10 七日目。秋田・青森(10)
峠から道は下り基調で、この快感を味わうために上りはあったのだ、と思わされたのでした。
高山の美しい緑の中、コン吉、ケンケン、両大ギツネに楽々と跨がる二人です。
「そもそも今回のゾーンアウトというのがおかしいのです」
手綱に神経を注ぎながら行が声を張り上げます。
「理屈なら、ラン一人だけがアウトだったのに、ぼくも連帯責任扱いされてしまった」
「――」
ちょっと、いえ大いに微妙すぎて(?)、蘭はまともに返事できません。
行は平気で言葉を続けます。
「数日前、こんなことを話題にしましたよね?
『二人同時に異世界にいて、さらにはゾーンが一部重なり合ってもいる。だったら、二人のゾーンが合成されて、マージンが広がるなんてことも、あっていい』
――と、かようなことを」
「ありましたね。そしてそのあと、ハダカゲームを仕掛けたんでしたっけ」
「ぶっ! ボフォッ! コホッ?!」リアルに咳き込んでしまったのでした。
「――それはもういいから!」
「いいの?」「話を戻します」「はい」
行、咳払いを一つ。
「実際、結果的にです。ランは確かにゾーンアウトしてしまいましたが、それは、本来のランのゾーンからのアウトでした」
「――そうです。そうです!」
「二人のゾーンは合成されない! それがはっきりした。なのにです。一人がゾーンアウトしたら、まだ自分のゾーン内にいたもう一人までもが、ゾーンアウトさせられてしまった。
これは、理屈に合わないでしょう?」
「激しく同意します! 文句を言うべきです!」
「いえいえ、文句は言わない。その代わり、きっちりと補償させるんです。
ゾーンアウトしたランに引っ張られて、セーフだったぼくも強制的にアウトにされてしまった、ということは、です。
ぼくが、海にゴールしたら、逆に――
ランを強制的に引っ張って、一緒に現世にワープアウトしたっていいじゃんか、という理屈になるのです。
これが、ぼくらの最大の強みです。
過去の犠牲者にはなかった利点です。平凡なぼくらよりも頭脳も技量も優秀なエキスパート達とは、一番に異なる点。ぼくたちは――二人なのだ、という強みです!」
「報告がない(ありえない)だけで、過去にもあったかもしれません」
「カモね。でも、信じましょうよ……。
ぼくらは、過去の皆さんにはなかった、幸運に、好条件に、恵まれたのだ、と。
真摯に、感謝しましょうよ。だから――
助かる可能性を少しでも高めるために、また希望の火を間違って消すことないように、きみには最後まで、状況に誠実に、新しいゾーン内に留まっていてほしい。これが、今朝、宿の前で、ぼくのルートに同道してほしいと頼んだ理由です。なにせぼくの方が北側ですからね」
蘭はきりっとした、シリアスな顔をして応えたのでした。
「コオ、キミは今、とても大変なことを言ったのよ? 解っている?」
「解っている」
振り向き、行は返したのでした。その顔はひたすら真面目です。
「自分の発言の意味は……わきまえています……」
そう、付け加え、顔を隠すように前へ向けたのでした。




