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第15話 受験生からの依頼その八 勘が悪い

「勘って、試験に重要なんですか?」

 こすずちゃんが依頼書を見ながら小首をかしげている。


 今回の依頼は『勘が悪いのでなんとかしてほしい』というものだった。


 いつもの扇子ではなく、おたぬき様が今日はうちわで自分をあおぎながら口を開いた。

「何を言うか、こすず。最後にものを言うのは勘だ。選択肢の二つの内、どちらが正解か迷ったとき。勘を頼りにした経験はおぬしもあるだろうに」

「いえ、ないですね。そういうときは一つ目の選択肢を選ぶとあたしは決めているので」

「ふむ。確かにそれなら迷う時間の節約にはなるのう」

「まあ、はずれるんですけどね!」

 こすずちゃんがからからと笑う。


 ごそごそと下の方で何かを漁っていた真穂さんが、テーブルの上に一つのサイコロを置いた。

「はい、サイコロよー」

「で?」

「これで勘を養えると思うの」

「ほう、出目を予想すると」

「いえ、サイコロを投げつけてもらって、当たらないように勘で回避するのよ。これだと勘を外すと痛い目に遭うから、すごく効果的かなーと」

「さっそく実践したいです! あ、的は静夜さんで!」


 きらきらした目でこすずちゃんがサイコロを手に取ろうとするが、それを制しながら静夜は真穂さんに苦言を呈する。


「サイコロが痛む。投げるのは禁止」

「じゃあ何を投げるのー?」

「勘の鍛え方ならほかにもいろいろあるだろ」

「たとえば?」

「そうだなぁ。あれとかどうだ? シュークリームにわさびを入れるやつ。はずれを引いたやつは、辛いシュークリームを食べることになるっていう」

「じゃあ間を取って、シュークリームにサイコロを入れましょうー」

「サイコロから離れろ」

「……くすん」


 真穂さんが悲しげな表情になるが、静夜は遠慮なく白いまなざしを彼女に向けておく。


 と、おたぬき様が静夜に尋ねてきた。

「シュークリームにわさびなど入れて、おいしいのか?」

「罰ゲームだからまずくていいんだよ」

「だが、おいしいものをわざわざまずくして、罰は当たらないのか?」

「正論か」


「はい、はい!」

 こすずちゃんが元気よく挙手する。


「こすず、何かひらめいたか?」

「今まで出た意見の間を取って、シュークリームを投げつけるというのはどうでしょうか!」

「たわけ」

 おたぬき様が一蹴するが、こすずちゃんはなぜか食い下がってきた。

「シュークリームを投げつけるという勘の養え方は、アジアでは下火ですが、西欧では広く普及しているちゃんとしたものなんですよ」

「そうなのか?」

「スペインでトマトをぶつけ合うお祭りがありますよね? あれのシュークリーム版が最近流行ってるんですよ」

「ふむ。世界は広いのう」

「だからここでも採用しましょう! たくさんシュークリームを用意して、半分くらいは食べる用にして」

「そこまで言うならこすず、採用しても良かろう。ただしそのときのシュークリーム代は全額こすずに負担してもらうぞ」

「サイコロを転がすのが一番だと思うんですよ」


 こすずちゃんがころころとサイコロを転がす。出目は七が出た。


「七!?」

「ほう、最近のサイコロは七が出るのか」

「え、時代によって出目って違うんですか?」

「そうだぞ。江戸時代のサイコロは八が出てのう」

「まじですか!?」

 サイコロ談義でおたぬき様とこすずちゃんが盛り上がる一方で、サイコロを用意した真穂さんはそんな二人をにこにこと見守りながら、依頼書を未解決ボックスの中に仕舞い込んだ。

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