あ、あんたは……ッ!
「さぁて、今度はどうしてぼくちゃんと遊ぼうか? ねえロキ」
「味方を犠牲にした……?」
一体どういう事?
「アルスはあんたの仲間じゃなかったの?」
「べつにぃ、筋肉男に抱かれる趣味なんてないんだよねぇぼくちゃんは」
それにしてもさっきからロキ先輩、クロウン先輩、あたしの連携で潰しにかかっている筈なんだけど、全て紙一重で回避されているんだよにゃー。
「ロキ先輩、あのロリっ娘は先輩の知り合いなんですよね? 何か手立てはないんですか?」
「俺が一年の時の先輩だったからな。詳しいことは知らねぇよ」
「んんー? ぼくちゃんの秘密を知りたいー?」
ルナはそれまでケラケラと笑っていたのをやめると、ロキ先輩の目をじっと見つめ続ける。
「んふふー」
ロキ先輩はルナから見つめられるやいなや、まるで石にでもなったかのようにその場から一歩も動けずにいた。
あたしとクロウン先輩は必死でロキ先輩に動くように言うが、肝心のロキ先輩の耳には届いていない。
「ケラケラケラ……クロッキーの秘術がまさか吸血鬼になっても使えるとは思っていなかったからねー」
「ッ! クロッキー……そういうことね!」
「クロウン先輩、何か分かったんですか!?」
「今すぐ彼女を攻撃するのよ! できるだけ速い方程式で!」
だったらこれしか能が無いからにゃーあたしは!
「【電磁】=【直行】!!」
今度こそ!!
「ッ!?」
ルナはあたしが撃つ直前に気づいたみたいだけどもう遅い!!
ロキ先輩の眼前まで迫った所で、ルナはその身体を光の柱に貫かれ、その場に肉塊と共に崩れ落ちた。
「ち、ちょっと……卑怯じゃ、ない、の……」
「アラ? 貴方の方が随分とずるいわよ」
首だけになってもなお喋りつづけるルナと、ルナの視線が外れた途端にハッとした表情で我を取り戻すロキ先輩。
そしてクロウン先輩は首だけとなったルナと話をしているものの、視線を決して合わせようとはしなかった。
「――ッ!? 俺は……一体……?」
「“クロッキーの邪眼”。まさかミイラ取りがミイラになっていたとはねぇ……アタシとしては複雑だわぁ」
「クロッキーの邪眼? 何ですかそれは?」
クロウン先輩はあたしの方を振り向くと、そのクロッキーの邪眼について説明を始めてくれた。
「七曜の魔法家の一つ、クロッキー家。通称“吸血鬼狩り一家”」
「吸血鬼狩り……?」
「そうよ。吸血鬼の特徴は三つ。一つ目が常人外れの肉体。二つ目が不死。そして三つ目が――」
クロウン先輩は少し言葉を溜め、そして同僚であるロキ先輩の方を向いてこう口を開く。
「――魅了ってワケ」
「……何が言いたい」
「さっきの貴方がイイ例だったわぁ。じっと見つめられ続けて思考を奪われ、何もできずに血を吸われる。それが吸血鬼にとっては最も安全な食事法だもの」
それとクロッキーの邪眼にどんな関係があるの?
「クロッキーの邪眼は、吸血鬼に対抗すべく編み出された技術なの」
そう言って虫の息となっているルナの瞳をクロウン先輩は抜き出そうとしたが――
「止めろ!!」
「何よロキったら。この子はもう貴方の知っているルナ先輩じゃないわ」
「分かっている……だが無意味に傷をつけるな」
ルナ先輩じゃないと分かっていても、ロキ先輩は彼女を庇おうとしている。あたしはその姿に何も言えずにいる。
「……貴方も変に強情よねぇ」
クロウン先輩は手を引くと、見本が無い事に愚痴をこぼしながら説明を続ける。
「クロッキーの邪眼。それは目の水晶体にとある魔導方程式を示す立体型魔法陣を精製して作りだすのよ」
「どういうことです?」
「具体的には知らないけど、吸血鬼でいうところの魅了に近い魔導方程式を仕込んでいるの」
「それってつまり、吸血鬼を魅了し返すってこと?」
「簡単に言えばそういう事ね。だけど短時間目があっただけでも相手の視界や反応を鈍らせることができるわ」
だからあたしの【電磁】=【直行】も……?
「……この子、異様に貴方に執心していたみたいね」
すでに息絶え絶えになりつつあるルナだったけど、か細い声で何度もロキ先輩の名を呼んでいるのが聞こえる。
「ロ、キ……ぼく、ちゃんが……守って……」
「…………」
「……止めを刺すのよ、ロキ。吸血鬼にクロッキーの邪眼なんて、鬼に金棒よ」
「分かっている」
しかしロキ先輩はいまだ決心がついていないのか、ルナに手を出すことなく背を向ける。
「……クロウン」
「何?」
「……俺にはできない」
「何を言っているのよ!? 貴方――」
「お前が始末をつけてくれ」
ロキ先輩はそう言ってその場から一歩、また一歩と離れてゆく。
「……分かったわよ」
クロウン先輩がそう言って、右手に【爆炎】の呪文を顕現させたその時――
「――マジか―、吸血鬼二体でダメかー。まあ分かっていたけどやっぱ強くし過ぎたわ」
あたしは速攻で声のする方を振り向いた。するとそこには――
「どうよ? 西条薫。ここいらで少し調整を受けるべきじゃないか?」
そこには男だった時の“俺”の姿が、気さくそうに立っていた。




