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第19話:ステーキとケーキとアイスクリーム

第19話







「おっ流石にこの時間は席が空いてて、いいねぇ」

あたし達はウェイターに席を案内してもらった。


「うーんどれにしようか。ウイングドラゴンのサーロインステーキかあ。久しぶりにこれにしようかな」

立花から手渡されたメニューには、物騒な名前ばかり載っていた。


「あのー、ウイングドラゴンって国境を出てすぐに遭遇した‥あれですよね」

あたしは恐る恐る立花に質問する。


「まあ、この辺じゃあよく捕獲されるポピュラーな生き物だからねぇ。絶滅しないところをみると繁殖力が高いのかねぇ」

立花は真面目に答える。


(そういう問題じゃなくてぇ)

あたしは、あの炎を吐く恐ろしいモンスターの顔を思い出して身震いした。


「涼子くん。気持ちは分かるが、君も一時的とはいえ、こちら側の住人になったんだ。私達の国の先人も【郷に入っては郷に従え】と言っていたではないか。旅は長いんだ、いつ食べられなくなるか分からないんだぞ」

立花はよく分からないが【いい話】風なことを言っている。


(確かに‥そうだけど、ドラゴンはハードル高いよ。せめてカエルくらいならなあ)


「ここで、自分の殻を破るんだ。きっと君も成長できるぞ」

立花がそういった時、あたしも覚悟が決まった。


(そうよ、こんなことくらいで挫けてなるものか、お父さん、涼子は今から成長します)


「あたしもウイングドラゴンのサーロインステーキで!」

あたしは、はっきり言って変なテンションだった。


「私はサーモンのムニエルにしますわ」

ニーナはあたしの見ていたメニューの裏側を見て注文した。


(ニーナさんそりゃないよー)

あたしは体中の力が抜けた。




20分後‥


意外と普通の見た目のステーキが運ばれてきて、味も少し独特の匂いはしたが何とか食べることができたので、あたしは、ホッとしていた。


「それにしても、事件ってこんなに早く解決するのですね」

あたしは、話を今夜の事件に戻した。


「ん〜正直、私がいくら名探偵でも、あれだけ早く解決することはあまりないねぇ」

立花はデザートを選びながら答えた。


「ケイトさんは、もちろん罪を犯したという点ではマトモではなかったけど、人間的にはかなり常識的だった。魔法自体もそれほど強力なものが使えるわけじゃ無かったからね。まあこういう人の起こす事件は言い方は悪いけどかなり【雑】になる」

立花はまだ、アイスクリームにするかケーキにするか決められない。


「クラウドくんがノーマン氏の上司の汚職を告発しようとしたことが、今回の事件の発端だった。そもそもケイトさんはノーマン氏に脅されているという状況が無ければ、関係ないことなんだ。こういう偶然が普通の人間に眠っている鬼を起こすことがある。あっ私はチョコレートケーキを1つ、君たちも頼みたまえ」

あたしとニーナはバニラアイスを注文した。


「偶発が呼んだ殺意というのはそれほど強くは無い。こういう人は反省したり、捕まって実はホッとしたりする場合が多いねぇ。勿論殺人なんかに良い悪いは無いのだが、捜査する上では、粗が見つけやすい」

立花はあたしの目を見て説明を続ける。


「私が対峙して1番やっかいだった犯罪者は人間から大きくかけ離れた力を持つ上に、人を殺すことに躊躇が無かった。私達が日常生活で顔を洗ったりすることと同じ感覚で殺人をしてしまう。あまりに自然に犯罪を起こすから隙が無い。そんな人間だったよ」

チョコレートケーキを食べながら、立花は話し終えた。


「恐ろしい人ですね」

あたしはそう答えたが、恐ろしさの10%も理解していなかった。


「うーん‥」

立花が変な声を上げた。


「どうしたんですか。まだ、何か?」

あたしは心配になって尋ねた。


「やっぱりアイスクリームにしておけば、良かったなあ」

立花は、今日1番の真面目な顔で言った。


「あたしのをひと口食べますか?」

呆れてあたしは答えた。


「ありがとう、悪いねぇ」

立花はそう言うと、スプーン一杯にあたしのアイスクリームをすくって食べた。


「ヒドい、食べ過ぎですよ〜」

あたしは、少し可笑しくて笑いながら言った。


「先生、大人気なさ過ぎですわ」

そう言いながら、ニーナも笑っていた。


知らない人だらけで、知らない事だらけの世界だったがあたしはこの瞬間、大きな【幸福】を感じていた。


長かったパーティーの日の夜は終わった。



第20話に続く


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