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お節介娘



「そりゃあ、結婚したいとは思っているわよ。でも、いろいろしがらみがあって・・・」


「はっきり言ってちょうだい、クロリッサ。あなた、結婚したいの?したくないの?」


ここはウォルズ公爵家所有のブライトンのマナー・ハウスである。約束通り、アデラインはサー・ウォルズに招かれて狩りの催しにやってきた。

共に招かれた両親や伯母は口を揃えて言うのだ。サー・ウォルズはお前に結婚の申し込みをするためにここに招待してくださったのだ、と。


それが本当ならありがたいが、まだ油断はできない。『求愛の果てに』ではこのブライトンの屋敷で二人は更に仲を深めていくのだ。サイモンが制止するのを振り切って森に入ったクロリッサは、毒虫に足を噛まれ歩けなくなってしまう。しかも不運なことに雨が降りだして身動きがとれなくなり、死を覚悟するのだが、そこに颯爽とサイモンが現れて彼女を救い出す。そして降りしきる激しい雨の中、二人は熱のこもった深い口づけを交わす。


想像するだけでも嫌になる。クロリッサは仲の良い友達だし、サイモンは私が恋い焦がれる人だ。二人がそういう関係にならないように目を凝らして見張っていないと!




今クロリッサと話しているこの場所は、女性たちが集まっているサロンである。皆それぞれに話し相手を見つけて楽しんでいるようである。




「クロリッサ、あなたリチャードと結婚したいんでしょう?彼は有料物件だからみんな狙ってるわよ。今のうちに確保しなきゃ!」


紅茶の入ったカップを片手に熱弁する。



「声が大きいわ!あなた以外にまだ誰にも話していないの、リチャードのことは・・・。」


いつもハキハキしている彼女が顔を赤らめて話す姿は可愛らしい。



「ペンブルック伯のご令嬢も、クラレンド男爵令嬢もリチャードに目をつけてるって話よ。彼は有料物件ですもの。うかうかしてられなくってよ!」



小狡いとは思うが、クロリッサの中にある今はまだ小さな恋心をくすぐって確実に火をつけるのだ。



「リチャードは私が政治の話をしても嫌な顔をしなかった唯一の人よ。私にとって、彼は・・・・とても大切な人なの」



その言葉を待っていた!クロリッサ、よく言ってくれたわ!




「ねえ、作戦を立てましょう。リチャードをあなたに振り向かせるのよ。まずはあなたを変えなくてはね」


「いろいろと私のために考えてくれるのは嬉しいけど、私を変えるってどういうこと?」



不思議そうな顔をしたクロリッサを上からしたまでじっくりと見渡す。



「実はね、私リチャードについて調べてみたの。今までの恋のお相手はみんな洗練されたご婦人方ばかりよ。言いたくはないけど、今のあなたは『洗練された』には少し遠いかもしれないわ。あなたはアメリカから来たのだし、こちらの流行や装いには疎いでしょ?」


「でもこのドレスはセルフリッジズで買ったものよ。百貨店の人間は今一番人気があるものだって話してたわ」


「こちらの身分ある人間はセルフリッジズでは買い物はしないのよ。百貨店といえばハロッズだけ。ハロッズで買い物すれば良かったのに。

それはさておき!私、あなたのために何着か用意してきたのよ!」


箪笥のように大きなトランクから服を取り出す。



「あなたの体型はエレノア伯母様とよく似ていたから、伯母様を参考にして作らせたの。この服はデコルテを綺麗に見せてくれるのよ。見えそうで見えない胸のラインが男心をくすぐるのですって。あなたは細身でデコルテラインがとても美しいのだから、いつもそんなに襟の詰まった服を着ることはないわ。こっちは身体のラインを惜しげもなく見せるようなデザインなの。ヒップラインからつづく滴るような裾が素敵でしょう?あと何着かあるけどすべて紹介してたら日が暮れるわ」


「アデライン、あ、あなた、こんなドレスを私に着ろって言うの!?無理よ、私には。こんなスタイルのものは着たことがないわ・・・」


クロリッサは革新的な思想を秘めた新しい時代の人間ではあるが、彼女の纏う服は前時代的である。年頃の若い女性だと言うのに伯母のエレノアよりも露出が少ない。


アメリカではこういう型のものが流行っているのかと思ったが、彼女と同じくフィラデルフィアから来た母の遠い親戚はハウス・オブ・ウォルトで仕立てたドレスを着ていた。



「大丈夫よ、絶対にあなたに似合うって私が保証するわ。この服を着て夜の晩餐会に出るの。そして彼の隣で楽しくおしゃべりしながら食事をして、食後にテラスにでも出て二人きりになる。そしてあなたのこの魅惑的なドレスで彼を誘って虜にするのよ!」



まるっきりハーレクイン小説に出てくる主人公を手助けするお節介な友人そのものだ。


リチャードが彼女に首ったけになってくれなきゃ困るのよ!なんでもするわ!




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