第25話 受験生からの依頼その十三 恋人とケンカしてしまい勉強に身が入らない
今日の依頼などどうでもよかった。
テーブルには配達してもらったピザにスナック菓子、飲み物にはコーラやサイダーなど多彩なラインナップが並んでいた。
熱々の香ばしいピザの匂いが食欲をかき立てる。
こすずちゃんが今にも食べたそうにしていたが、真穂さんからおあずけを食らい、新メンバーの到着を今か今かと待ちわびていた。
十分ほど待っていると、バンッとドアを開けておたぬき様が帰ってきた。
「みなのもの、待たせた! 引っ捕らえてきたぞ!」
おたぬき様が連れてきたのは、きゃしゃなボブカットの女の子だった。彼女はロープでぐるぐるに体を縛られ、口は猿ぐつわをかまされている。じたばた暴れていた。
「よし、さっそく始めるぞ!」
「その子を生け贄に捧げて儀式でも始めるつもりか?」
「たわけ、歓迎会を始めるに決まっておるだろうが!」
「ならせめて猿ぐつわをはずしてやれ」
「む、それもそうか」
荒い手つきでおたぬき様がさるぐつわをはずす。
連行されてきた女の子は涙目になり早口で声を出した。
「ごめんなさいごめんなさいっ、わわわたしは美味しくないので食べないでくださいっ」
「ふふふ、我らが欲するはなんじの血ぞ!」
「きゃー!」
静夜はおたぬき様の頭をはたいておく。
「いたっ、なんだ静夜」
「歓迎会だろうが。拉致してきてどうする」
「むむ、じゃが説明するのが面倒でのう。つい無理やり連れてきてしもうた」
「こすずちゃん、やってくれ」
その指示を受け、びしっとこすずちゃんが敬礼を返してくる。そして彼女はおたぬき様に飛びついて押し倒すと、くすぐり攻撃を始める。すぐさまおたぬき様から笑い声と楽しそうな悲鳴が上がった。しばらくそうさせておく。
歩み寄った真穂さんが、女の子を縛っていたロープを外していく。
「ごめんなさいねー、手荒なまねをしちゃって」
「わわわたしの方こそごめんなさいっ、生まれてきてごめんなさいっ」
動揺し続ける少女を落ち着かせるため、静夜はコーラの入った紙コップを手に取り、彼女へ差し出す。
「まあこれでも飲んで落ち着いてくれ」
「どどど毒入りですかっ!?」
「今日は入ってないから安心していいぞ」
少女はしばらく戸惑うようにしていたが、やがて紙コップを受ける取ると、おそるおそるといった感じで飲み出した。
少し待ってから、静夜は柔らかい口調で声をかける。
「ここがどこかは分かるか?」
「え、えっと……はっ、ま、まさか地獄ですか!?」
「俺たちは鬼か。ここはお狸部屋。そしてこれから、ここで君の歓迎会をおこなう予定」
「……歓迎?」
きょとんとした表情になる少女に、静夜はゆっくりと頷きを返す。
「まあ詳しい話はあとで真穂さんか俺にでも聞いてくれ。とりあえずピザが冷める、食べよう」
「そうねー」
真穂さんが、はいっと紙皿とフォークを少女に差し出す。少女は困惑した様子ながらも受け取った。
「こすずちゃん、もういいぞ。食べよう」
「待ってました!」
こすずちゃんがおたぬき様からぴょんと離れ、並べられたピザに駆け寄る。
一方、しばらくぐったりしていたおたぬき様は、やがてゆっくりと立ち上がり、大きくため息をつく。
「ひどい目に遭った……」
「本当にひどい目に遭ったのは彼女の方だろ。えっと」
少女に視線を向けると、察した彼女はすぐに名乗ってくれた。
「あ、え、えっと、志野と言います」
「志野ちゃんか。よろしく」
「よ、よろしくお願いします……? はっ、ま、まさか末永くよろしくというプロポーズでしょうかっ! そ、そんな急に言われても……!」
志野ちゃんが顔を赤らめる。
そんな彼女に静夜は笑みを返しながら、遠慮なく彼女のほおをつねっておいた。




