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落ちた世界でメイドになりました。  作者: 夜凪


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13/13

お久しぶりです!

案内されたのは、美しく整えられた客間だった。

テーブルの上にはすでにいくつかの焼き菓子が用意されていて、隅の方にはティーセットと共に侍女が控えている。

いそいそとそちらへ向かい、主好みの茶葉が複数用意されていることを確認してニンマリとしながらそこに手を伸ばした所で、ヒョイと抱き上げられた。


「あれ?」

高くなった視界にキョトンとしていると、そのままソファーまで運ばれてしまう。

「さなえは今回はお客様だよ」

私を運んだ犯人は、もちろん主だ。

流れるような優雅な仕草で、当然のように隣に腰を下ろす。


「ええ?」

「今日はメイド服は着てないだろう?」

「そうですけど……」


そう。今日は珍しく私服なんである。

正直、非常に落ち着かない。

拾われた直後はともかく、メイドとして働きだしてからはほぼ毎日着てたからね。


便利だったんだよね、メイド服。

どんな公式な場にも行けるし、支給品だけど使われている生地がいいのか着心地は最高だし、身分証代わりにもなる。


なんなら、休日に外出する時もしらっと着用してたよね。

私服の組み合わせ考えるの面倒で。


そんな私が、なんで私服を着ているかって?

今回も当然のようにメイド服ばかりを荷物に詰め込んでいたら、メリッサさんに全力で阻止されたんである。

旅行に行くのに仕事着で行くとはなにごとか、と。

わりと真面目に怒られた。


でもさ。

結局、主と二人なわけだし。

なら、いつも通りお世話もしたいし。

それなら、メイド服の方がいろいろ便利じゃん?

なにより、服の組み合わせ考えなくてすむし。


という考えを、丁寧に説明したら、説教の時間が二倍に増えた。

というか、途中でマリアさんまで参戦してきた。

二対一とは卑怯なり。


最終的に、一日目はこれ、二日目はこれ。

もし、晩餐に呼ばれたら、このドレスを着せてもらう事などなど、私そっちのけでせっせと荷物が詰められていた。


楽ちんだから助かるけど、しっかり私の趣味がみんなに把握されているのはなんでなんだろう?

主人の意向を読み取るメイドスキルの一環?

何それ、私も欲しい。


まあ、そんなこんなで。

今回の私は、基本私服姿なのである。


いや、一着だけこそっとメイド服も持ってきているけれども。

だって、今ではあれが一番しっくりくるんだもん。

まだ、着るようになって半年も経たないんだけどねぇ。不思議。


「そもそも、お嬢ちゃんは今回の愛し子様だろう?なんでメイドなんかやってるんだ?」

どっかりと正面に座った主の友人らしき男性が、不思議そうに首を傾げているけど、それより気になることがあるんだよね。


「主様、主様」

そっと袖を引いて、内緒話の体勢をねだる。

目の前で、内緒話も何もない気がするけど、一応ね。ジョセフさんに()()()って呼ばれていたし、身分が高い人なのは確定だからさ。


「この方だれですか?」

不思議そうな顔をしながらも、体を傾けてくれた主の耳にこそっと囁く。

とたんに主の目が丸くなり、正面に座っていた男性が飲んでいたお茶を噴き出した。


出来るだけ声を潜めたんだけど、聞こえちゃったみたいだね……。

とっさの判断で横を向いてくれたおかげで、噴出されたお茶がかかる事はなかったけれど、代わりにソファーと床の絨毯が大惨事だよ。

あ~あ、お茶のシミって綺麗にするの大変なのに。


「レンバード、お前……」

「基本的な教育は施してあるが、最初に自己紹介しなかったお前が悪いんじゃないか?」

どうにかむせが収まった男性が、恨みがましい視線を主に向けるけど、主はそっけなく返すとそっぽを向いた。そのまま知らん顔で仮面を外すと、ティーカップに手を伸ばしお茶を飲み始める。

けど、主の口元がほころんでるし、絶対この状況楽しんでるよね?


ジッとしばらくそんな主を見ていた男性は、諦めたように一つため息をつくと、スッと立ち上がりその場に跪く。

片膝を立てて、軽く胸に手をあてる姿は先ほどの砕けた雰囲気とは違い、キリッとしていて騎士のようだ。


「今代の愛し子様、挨拶が遅れ失礼いたしました。私はこの地を治めるガルシア辺境伯家の嫡男、エルナンドと申します。どうぞ気軽にエルとお呼びください。レンバードとは幼少期より何かと縁があり、親しい付き合いをさせていただいている関係で、失礼に感じることもあるかと思いますが、ご了承くださるとありがたいです」


「……ご丁寧にありがとうございます。縁あってレンバード様に保護していただいている、早苗と申します。本日はこんななりをしておりますが、しがないメイドですので、お気遣いは不要です」


丁寧に挨拶されたら、返さなきゃだよね。

しかし、予想はしていたけど辺境伯の嫡男様だったかぁ。

ほんとは立ち上がろうとしたんだけど、なんでか主に素早く捕まってしまって座ったままだけど。

私のせいじゃないので許して下さい。


チラリと横目で主を伺うと、幼子を見守るような視線でうんうんと頷いていたから、いいんだろう。

……いいんだよね?


「いや。だからなんで愛し子様が、メイドなんかやってるんだよ?」

迷っている間に、エルナンド様はさっさと立ち上がってソファーに座りなおしてた。

挨拶終わったら真面目モード即終了してるの、なんか面白いな~。

あきらかに自分より年上で偉そうな人に丁寧に対応されるのも、なんか居心地悪いから良いんだけどね。


「なんでと言われましても……。何もしないのは落ち着かないですし、昔から「働かざる者食うべからず」といいますし」

「と主張されて、ね。愛し子の望みは叶えるべきという事で、メイドとして働いてもらっているんだよ」

私の主張に主様が補足する。


「働かざるもの……?愛し子様の世界の言葉か? まあ、本人が望んでいるならいい……のか?」

「あ、その愛し子様呼びもやめてくださいね。”さなえ”です。言いにくかったらシャナでもいいですよ」

ブツブツ呟いているエルさんにお願いしてみる。

だってなんか嫌じゃない?愛し子様って。

少なくとも私は嫌だ。


「しゃ……、シャナ……エ、さなーえ……」

エルさんはブツブツと口の中で繰り返していくうちに、どんどん発音が整っていく。

「さなえ、で正解か?」

あれ?なんか、いけそう?って思っていたら、何度目かで納得したのかこちらに伺いの目を向けてくる。


「すごいです。この国の皆さんには発音しにくみたいなのに」

思わず素直に感嘆の声をあげたら、苦笑された。

「うちの領は曾祖母の影響で愛し子の国の文化がいろいろ残ってるからな。不思議な言葉も多いし、領主教育の一環でそれらをすべて叩き込まれるんだ。そのおかげだな」

「なにそれ、すっごく興味ある」


いや、気にならない?

異世界で定着した日本文化。

主の屋敷で暮らしている時も、少しそれっぽいな?って思うものはあったけど、この国の文化の中で発展したものか過去の愛し子が残したものかは分からなかったし。

でも、ここなら領主教育に取り込まれるくらい記録があるってことだよね?


「まあ、とはいえ。愛し子様を本名呼びはおそれ多いんでシャナ様呼びするんでよろしく」

ワクワクしてたら、肩竦めながら宣言された。

なんか視線が一瞬ちらっと隣にいった気がするけど、気のせい?


「どうかした?さなえ?」

おもわず主様を見上げると、キラキラの笑顔が返ってきた。

相変わらず見目麗しいですねえぇぇぇ!

「目がぁ~~~!!」って、転げまわってもいいですか?


「いえ。なんでもありません。とりあえず、様はおやめください」

「じゃあ、お嬢で」

「……もうそれでいいです」

「あ、俺も様呼びはやめてな~。できれば敬語もちょっと。親戚のお兄さんくらいの扱いでいいからさ」

「……じゃあ、エルさんで。敬語は目上の人には使うよう親に躾けられているので勘弁してください」

「まあ、長い付き合いになるだろうから、追々な~」


主の笑顔に動揺したのを押さえるのに必死で、条件反射で会話してたらそういう事になってたよ。

びっくり。

まあ、変な事はしてない……はず。


「私も、名前呼びがいい」

エルさんとのやり取りをじっと聞いていた主がポツリとつぶやいた。

「なんで、ずっと一緒にいた私が未だに主呼びで、初対面のエルナンドが愛称呼びなんだ?ずるいだろう?」

拗ねたように軽く唇を尖らせてる主が可愛い。なんか、幼児化してない?

じゃ、なくて。


「だって私は主様のメイドですから。そこはきちんとしないと」

雇用契約上、線引きは大事だと思うの。

そこ、「だいぶ適当なのにいまさら」て言わない!

越えちゃいけない一線ってのはあると思うんだよね。


「…………せめて今回の旅行中だけでも、駄目、かな?」

ションボリと肩を落とし、たっぷりの沈黙の後。

こちらを伺うように視線を投げかけてくる主の頭の上に、ぺちゃんとヘタレたワンコ耳が見えるんですが!?

正攻法では私が折れないと学習して、からめ手で来るとは卑怯な!


「おお、怯んでる。本当にレンバードの顔に弱いんだな」

どこかで驚いたような声が聞こえるけど、至近距離で主のすがるような表情に見つめられた私は、それに反応している余裕などない。

潤んだように見える主の青い瞳と見つめあう事数秒。


「レンバード様、でいいですか?」

私はあっけなく白旗をあげたのだった。

いや、だって無理でしょ?

ガチファンの芸能人がいる、もしくは推しがいる人は想像してほしい。

画面越しに見るだけでもテンション上がるのに、その顔が至近距離でしかも潤んだ瞳で見つめてくるんだよ?それでお願いしてくるんだよ?誰が断れるのさ!?


「レドがいい。様もさんもなしで」

「なんで愛称呼び?!」

しかし、神は更なる試練を私に課してきた。

いままで頑なに主様呼びを貫いてきた私に、名前呼びを通り越していきなり愛称呼びとはいったい?!


「あれ?レンじゃないんだな?」

「それは家族や友人も呼ぶから、他のがいいなと思った」

「おお!特別な愛称ってやつか?」

なんか二人で盛り上がってるけど、さらなる追い打ちに私の心がそれどころじゃないんですが?

誰も呼ばない私だけの呼び名ってな~~に~~!?

もう、主は私をどうしたいの!?


「……これ以上は心が持たないので、レンでお願いします」

「しょうがないから、それで妥協するよ。……まあ、そのうちね」

考えすぎて血の気が引いてくらくらする中、どうにか言葉を絞り出す。

目をパチパチと瞬いた後、しょうがないというように許可をくれた主が、最後に何か付け加えてたみたいだけど、聞こえないったら聞こえない!


「おお。より強いインパクトを与える事で家族と同等の愛称呼びをあっさりと認めさせるとは、やっぱり策士だよな」

感心したようにエルさんが何か言ってるけど、聞こえません!!









読んでくださり、ありがとうございました。


話がちっとも進みませんww

まあ、エルナンドさんの為人が分かる回ってことで。

次回は進展するはず……。


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