4 一日目。栃木(6)
「うむ……」
こうなると、行も自分を誇示したくなるのでした。なにしろ男の子ですから。
もう一度、花子さんのラインに目をやり、そして蘭に問いかけたのです。
「花子さんは、西、東、どちらの端からスタートされたのでしょう?」
「はい?」
意外すぎる問いに反射的に聞き返す蘭。かまわず行は自分の推理を展開したのでした。
「さきほど花子さんの証言として、こう聞かせてもらいました。
『捜し物をするに、広い幅が欲しかった』と……。
ここで注目してほしいのは、捜し物をするのに、広い“面積”ではなく、“幅”が欲しいと述べている点です。つまり関東の主なエリアを、ある程度カバーできていたなら、それでよかったのではないでしょうか?」
「う……」蘭の顔が幾分、こわばります。
「さらに、ワープインしたのは6月初日とも、ワープアウトしたのは7月始めとも聞かされました。
結果的にですが一ヶ月で、山口県下関市から東京都港区まで、捜し物をしながら移動できるのでしょうか? そしてヒットを飛ばせるものなのでしょうか?
時間的に、少々、キツいんじゃないかと……?
ぼくが思うに、彼女が用意していた作戦は、おそらく“詩と画像のメガヒット”一つだけです。となれば、言葉に差し障りがあるかもしれないけど、用があったのは、“人口密集地帯”の方だけではないでしょうか?
以上により、ぼくは、東端がスタート地だと考えます。
この場合、最初のゴール地は瀬戸内海となり、ライン約565kmです。片マージンは約14kmで、これはどれくらいの数字かというと、都心部を十分カバーできる数字、富士山についても、その北側半分をカバーできる数字です。いえ、なんなら、その播磨灘をパスしてマージンを稼いでから、引き返して来たっていい」
蘭が切り込んできます。
「一点だけ。主目的は、“日本のどこか”から文太郎さんを探し出すことでは……?」
「はい、承知しています。でも、じゃあ具体的に、どうやって探すのでしょうか?」
「む……」
「ぼくたちは、既にあの富士山を見てしまっているから順番の勘違いを起こしているのです。ワープインするまで、花子さんは、ここにあんな凄いブツがあるとは予想していなかったはずです。
この世界に来て、見て、心が動いたのは確かでしょう。
ですが、順番、まず東京です。ここに来たら真っ先にそうしようと予定してた、“詩と画像のメガヒット”作戦を実行に移した、と考えます。
ここで論争するよりも答を聞いた方が早い。ランに今一度訊きます」
「はい……」
「花子さんは、山口県下関市毘沙ノ鼻をスタートした、と明言したのですか?」
「……今、思い返すに、ラインはこうだと示された、だけ、だったようです。花子さん、あえて、口をつぐんでいたような……? スタートを西の端にしてしまったのは、まったくわたしの思い込みです」
「だとしたら、スタート地点は、やはり千葉県鹿島灘の方が自然ではないでしょうか?
勿論ですが、あの富士山は大いに気になったはずです。あすこにいるんじゃないかと、勘だって働いたかもしれません。
ですが、せっかく準備してきたんだし、当時現在、時間はいくらでもあったのです。だから、仕事を優先させた。
そして、ヒットさせた。
素晴らしい。そして――
一段落ついて、さぁ富士山に行ってみようか、となった時点で、“虫の知らせ”を聞いて、急遽、現世・港区にワープアウトした。
なにが言いたいのかというと、つまり……」
「花子さんはあの富士山に行けなかった。だから、“登攀跡”なんて調べようがないし、つまりは“組み合わせ”は、全通りの可能性がまだ残っている、ということですね。
なんてスマート! お見それしました」
「まぁ、現世でご本人に答合せをしてからですが……えへ?」ぽりぽり。
行、大いに溜飲が下がったのでありました。




