第20話:船着き場とデッキと内緒の話
第20話
パーティー会場での殺人事件があった日の翌日、あたし達はスタンレーホテルを後にした。
「ラボン地方までは、船で2泊かかる。降りたら、グレス王国までは、ほとんど徒歩になる。あっちの大陸はこちら程交通機関が発達してないからねぇ」
立花は、あたしに言い聞かせるように説明した。
「ここからはさらにハードな旅になるから覚悟しなさい。もちろん、旅慣れた私達が君をサポートしていく。ただ、油断すると怪我をしてしまうから一応ね」
立花はそう忠告して、船着き場まで歩き出した。
「何か、今日の立花さん頼りになりそうなオーラ出てますね」
あたしは、隣で歩いているニーナに言った。
「あら、先生はあれでも最初から結構頼りになる方ですわ」
ニーナはキラキラした眼差しで、立花を見ていた。
「やっぱり、ニーナさんって立花さんのことが好きなんですか?」
あたしは、思ったことをそのまま口に出した。
「なっなっなっ何を一体、おっ‥おっしゃられてますの。りょっ涼子様っ??」
ニーナは今までに無く、動揺していた。
「えっ、ごめんなさい。ニーナさんを見てたら、そうかなと思って‥つい」
あたしも釣られて動揺した。
「わっ私が、せっ先生を、あっ愛して‥、けっ結婚してっ、こっ子供を産んでっ、なんて思ったこともないですわ‥からかわない下さいましっ」
ニーナの顔は真っ赤になった。
「ニーナさん、本当にごめんなさい。からかうつもりなんて無かったんだけど、ニーナさんが立花さんを凄く【信頼】していて、良いなあって思ったんです」
あたしは、焦って弁解した。
「はしたないところを失礼しましたわ。そうですわね、世界中の人間全てが先生を疑っても、私は【信頼】しますわ。先生は私にそうしてくれましたから」
ニーナの想いがよく伝わったような気がした。
10分後‥
「ここが船着き場だよ」
あたし達の目の前には、大きな港が広がっていた。
船が何隻も停泊している。
「私達が乗る船はここだな」
立花が指差した船は、不思議な色で光っている船だった。
「この光はね、まあ虫除けスプレーみたいなものだよ。海中のモンスターが嫌がる波長の光を出しているんだ。最近の船には大体装備されているねぇ」
立花があたしの疑問に対しての説明をした。
「まあ、スリルを味わいたいなら別の船にするよ。私がこっちの世界に来たばかりの時は船に乗る度に沈没したものだったよ」
立花は目をつぶりしみじみと語る。
「立花さんが言うと冗談に聞こえませんよ」
あたしは一応反応する。
「本当さ、あれは5年前くらいだったかな‥」
立花が過去の話をしようとする。
「先生、その話が終わる頃には日が暮れてしまいますわ」
ニーナが中断する。
「おっと、また悪い癖が‥。私の武勇伝はまた今度にしようかな。それじゃあ乗船手続きを終わらせますか」
あたし達は船に乗って手続きをした。
30分後‥
あたし達を乗せた船は港を出港した。
船は思ったより早いスピードで陸地から遠ざかる。
意外なことに揺れはほとんど無く快適な乗り心地だった。
あたしはデッキから外の景色を見ていた。
「海が好きなのかい?」
立花があたしに聞いてきた。
「そうですね、綺麗で大きくて見ていると落ち着きます。不思議ですね、全然違う世界なのに海は青くて懐かしい感じがします」
あたしは、少し感傷的になって答えた。
「まあ、私達はいわゆる島国出身だからねぇ。こういう景色を見ると少しセンチメンタルになるのだろう」
立花も海を見ながら同調した。
「立花さんは、日本に帰りたいと思ったことは無いのですか」
あたしは、以前から思っていた質問をした。
「もちろんあったさ。来たばかりの時は、毎日そう思っていたよ。まあ、色々あったからねぇ。こっちの世界の大切なものの方が重くなったんだ。それだけだよ」
立花は優しく答える。
「それって名探偵として、認められたこととかですか?」
あたしは、また質問した。
「ははっ、それも大切なものの一部だね。でも、1番重くて大きいものは何かと考えると【信頼】かな」
立花は上機嫌そうに笑っていた。
「1番が【信頼】ですか?」
あたしは、立花の方を向いてみた。
立花は、真っ直ぐ海を眺めていた。
「いいかい涼子くん、【信頼】っていうのは財産なんだ。どんなに苦しくても、絶望的な状況でも、誰か1人でも信じて寄り添ってくれている人が居るならば、前を向いていられるからねぇ。君もいつか、そんな人と出会えたらいいね」
そう言って立花はあたしの方を向いた。
「よくわからないけど、よくわかるようになれる様に頑張ります」
あたしは真面目に答えたつもりだった。
「はっはっは、君は素直すぎて凄いねぇ。真面目に話してしまって少し恥ずかしくなったじゃないか」
立花は大声で笑いだした。
「あたし、そんな変なこと言いましたか?」
あたしは、何で笑われたのかわからなかった。
「そんなことは無いよ。君が依頼人で良かったと思っただけさ」
立花がそう言ったとき、デッキの出入口から声が聞こえた。
「先生も涼子様もここにいらしていたのですね。もう、私も誘って欲しかったですわ」
ニーナが不満そうな顔で言った。
「すまないねぇ。少し内緒の話をしていたものでね」
立花は口に指を当てて、あたしの方を向いた。
「私だけ仲間外れはズルいですわ。涼子様教えてくださいまし」
ニーナがあたしの肩を揺すってきた。
「そんな、別に内緒の話なんてしてないですよ」
あたしは慌てて答えた。
「涼子様まで、意地悪されますの。酷いですわ」
あたしがニーナの誤解を解くまで5分くらい時間がかかった。
【信頼】の意味について、あたしが真剣に考えるようになるのはもう少し先のことになる。
第21話に続く




