やーん先輩がいじめてくるー!
寮内部も西洋風の装飾で彩られていて、あたしはとても気に入った。
その後もつつがなく寮の案内が終わるとそのまま本日は終了、残りは自由時間や実際に今の時間に行われている授業の見学ができるようだ。
「どうしよっかなー」
あたしは両手を頭の後ろにやりながら、学校の敷地内の芝生をトコトコと歩いていた。
授業見学、と言われてもいきなりハイレベルな授業になるだろう。いくら十六階層撃てるとはいえあたしの専門書だけの知識という付け焼刃ではどうも自信がなくなる。
「うーん……」
「薫さん、授業見学には行かれないのですか?」
「いやいやー、ルヴィの渡した参考書でしかあたしは魔導方程式を理解できていないから、もっと基本的な事でいいからササッと知りたいなーって思うんだよねぇ」
「でしたら魔導学史を学んでみては? この科目ならば魔導方程式の歴史も知る事ができる上、基礎基本もそれとなく復習されるみたいですから」
ルヴィはそう言ってさきほど渡された授業パンフレットのとあるページを開いて見せてくる。
「おおっ! うってつけの授業じゃん! 見にいこ見にいこー!」
あたしはそう言ってルヴィを誘ったが、ルヴィの方はというと別の授業の方に興味があるようだ。
「この水流制御学が、今の私の魔導方程式に必要だと思うのです。ですから――」
「そうなの? じゃあ少しだけ別々になるね」
「申し訳ありません。私もそちらに行きたいのはやまやまなのですが――」
「いいっていいって! じゃ、放課後までまたねー!」
あたしは校舎の方へと走りゆくルヴィを見送った後、自分もまた目的地へと向かおうと足を一歩前へと進めようとした。
すると――
「おや? 貴方は先ほどの集団の中にいらっしゃいませんでしたっけ?」
……やなやつから声をかけられた。
「……誰ですか?」
「これはこれは申し遅れました。僕の名前はロキ……ロキ=セナ。ここの生徒会の副会長を務めています」
先ほどと同じ胡散臭い笑顔でもって、その青年はあたしに近づいてくる。
「そういえば、これから一年生は授業見学でしたっけ? よければ僕が案内しますけど――」
「結構ですお気づかいありがとうございますさようなら」
不愛想に頭を下げてあたしは立ち去ろうとしたが、立ち去ろうとしたその先を突如現れた薄氷の壁が阻む。
「――少しばかり、人に頼ることを覚えてはどうでしょうか?」
「……ったく、一体何の用?」
あたしが敵対的に態度を変えると共に、ロキと名乗る青年の態度も豹変し始める。
「……黙って俺についてこい。ケガしたくなけりゃなぁ」
面倒だが仕方がない。少しだけ遊びに付き合うとしよう。
◆◆◆
「――ここはどこよ?」
「魔導実験室――新しく解けた魔導方程式を実践する時のために確保された空間です」
通りで他の教室と違ってテーブルや机といった障害物がないワケだ。それにしても、だだっ広い空間だ。
部屋の内部には、外に衝撃を漏らさないための魔導方程式が組み込まれているのであろう魔法陣が一面に描かれている。
「で、ロキ先輩。あたしをここに連れて来てどうするつもりですか? もしかしてあたしの身体に欲情したからって襲うつもり?」
「ケッ、そんな貧相な体に満足するほど餓えちゃねぇよクソガキ。俺が聞きてえのは、なぜあの時俺の笑顔に背いたのかってこった」
あっ、やっぱりあの時のが堪えたんだ。
「……それくらいであたしを呼び出しですか?」
「やっぱりてめぇは他のアマとは違う。大抵の女なら俺が適当に笑いかけるだけで地の果てまでついてくるが、てめぇは違う。てめぇは俺を見抜いたように、見透かしたように背いた」
あーやだやだ。無駄に自信満々な男ってこんなんだから。
「女は黙っておれに傅いていりゃいいんだよ。下手に背いてねぇで、俺の甘い仮面に酔いしれとけばよかったんだよ」
「はっ、そんなんだからあたしはあんたがクズ野郎だって見透かせたんだけど?」
あたしはそう言って当たり前の言葉でロキの猫かぶりの態度を完全に打ち砕く。
「……チッ、生徒会総選挙の時もそうだった。俺は会長選の時、女子の得票率が九十九パーセントだった! 男は俺を嫌って一票も入れなかったがそんなのどうでもいい! 残りの野郎と、たった一パーセントの女が入れた結果が今の会長だ……この学校に来ようが、会長になれなきゃつまんねぇんだよ! 女は全員俺に傅け! ひざまずけ! それができないなら、俺がこの学校から追い出してやる!!」
目の前の青年は地面に氷を這わせ、徐々に空間を支配し始める。
「【氷雪】=【発散】!!」
とうとう氷はあたしの足元まで凍らせ、あろうことかあたしの靴まで凍りで覆い始める。
「このまま氷のオブジェにしてやる……ククク、どうだ? 怖いか? 恐怖に怯える表情で凍ってくれた方が俺としても気が済むんだがよ!」
高らかに笑う男を前に、あたしはあきれ顔で一言だけいって一蹴する。
「……あっそ」
じゃあ、あたしも本気で殺す気でいくわ。
「フルパワーでいくから、死なないでね」
「はぁ!? 一体何を言って――」
「【雷光】」
右手にあの時以上の雷が纏われる。
「……へ、へへっ! 第八階層を頭に置いた時点で、繋ぐのはせいぜい第二階層――」
「=【絶撃】ッ!!」
眩い光と同時に、氷が一瞬にして蒸発する。
実験室内が一瞬にして電子レンジと化し、強烈な電流が壁を張っている。
「――バカ、な……」
発動後もバチバチと室内に電流が走る中、ロキと名乗る男はその場に倒れ伏せる。
「……あちゃー、ギリギリ生きてる?」
殺す気とか言っちゃったけど、ほんとに殺すわけにはいかないもんねー。
そしてあたしが十六階層の魔導方程式を解いたせいで、教室外にも轟音が鳴り響いていたようだ。
「――何が起きた!?」
黒焦げのドアを開け、一人の男が入ってくる。
「これは一体どういう事だ!?」
男は一応ロキと同じような制服を着ているところから学生だと分かるが、それが無ければ普通の大人だと思ってしまうほどの重鎮的な雰囲気を醸し出している。
……風貌も少しワイルドな男っぽいのも原因だと思うけど。
「えー、あー、なんて言ったらいいのか……」
「また魔導方程式の実験失敗か!? 大丈夫か!?」
そう言ってあたしはそのワイルド系の男に右手を取られ、怪我がないかと確認される。
これされると逆に恥ずかしいなー!
「そ、それよりあっちの人が!」
「もう一人いるのか? ――なんだ、テメェか」
男はロキを軽々と担ぎ上げ、教室を去ろうとする。
「チッ……大方こいつがお前に良いところを見せようとした結果、自爆したってところだろ?」
いい所より悪い一面を見せつけられたんですけど……。
「あ、はい、そうです」
「チッ、全く……生徒会の恥さらしが」
そう言って男はロキをよく見知っているような口調でその場を去ろうとしている。
「あ、あのー」
「あん?」
「せ、先輩の名前は?」
男はあたしから興味の視線とともに先輩と呼ばれたことにむずがゆそうにしながら、あたしの質問に答えてくれた。
「……俺はヴィンセント=ルーザー。ここの学校の、生徒会会長ってやつだ」




