学外管理官?
「――ふう、何とかあいつらを撒けたってかんじ?」
あたし達は今、ガウンタウンの隠れ家っぽい所に逃げ込んでいる。狭い部屋には魔導方程式に関する本が散らばり、天井の電気の切れかかった明かり部屋を頼りなく照らしている。
「……どうやら、行ったみたいだな」
「ハァ、ハァ……あの、貴方は……?」
あたし達を救ってくれたのは、ボロ布に身を包んだ褐色の女の人だった。さっきの輩からの逃げ方も手慣れた雰囲気みたいで、恐らくここの住民なんだろうけど……。
「どうしてあたし達を助けてくれたんですか?」
さっきまでのぞき穴を除いて外の様子をうかがっていた女の人は、扉に【鋼鉄】=【錬金】=【錠前】をかけて頑強に鍵を閉めると、そのままあたし達の方を振り向いてこう言った。
「お前達の制服、七曜魔導学院の制服だろう?」
「そうですけど……」
「ならば、私の管轄下にあるということだ。私はここガウンタウンに学生が迷いこまないか、もしくは自ら足を踏み入れたりしないかを見張る番人だ」
「つまり、学校の先生ってことですか?」
「正しくは、ただの事務員だ」
そう言って褐色の女の人はボロ布を外し、部屋にかけてあるローブに身を包む。
「私の名はガルーダ。ガウンタウン担当の学外管理官だ」
ローブに身を包んだことで先ほどまでのスラム出身のような雰囲気ではなく、正規の管理官としての雰囲気が醸し出され始める。
ってか学外管理官とかそういうの初めて聞いたんだけど。
「学外、管理官……?」
どうやらルヴィも初耳みたいで、学外管理官についてガルーダ先生にそのまま聞き返している。
「簡単に言えば、生徒指導のようなものだ。学内の問題行動は学内の先生方が、そして学外では我々学外管理官が管理することで、学生が悪の道に走ったりしないようにするのが目的だ。生徒会は学内の先生と、学外管理官の中間に値する。具体的には庶務のキリュウ=クナシダが行っている」
「キリュウ先輩が……」
あたしはキリュウ先輩の名前を聞いて、少し心を痛めてしまった。
「ん? キリュウの事を知っているのか? ならば話が早い。私も久方ぶりに顔を見るだろうし、急いで迎えに来てもらおう――」
「キリュウ先輩は、退学しました……」
「なっ!? どういうことだ!?」
先輩が退学したことをルヴィが伝えると、ガルーダ先生はまさに寝耳に水といった様子で驚いていた。
「詳しく聞かせてもらおうか」
「はい、実は――」
あたし達二人は学校に《悪魔の右腕》が襲ってきた事も含めてキリュウ先輩の身に起きた事、そしてキリュウ先輩がもう魔導師として生きてはいけなくなったことも全て伝えた。
「……許せん……あの子は実直な子だった。いつか軍に入って、マギカを守る立派な魔導師になると言っていたのに……」
「その後アレク先生が自分の直属の軍下においてくれているとはいえ、やっぱりひどいよね……」
「…………」
「それで、ルヴィといったか。お前は随分と自分を責めている様子だな」
「……はい」
確かに改めて思い返せばルヴィを狙ってきた奴等がキリュウ先輩を手にかけたんだし、ルヴィが気を止むのも無理はないかも。
だけどルヴィは何も悪くないし、悪いのは《悪魔の右腕》だけ。
「ルヴィ。今回の件はお前のせいじゃない」
「……それでも、自分が悪いとしか思えません」
暗い表情を浮かべているルヴィだったけど、あたしはルヴィの肩に手を置いてこう励ました。
「それもこれもひっくるめて、全部ぶっ飛ばすんでしょ。あたし達」
「……はい!」
「それにしても《悪魔の右腕》か。私も独自に調査を進めているところだが……」
ガルーダ先生もこのガウンタウンに潜んでいるとまでは突きとめているらしいけど、そこから先の最後の詰めができていないみたい。
「だったら、この人に聞こうよ」
「そういえば、その男は誰だ?」
ガルーダ先生の問いかけに対し、あたしは元気よくこう答えた。
「はい! 《悪魔の右腕》の人です!」




