二十 誓いの指輪
「そして、いずれの暁には黒流剣をマスターされますように。伝説の武器はあなたのお側にあります」
アラス・エードラムで始めた場合、初期装備ではないけれどイベントを進めるとエードラム城内で黒流剣という伝説級の剣を手に入れることができるのよ。そして大剣使いなら終盤まで使える優れ物だったはず。
「……それはあの我が国の伝説とされる業物のことか。一体、そなたはどこまで……、いや夢だと申したな。それではそなたが見るのは我がエードラムだけではなく、エイリー・グレーネもではないのか?」
立ち上がったアラス様は見上げる程の身長差になっている。私は黙ったまま見つめ返した。
「その美しい澄んだ瞳に何が見えたのであろうか? 成程、それはそなたのような小さなその手と肩に背負えるものではなかろう」
――もしかしたら、アラス様にエイリー・グレーネ王国の滅亡の未来を推測されたのかもしれない。何故かそのとき私の視界が思わず緩んでしまった。
だって、一国の興亡ましてや世界の存亡をこんなちっぽけな私がどうこうできるものではないもの。だから誰にも相談できず足掻いてきた。それが――、
肩に置かれたのは大きな確かな手の温もり。
「私も遠くながら援護をしよう。私の名で使えるものならいくらでも使えばよい」
「それは……」
「約束しよう。古き光の国の小さき我が王女へ。変わらぬ友愛と光の下を歩むと」
そうして彼の指からは指輪が抜かれて私に渡されてしまった。途端にバルドが声を上げた。
「それは、エードラム魔道帝国からの正式なものなのでしょうか? 我が国の王女への……」
「勿論だ。違えることはない。リルア王女からの返事はいらぬ。主導権は彼女にある」
「そこまで申されるとは……、分かりました。フォルティス王子付き騎士見習いバルドが確かに見届けました!」
そしてバルドはエイリー・グレーネ王国の騎士団の最上位の礼をとった。
――何なのかしら? お古の指輪をもらっただけだけど。じっと見るとエードラム帝国の紋章も入っていた。こんなイベントアイテムなんてあったかしら? でも重要なものなのを私にくれるはずはないしね。
「ふっ。まだ幼い。無理強いは決してせぬよ。ただ、我が名がリルア王女の悪夢を減らせるならそれで構わぬ」
私はアラス様を再び見上げた。それはとても優しい微笑み。勇猛果敢なエードラム魔道帝国の皇帝の表情ではなかった。何だか胸が少し温かくなる。
――そう、私はエイリー・グレーネ王国の滅亡をなんとしても止めなければならない。そのために力になってくれると言うのだ。ありがたく受け取ってこう。
「ありがとうございます。私のたわいのない夢のお話に過分なご助力。でも、今の私にはとても心強く思われます。エードラム魔道帝国のますますのご発展をお祈りいたしておりますわ。そして……」
――エイリー・グレーネ王国の存続のため、精一杯抗ってみせます。
礼をして去っていくアラス・エードラム様の後ろ姿を見送った。
「ほわぁぁ。まるでおとぎ話のようでしたわね」
アナベルが溜息をついて頬を染めていた。
「そうなの?」
「だって、姫様。突然現れた正体不明の護衛があの魔道帝国の皇子だったのですよ! それに何度も助けられて、最後は求愛だなんて……。ああ、誰かに話したい!」
「求愛?」
――はい? 私はまだ八歳ですよ。中身は少々年をとってますけど。リアルでもプロポーズなど経験したことない。あれがそうだったの?
私は手元の指輪を見る。給料の三か月分なのかな。いやいや。まさか、アラス様は……。
「……私は見届け人として、陛下に申しげてまいります」
やや肩を落としたバルドは部屋を出て行ってしまった。
そうして翌日、両陛下との晩餐で事の次第は判明した。
「いや、まさか、リルアの婚約がこんなに早くとは」
「まあ、悪いお話ではありませんからね」
「いや、遠いよ。エードラムは。私は反対だな。リルアには……」
お父様とお母様が話し合われている。
「ですが、早速、正式な立ち合いの下で行われておりますし、後日正式な使者を送るとのこと。認めない訳にはいかないでしょうね」
フォルティスお兄様は困惑しつつも言葉を続ける。
どうやら八歳の私とエードラムの皇子様と婚約することになってしまった。こんなの公式設定にあった覚えはないのだけど?




