7 四日目。福島・山形(2)
最初は、県道2号・西吾妻スカイバレーに乗って山形入りするつもりでしたが、昨日の蘭の話を聞いて、自分もダートを走りたくなってしまった行なのでした。改めて詳細にマップを調べた結果、桧原湖最北端から、名もない峠を経て越境する山道を見つけてしまった。そのうえ、こちらの方が“まっすぐライン”に近かったので、そこを走ることに決めたのでした。
(図はイメージ)
米沢市までは蘭も同道してくれることになりました。
峠を目指し、途中から道は想定どおりダートとなりましたが、確かに野趣は上がりましたが、そもそもです。気づいてみれば乗り物が、今は四つ足でした。二輪じゃない。実のところ、乗り心地に大した違いはなかったのでした。
悲しそうにコン吉が振り返るので、慰めるのに苦労しつつ、乗り物に乗りながらその乗り物の迂闊なことは口にしない方がいいと反省です。
峠では一旦ストップです。振り返ると、足下に桧原湖が広がり、その後ろに裏磐梯です。まるで一幅の絵のように美しい眺めだったのでした。
唐突に、蘭が口に出したのでした。
「“ブラジル”に、怖がらせられる日が来るとは思ってもみなかった……」
行としては、ついに話題に出てしまったか、という思いでした。でも、いずれこうなってしまった事でしょうし、心を決めて応じたのでした。
「実は、この旅の間中、人に何回か同じことを訊かれていたのです」
行が打ち明けると、蘭もまた頷いたのでした。
「わたしもよ……。ちょっとオカルトじみて、ヤな感じです」
そのとき――
風が、吹いたのでした。
妙に寒気がするのでした。
「ともかく、出発しましょう……」
少し先の道の脇には、例によって青看板が立てられています。名もない峠だからでしょうか、素っ気なく。
『ヤングアゥタ県』
とあったのでした。




