すいません変態がいるんですけど!
「ミクムは早く終わらせて眠りたいのに……」
時々通り過ぎるライフルを持った軍人さん以外に、街を歩く人を見かけることはできなかった。
空に浮かんでいる三日月は、あたし達に向かってまるで無意味な事をしているとでも言いたそうに、笑っているように見える。
そんな中ミクム先輩は右腕で自分の胸を支えながら、さっさと先を歩いている。
「ミクム先輩、歩くの早いですね」
「…………」
あたしの言うこと完全無視かよ。アリスが少し遅れてついて来ているから言っているってのに。
「…………」
「先輩――」
「しー、黙ってて」
あたしの前に手をやって言葉を阻むと、ミクム先輩はたった一点をじっと見つめている。
「……隠れてないで出てきたら?」
「おやおや、今宵は随分と素晴らしい夜になりそうですねぇ……」
月夜をバックに浮かび上がる影。建物の屋上に立つ一人の男。マントを風になびかせ、筋肉モリモリマッチョマンの――
「――変態がいるー!?」
「失敬な! 我こそが血吸いの鬼……否! 究極の美の集大成!」
屋上から降り立った変態は月光の下その素顔をさらしだす。
「我が名はアルス! アルス=ファーカインド!! “システム”の名の下
復活せり!!」
ダンディな声と顔はいいけど、スーツ越しのぱっつんぱっつんの筋肉のせいでイマイチ恐怖感がにゃー。
それよりも――
「えーと、どこからツッコめばいいのかにゃー?」
システムの下の復活っていうのが個人的には引っかかるんだよにゃー。
「お嬢さん方、今宵は我が血肉となりにわざわざ歩き回るとは……こちらから出迎えることが出来なかったことが申し訳ない――」
「どうでもいいけど、こいつを倒せば終わるんだよね?」
ミクム先輩は既に左手が指パッチンの体勢に入っている。
「【烈風】=【斬撃】」
「っ!?」
ミクム先輩が指をパチンと弾いた瞬間、カマイタチがまっすぐにアルスの方へと遅いかかる。
「がぁっ!?」
なんとミクム先輩が魔法を一発放っただけで、アルスと自信満々に名乗っていた吸血鬼はその場で胴体とお別れをしてしまい、その場に二つになって倒れた。
「終わるの早ッ! てか弱くない?」
「ぼ、ぼくは早く帰れるならいいです……」
「はい終わり。ミクムは帰って寝る……」
ミクム先輩がそう言ってあくびをして、死体に背を向けたが――
「フ、フハハハハハッ!!」
完全に油断していたミクム先輩の背後に、死体となっていたはずのアルスの上半身が襲いかかる。
「貴様の血で修復せざるを得ないッ!!」
「キモッ! やっぱ粉微塵にしないと!!」
詠唱破棄からの【電磁】=【直行】!!
「ぬぅっ!?」
とっさのことだったけど、あたしはミクム先輩のすぐ横にレーザーを撃ちだして何とかアルスを牽制することに成功した。
「あの小娘……普通の人間が十二階層の魔導方程式を簡単に撃てるはずがない……一体何者だ……?」
「先輩大丈夫ですか!?」
「ウソ……? 真っ二つにしたでしょ?」
ミクム先輩は自分が倒したはずの相手が生きていることに、目を丸くして驚いている。
「あ、あのー、クロウン先輩が言っていたじゃ、ないですか?」
アリスは冷静にクロウン先輩が言っていた、吸血鬼には火曜と日曜の魔導方程式しか効かないということを改めて告げる。
「ふーん……ミクムは木曜しかできないよ」
「いやいやいや! 自信満々に言わないでくださいよ!?」
だったらあたしが頑張るしかないじゃないですか!
「【電磁】=【発散】!!」
電磁レーザーをばら撒いて一気に決着をつけようとしたけど、相手は無数の蝙蝠に化けて散らばって回避していく。
「【電磁】=【直行】に【電磁】=【発散】……もしや、あの方のお告げはこの小娘を指していたとでも言うのか……?」
「やい筋肉野郎! あたしの魔導方程式からちょこまかと逃げるな!」
「くっ、一旦合流するしかあるまい!」
合流? 他にも吸血鬼がいるってこと?
「逃がす訳ないじゃん!」
徹底的に追ってぶっ飛ばしてやるんだから!
◆◆◆
「ガハッ! ……どうして、そんな馬鹿なッ……こんな話があってたまるかッ!!」
――一方ロキ組はというと、たった一人のゴスロリ服の幼女の前に誰も太刀打ちできずにいた。
「何だってんだよ……そのふざけた格好はどういう意図だァ!?」
「ケラケラケラケラ……久々に会えたのに先輩に対する態度がなっておらんではないか……ねぇ、“泣き虫ロキ”」




