第45話:嫉妬と呆然と真っ白な長髪
第45話
「ギリギリですまなかったねぇ。早くこれを飲みなさい」
立花に促されて、あたしは薬を飲んだ。
何となく、体が軽くなったような感覚になる。
「私自身をダミー人形の代わりに使ったのだが‥ぶっつけ本番で成功して良かったよ」
立花はホッとした表情を見せた。
その顔を見て、あたしは今まで張り詰めていた気持ちが爆発して涙が止まらなくなった。
「うぇーん、だちば、なさん、あだしぃほんどはすごくごわかった」
あたしは立花さんの胸に顔を埋めてワンワン泣き出してしまった。
「いやあ、その、涼子くん?本当にすまなかったねぇ」
立花は少し困った顔をしたが、あたしの頭を撫ぜながら、抱きしめてくれた。
「どうした?複雑そうな表情だな」
レオンはニーナに話しかける。
「そ、そんな、嫉妬なんてしてませんわ」
ニーナは頬を赤らめて言った。
そんな中、呆然としている男が居た。
ヒースクリフ=マーガレットは現在の状況が全く理解出来なかった。
(何故姫様は賊の男に抱きついているのだ?)
「姫様!!危険ですので、その男からお離れください!」
ヒースはあたしに向かって叫んだ。
「黙りなさいよ、さっきからあなた何なのよ!」
あたしは涙でぐしゃぐしゃになった顔で叫び返した。
「姫様、このヒースをお忘れか?」
ヒースは兜を取りはずして、あたしに話しかけた。
真っ白な長髪に端正な顔立ちの男だった。
「いや、だから本当に知らない人です」
あたしは、怪訝な顔でヒースを見た。
「ご冗談はよしてください。貴女が幼少の時より共に過ごしたではありませんか」
ヒースは食い下がる。
「本当に知らないです」
あたしは既に涙は止まっていて、少しうんざりしていた。
このような押し問答が10分程続いた。
「まさか、本当にお忘れとは‥」
ヒースはようやく引き下がる。
「ちょっと、いいかい?」
立花はヒースに話しかける。
「何だ?姫様のお供が親衛隊の俺に何か用か?悪いがお前たちをぶっ倒してでも姫様を連れて帰るぞ」
ヒースは露骨に態度を変える。
「いやあ、君が探している姫様と涼子くんは別人ではないのかな?」
立花はようやく質問したかったことが話せた。
「そんな訳あるか!確かに何年も会っていないが、きちんと毎日写真を俺は見ている。見忘れるものか!!ほら見てみろ、間違いあるまい」
ヒースはあたし達に写真を見せる。
写真にはあたしと瓜二つの人物がドレス着て写っていた。
「確かに‥そのまま涼子くんと同じ顔だねぇ」
立花は興味深そうに写真を見た。
「お前、グレスの王族なのか?信じられん」
レオンは驚いた顔をした。
「どうだ、これで文句はあるまい。姫様を返して貰うぞ」
ヒースは勝ち誇った表情をしていた。
「でも、涼子様のお胸はこんなに大きくありませんわ」
ニーナは写真を指さしながら言った。
「‥‥‥‥」
少しの間沈黙が流れた。
ヒースはあたしの身体の全体をじっと見つめて微動だにしなかった。
「もしかして、別人か?」
沈黙の後、ヒースは蚊の死んだような声で言った。
「そうだって最初から言ってますが‥」
あたしは複雑な気持ちで答えた。
「失礼した。転移呪文の形跡を追って来てみたのだが‥人違いだったみたいだ。それにしても似ているのだが‥」
ヒースはそう言いながら写真とあたしの胸を見比べた。
「‥‥はぁ。申し訳無いことをした。もし、グレス王国に来ることがあったら訪ねてきてくれ。いくらでもご馳走しよう。それでは!」
ヒースは倒れている白馬を起こしてどこかに行ってしまった。
「とりあえず、終わったのかな?」
あたしは一言漏らした。
「その様だな。全く、人騒がせな男だ」
レオンは吐き捨てるように言った。
「本当に色んな意味で疲れましたわ」
ニーナも疲れきった顔をしていた。
「まあ、涼子くんが貧乳で助かったよ。戦っていたら勝ち目がなかったからねぇ」
立花はあたしを見つめながら笑っていた。
「えー立花さん、ひどいです。一応気にしているんですよ」
あたしは少し怒った顔をした。
「先生、また余計なことを‥いい加減にしてくださいまし」
ニーナがいつものように立花を咎めた。
あたしには、それがとても懐かしく感じられて癒やされた。
第46話に続く




