三十六 帝国到着
魔道船の内部は『薔薇伝』に出てくるスチルと変わらなかった。思わず感動の声を上げてしまう。船の動力には大きな魔石を複数使用しているようだった。
「本当に素晴らしいですわね」
「そなたの助言のお陰だ」
案内してくれた船室も素晴らしいものだった。
そして、西の大陸にあるエイリー・グレーネ王国と東の大陸にある帝国間のルートは西の大陸の湿原や荒野を東に抜け海洋諸国の聖地を通る陸路と海路を経て、一月以上かかる。だけどこのアラス様の造られた帝国の魔道船は魔物の跋扈する海域を高速で一気に駆け抜けることが出来るので一週間ほどの日程にまで短縮できたそうだ。
もう少し調整すれば五日ほどまで早めることができるそうで、今までの船の性能から考えるとあり得ない。但し、とても揺れるので酔い止めは必須だと思う。
私は以前思い出した船酔い防止の運動を寝台の上でしていた。それでも飛び上がるような揺れがある。これからのことも考えてシートベルト付きのゆったりした椅子を作るように言った方が良いわね。
正直船長室や操舵室に行ってみたいけれど満足に歩ける自信は無かった。それでも穏やかな海域では寝台から起き上がることもできるようになった。
ついてきてくれた護衛たちも最初は少々船酔いに苦しんでいたけれど日増しに慣れてきて、最後は旅程の短さに感嘆しているようだった。
私のほうは日頃の訓練の成果で体力が増えてきたものの、やっぱり船旅は堪えたのか日増しに疲れが取れにくくなっていた。
「大分体力はついたと思っていたけれどまだまだね」
「外に出ることもありませんし、姫様には寝台でお休みになられているのが一番ですよ」
侍女のアナベルが側にいてそう慰めてくれた。
「それにしてもお茶をいれるのもままならないのでは困りましたね」
あまりにも船の揺れが酷いので、食事や休憩時間は速度を落とすか、どこかの島で停留するようになっていた。私を乗せてないときは時間重視で留まることなど無かったみたいだけど。
「いいじゃない。その分、帝国までありえないほどの日程で到着するのだから」
「そりゃそうですけど。本当に一週間で着くのでしょうか」
アナベルは不安げにしていた。
「まあ、この速さなら大丈夫じゃないの?」
アラス様は朝昼晩に様子を見に来てくれる。それ以外は船の動きに気を気張っている。アラス様の魔力も動力に変換して使っているみたいだから。
この世界では本当に魔力もエネルギー扱いなんだ。それはとても恐ろしい一面よね。
「流石、帝国ですね。皇帝自ら動かすのには驚かされますが……」
「アラス様は常に自ら、戦場、それも前線に出られる方だから。後ろで踏ん反り返っているだけのお飾りの王ではないわ」
私はちょっぴり誇らしげにしてしまった。『薔薇伝』でもそうなんだもん。部屋の扉を叩く音がしたので招き入れるとアラス様が様子を覗いにいらした。
「既に帝国の海域に入っている。明日には帝国の港に着くだろう。体調の方はどうだ?」
「まあ、やはりとてもお早いですね。私も揺れに慣れてきましたし、少し疲れが出ていますが、大丈夫です。アラス様の気遣いのお陰だと思います」
私の言葉にアラス様は優しい笑みを浮かべてくれた。これで私が釣り合う年なら絵のようなカップルよね。儚げな美少女と流麗な皇帝陛下。
その後、何事もなく魔道船は帝国の港に到着した。港に迎えにきていた帝国の馬車にて私達は王宮へと向かった。馬車の窓から見える街並みは素晴らしいものだった。それに活気が違う。行きかう人々はせわし気にしていた。
「帝国はとても賑わっていますね」
国を出たことが無いアナベルと物珍し気に街並みを眺めていた。
「これから戴冠式までは一月程ある。王宮で部屋を用意しているからそこで休むように。今夜は歓迎の宴を用意しているが、無理はせずともよい」
アラス様からは労わるような言葉をかけられた。
――そうですよね。大分元気になりましたがポンコツな体ですもの。
帝国の宮殿に着いたところ、お出迎えの中に一際目立つ存在があった。それはまるで悪役になりそうな令嬢が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。皇帝陛下」
彼女は赤毛の気の強そうな女性で、悪役令嬢と言われても納得のツリ目。
どうみても私の方がヒロイン枠になりそう。私の見た目は儚い病弱美少女。
私としては赤毛の女性に向かって、婚約破棄をしたいと叫びたい。




