三十二 フリーニャとの始まり
……傲慢。確かにフリーニャで始めるとそんな感じで始まった。断罪されて贖罪の旅に出る。それがフリーニャの始まり。
『薔薇伝』ではフリーニャは派閥争いに負けて冤罪で追放されてしまう。そして、便宜を図らないようにと周辺の町に手配されて満足に次の働き先も見つけることが出来ず、エイリー・ブレーネ国へ向かい冒険者として身をたてようとするところまでがチュートリアル期間。
だけど結局エイリー・グレーネ王国には辿りつけないようになっている。周辺国へは手配されていたから結局聖地へと方向を変えたのよね。聖地の方がアマゾナス国には近いし、それに聖地なら受け入れてくれるだろうという思惑と贖罪の巡礼の為にと。
「あのパーティとは東へ向かう荒野の途中で出会いました。水が切れて行き倒れていた私を介抱してくれて良い人達と思っていたのです」
『薔薇伝』では旅の行商人に助けられるのよ。そこにちゃっかりセレクもいて、最初に少しエンカウントできる。上手くいけば一緒に旅をしてくれて行先を聖地へと変える。
「行商人ではなかったのですか?」
「商人? 彼らは冒険者集団だと言っておりました。王女殿下もお話なさったと思います」
「そうなの。そうでしたわね」
何だか少し『薔薇伝』とは違うわね。アラス様も現在はもう十八歳になられる。だけど皇帝には就いていない。本当なら私達が出会った二年前の十六歳で皇帝位に就いていたはず。フリーニャも本来なら聖地へと向かっていた。この公式設定とのズレ、これがエイリー・グレーネ王国の滅亡をどう変えることができるのかしら。
私はまだ出会っていないメインキャラのセレクの行方が分かればと思っていたので少し残念な気持ちだった。『薔薇伝』でのセレクは歌人と商売をしながら世界を回っていた。だからキャラバン隊を最初から持つことが出来る。セレクを序盤で仲間にできれば持てる荷物や同行する人の最大数が増えるし、移動時間も削減される。まあこれは普通のことだけど。
「でも王女様は冤罪だと信じて下さっていたのですか? 出会ったばかりだと悪い噂しかなかったはずなのに」
「そうね。私は出会ったときにそれを確信しました。それに……、出会う前でもきっとそれは変わらなかったと思いますわ」
――だって、あの正義の人のフリーニャだもん。そもそも将軍までなれたのはその正義感で幼少期から鍛錬してきたからだし。そして、その行き過ぎた正義が周囲の人々の反感を買ってしまった。
私の言葉にフリーニャは驚いていた。ただ黙って私を食い入るように見つめてくる。
「……」
そして、フリーニャは私にエイリー・グレーネ王国の騎士の最上級の挨拶をしたのだった。
――え? 何かいけないことを私は言ったのかしら。
「このフリーニャ全力を持ってお仕えいたします」
「え、ええ。お願いね。とても心強く思います。居合道をともに極めましょう」
「王女殿下はそのこともご存じとは恐れ入ります」
そして、私がこの一月休養している間に騎士団から樹海へのフェンリル調査討伐隊が組まれて出発していた。彼らはギルドや冒険者にも協力を求めて情報収取や捜索に当たったけれど未だ発見されていない。
樹海はまるで何もいなかったかのように静かなものだったそう。確かにまだ移動していないなら街まで襲ってきそうよね。息子のハーティもアラス様が倒したのだし。復讐にきてもおかしくないのだけど。
そもそもフェンリルは中ボスで、確かに樹海ではなくてここから北の山岳地帯にいたはず。フェンリルを味方につけようと、雪山に向かうのよね。だけど既にフェンリルは闇側の陣営に与していたため戦闘になるの。やっつけると闇の神のデータや特殊な防具などが手に入った覚えがある。
「また行くことになるのかしらね。それかまた視察に行ってみたいわ」
「それは……、どちらにせよ。王女殿下のご参加は難しいかと」
「そうですよ。稚い姫様があのようなところに行くこと自体がそもそもおかしかったのですよ。陛下だってもう許可はなされないと思いますよ」
「むむむ。でもまだ樹海の様子を見ていなかったのよ。入り口をほんの少しだけ見ただけだったのに」
「それでもフェンリルのような伝説級モンスターが出てきたのですよ。もうエードラム帝国への輿入れが決まっている姫様が冒険者まがいのことをするのはお相手の皇太子殿下もとてもご心配されることになりますよ」
私はアナベルに言われてしゅんとなった。確かに無謀かもしれない。だったら、装備と訓練を強化ね。魔術は使えないから兎に角体力づくりよ。
「いずれ、私はフリーニャと共に戦いの場を駆け巡るかもしれません。それまでに力をつけておきたいのです。私と一緒についてきてくださいませ」
「はい! このフリーニャは王女殿下の御為にどこまでも馳せ参じましょう」
「では早速、アラス様が考えてくださった、『これで剣士に成れる』の手順で訓練をいたしましょう」
――フリーニャを鍛えて一緒にボス戦をこなせるようにならないとね。
「これからも忙しくなるわ」
「はい! 精進いたします」
「姫様は強くなる必要はありません!」
アナベルは頭を抱えて叫んでいたけれど強力なメンバーが入ったので頑張らないとね。いきなり中ボスクラスと遭遇するんだもの。油断はできないわ。
そう考えて訓練に励んだけど。私は視察に出ることは許されずにお城の中で過ごすことになるとは思わなかった。
お読みいただきありがとうございます。
年末年始は投稿は少しお休みするかもしれません。
そして、第一章まで書き終われば少しお休みします。




