敵な笑みを漏らしながら近付いてくる腹黒女の姿があった。
「ふふふっ、何でもと言ったわねぇ?」
その言葉を待ってたとばかりにエルズが微笑みながらセレスの背後に不気味に立つ。
「…うわぁ~、母様サイテだぁ。セレスってば災難だねぇ」
その表情にリアは心底、不憫そうにセレスを見つめる。
けれど、今のセレスには正常な判断の出来る状態ではなくエルズの言葉にウンウンと頷いている。
今は自分より高位の存在である雅から許しを貰うことが彼女にとって何よりも優先する事柄でありエルズの思惑に気付くはずもない。
「…そうねぇ、なら浩介と主従契約を結びなさい」
「…えっ!?」
エルズの提案に思わずセレスの身体が硬直する。
精霊にとっての契約は大きく分けて主従契約と使役契約の二種類が存在する。
使役契約は一時的に契約した精霊の力を借りる際の契約であり精霊と契約者は同等もしくは精霊の方が上位の立場となる。
けれど主従契約は字の如く、契約者を主人とし契約者が破棄するか死ぬまで従う契約であり精霊界の皇女であるセレスと契約するということは全ての精霊を扱えることになるのだ。
状況を飲み込めない浩介はキョトンとする。
けれど契約の意味を知る皐月とニルはリアと同じ瞳で腹黒女に嵌められたセレスを不憫そうに見つめる。
「雅ちゃんの主である浩介と主従契約を結べば必然的に彼の助けになるわ。雅ちゃんも主殿のためになる子を嫌いになったりしないわよねぇ」
優しく雅に語りかける瞳は有無を言わさぬ力があった。
けれど、雅は半泣き状態で浩介を見つめる。
「…主殿が良いのであれば妾は此奴を許す」
雅の「許す」の言葉にピクッと反応しセレスは浩介を見つめるが彼女の内心は複雑であった。
「…出来れば使役契約のほうで…ひぃ」
エルズの笑顔にセレスが怯える。
表情は笑顔だが目が笑っていない。
「主従契約でお願いします!」
額を床にこすりつける。
「契約の意味が判らないけど雅はセレスを本当に許してあげるんだな?もちろん、仲良く出来るんだな?」
チラッとセレスを見て「うぅ~」て唸るが主である浩介の言葉に小さく頷いて答える。
「主殿の為になるなら許してやるのじゃ」
「本当にございますか!?」
ガバッと顔を上げたセレスの額が少し赤くなっている。
そこまで必死だったのかと浩介は苦笑する。
「うむ、仕方ないのじゃ……ただし、あのようなことは二度としないと誓うのじゃ!妾は本当に怖かったのじゃ!」
恐怖を思い出し、涙になる雅にセレスは何度も頷く。
「いたしません!二度とあのような振る舞いはいたしません!今後は浩介様のお役に立ってみせます!」
その瞬間、腹黒女エルズは満面の笑みを浮かべた。
「…うわぁ~、精霊の弱みにつけ込んでサイテ~」
「あれは、ひどいですね……人のこと言えませんが」
「母様……サイアク」
エルズを批難する三者三様の声を心地よさそうに聞きながら彼女は微笑むのだった。
読んでいただきありがとう御座います。
ブクマ、評価等いただければ嬉しいです。
今後も宜しくお願いします。




