第27話 受験生からの依頼その十四 忘れ物が多い
「これより第……何回かは数えておらんが、お狸救済委員会を開催する! みなのもの、席に着け!」
おたぬき様の言葉を受け、静夜たちメンバー全員が席に着く。今回は新しいメンバーとして志野ちゃんも加わり、より充実した回答を出すことができそうだ。たぶん。
バンバンとおたぬき様がホワイトボードを叩く。
「今回の依頼だが、『忘れ物が多く、以前など試験のときに消しゴムを持って行くのを忘れてしまいました。何か対策はないでしょうか?』というものだ。みなのもの、この事案に対し解決策を求む!」
すっと真穂さんが手を挙げる。おたぬき様がご自慢の扇子で彼女を指す。
「よし真穂、言ってみてくれ」
「消しゴムを忘れても大丈夫なよう、試験で一切間違えをしないとかはどうかしらー」
「ふむ。もし鉛筆を忘れた場合はどうする?」
「来年があるから大丈夫よー」
「よし、次、静夜!」
指名された静夜は、コップに入ったお茶を飲みながら答える。
「チェックリストを作って確認するのが無難だろうが、それくらいはこの依頼者もしてそうだよなぁ」
「より斬新な案を求む」
「ならば発想を変えて、忘れ物をしてもいい環境にしよう。つまり試験会場のすぐ近くに引っ越す」
「ふむ。それならば忘れてもすぐに取りに帰れそうだな。実現可能かどうかはさておき。次、こすず」
「あたしなんて試験の日を忘れてたことがありますよ。過ぎてたから気づきました。つまり結論、忘れても気にしないという感じで」
「よし、裸で帰れ」
「あたしにだけ手厳しくないですか!?」
ごほん、とおたぬき様がせき払いをしてから志野ちゃんに声をかける。
「志野よ、はじめての会議で緊張するとは思うが、おぬしの率直な意見を聞かせてほしい。何かよいアイデアはないか?」
みんなの視線が志野ちゃんに集まる。「はぅ」と小さな声を上げた志野ちゃんが、身を縮ませる。
しばらく待っていると、やがて彼女は消え入るような声で言った。
「わ、わたしもよく忘れ物をして困ってたんですけど、あることをしたら少しましになりました」
「ほう、興味深い。そのあることとは?」
「ちゃんと持ち物がそろっていたときは、自分を褒めてあげるんです。今回は忘れ物しなかったね、えらかったねって、自分に言ってあげて。そうしたら、次も忘れ物しないでおこうって心がけることができて、あの、その……」
言いながら恥ずかしくなってきたのか、志野ちゃんが顔を赤らめてうつむいてしまう。
おたぬき様がうんうんと頷きを返す。
「そう、これこそ私たちに足りなかったものだ」
「羞恥心か?」
「そうではなく、聞いている者の心を和ませるような、そんな温かい回答だ。おぬしらの意見はいつも殺伐としすぎておる」
おたぬき様が静夜たちを見渡してくる。こすずちゃんがぶーぶーとブーイングをしていると、志野ちゃんが申し訳なさそうに口を開いた。
「あの、えっと」
「なんだ、志野?」
「この依頼者の人って、本当に好きで忘れ物をしているんでしょうか……?」
「なんのことだ?」
おたぬき様が小首をかしげる。
「じ、実は誰かから圧力を受けてたり、脅されてたり、恐喝されてたり……!
『忘れ物をしなければ妹の命はないぞ』
とか命令を受けていて、それで困ってわたしたちに助けを求めたんじゃ……!」
「志野ー?」
「依頼書の文字もどこかおびえながら書いたように震えてますし、この最後の文字なんて涙ながらに書いたからこんなにゆがんで……!」
「もしもしー、志野ー?」
志野ちゃんががばっと立ち上がると、慌てた様子で外に飛び出していこうとする。
「た、助けてきます!」
「誰を?」
「困ってる人をです!」
志野ちゃんが勢いよく部屋から飛び出していった。
開きっぱなしだったドアが、やがてバタンと閉まる。
びしっとこすずちゃんが手を挙げた。
「はい!」
「……なんだ、こすず?」
「今後会議をするときは、志野ちーの手足を縛り付けておくのがいいと思います」
「……検討しよう」
おたぬき様は苦渋に満ちた表情で頷くと、依頼書を未解決ボックスにしまった。




