4 一日目。栃木(4)
「“預言者・ハナコ”と“神・ブンタロー”の件です。これがわからない」
「パムホの画像を見て、“この人だ”て感じに驚いてたものね!」
「どう考えるべきでしょう」
小首をかしげながら、まず蘭が述べます。
「第一に。ストレートに、ご両者が本当にこの地に来た、という説明です。
この場合、この世界に、わたしたちも含めると、短期間のうちに四名訪れたことになり、きわめてレアな事態が発生したことになります。でも、来れちゃったんだから仕方ない、という説です」
頷いたあと、行が後を続けます。
「第二に。これはさっき思いついたことですが、“別の地球のブンタローとハナコ”がこの地に来た、という説明です。
この場合、地球側から見たレアは回避できますが……『どんだけ似てたんだよ?』という別のレアが発生します」
「面白いですね」
「ホント。その上にですよ、一体“お二人”は、この地で何をヤラカシタと言うのでしょう」
「“預言者”と“神”という称号は、意味深でかつ強烈です。タッグを組んで、凄いことしたんでしょうね。あのグンマーがびびるほどに」
「まずはそこです」
「はい?」
「簡単なところから確認していきましょう」
「了解です。どうぞ」
「さきほどの“虫の知らせ”の話を合わせて考えると、同じこの世界に来れてたとしても、花子さんは文太郎さんに、“出会えなかった”ことになります」
「ああ、そうか。つまり、タッグは組めなかった」
「推理するよりも本人に聞いた方が早い。
この点について、ランが花子さんと話したとき、なにか言ってませんでしたか?
出会えたのか? 行った異世界はどこか? そこで何をしたのか? 何でもいいです」
「根掘り葉掘りはお尋ねしていません。彼女は恥を知るお方ですから……。
同じ異世界に行ける確率はゼロに等しいことを誰よりも弁えている彼女が、自分ならば彼と同じ世界に行けると頑なに信じ、男の後を追いかけるため旅立ったなんて、あまりにもロマンチックすぎて、口に出すのは恥ずかしいものです」
「理解します」
「無理筋なことを考えてもよいとするならば。
お二人ともこの世界に来ていたとして。二つの“まっすぐライン”を鑑みるに、出会えたであろうポイントはずばり富士山です」
(図はイメージ)
ここで行も蘭も、自然に後ろを振り返ったのでした。
異世界――
南西の方角、約140kmの位置に、青空を背景に神秘の円柱が――根元こそ北東域の関東山地に隠されているものの――平面の地面から垂直に、無窮に天に伸びていたのでした。
「……お二人とも高名な登山家です。あんな山を見せられたら近寄るはずですし、事実、自分のゾーン内にあるんですから、その限りにおいて詳細に調べたはずです。彼女もまた“怪物”と呼ばれた人間です。たとえ文太郎さんが遙か天空に登っていたとしても、花子さんレベルの人間ならば、必ずやその登攀跡を見つけられたはずです。そして見つけたら、何がしかの行動を採ったはずですし、わたしにも、話題に出してくれていたことでしょう。
結論――
わたしが花子さんと出会ったとき、文太郎さんのお話が出なかったことから、出会えなかったことは確実です」
「ぼくの方からも補足します。文太郎さんの話しされた中に、花子さんの話題は一切ありませんでした。文太郎さんはああいう、明け透けな方ですから、話がないということは本当に出会っていないのでしょう」
「どうやら、同じ世界に行けていたとしても、お二人は出会っていないことは、確かですね」