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転校生、山田くん  作者: ぱくどら
番外編
48/49

大学生編 5

    ◆    ◆


 ボーっとモニターを眺めるのも面倒になってきた。

 だがしょうがねぇ。あの先輩が何度も何度もしつこく頼んできたことだ……せめて戻ってくるまでの辛抱か。

 確かに奴が動く可能性がある。近くに先輩がいないし、周りに邪魔をする人間もいねぇ。今日が絶好の日だろう。


 今は建物に入って留まっている。たぶん、飲み会ってやつが始まってるんだろうな。

 俺の核じゃねぇから詳しい状況までは掴めねぇが、あの女が自分の家に無事に帰ればそれでいい。

 そうじゃなかったら――俺が行かなきゃダメなのか?

 ……面倒だな。早く先輩戻ってこいよ。



 お、建物から出たみたいだな。このままさっさと帰ってくれれば終わりだな。


 ……。なんで動かねぇんだ?

 ん。何かに乗ったのか? すごいスピードで動いてるぞ。

 しかもそっちの方向は……あの女の家じゃねぇ。

 

 あー……。

 あの人間、先輩の忠告を無視しやがったな。どこに連れていくのかは知らねぇけど……先輩が来るまでは俺が相手するしかねぇか。

 馬鹿な人間だな。



 ――ようやく止まったか。

 ……宿泊施設か? まぁいい。座標さえわかればすぐに向かえる。

 先輩がキレるようなことになる前に止めてやるか……。



 座標セット完了。

 ――行くか。



    □   □



 ――……さて。


 ここは、部屋の玄関か。靴が三足? しかもどれも女の靴じゃない汚ねぇ靴だな。

 ……どういうことだ? こりゃさっさと行くべきだな。

 ――……おらっ!!


「……っ! 何だ!?」 


 扉を蹴り開けると、ベッドの上に横たわる栗原とそれに跨るあの男――秋山、だったか。

 もう一つのベッドの上にも横たわる女と跨る男。

 床にも女が倒れていて、大柄の男が服に手をかけようとしている。

 女どもはいづれも……怪我はしてねぇな。あぶねぇ、ギリギリだったな。


「んだてめぇ!! どうやって入ってきたんだよ!!」


 床に倒れていた女に手をかけようとしていた男が、立ち上がって威勢よく近づいてくる。

 ――見たことねぇ奴だな。誰だ?


「んなことはどーでもいいんだよ。この状況はどういうことだ? ……おい、てめぇ、先輩の忠告忘れたとは言わせねぇぞ」


 栗原の上に跨った秋山を睨みつけると、向こうも俺を睨み返してきた。


「お前は確か……山田にくっついてる野郎だな。どっから付けてきたんだ? 山田もいるのか?」

「なんで先に俺が答えなきゃいけねぇんだよ。先にそっちが説明しろ」

「ダメだ話が通じねぇ。相手は一人だろ、さっさと黙らせよう」


 そう秋山が言うと目の前の男が頷き、ポケットからナイフを取り出した。

 おいおい、なんで武器持ってんだよ。そのナイフで服でも切り裂くつもりだったのか? 

 

「そのナイフは何だよ。女どもに何するつもりだったんだ?」


 すると、大柄の男がニチャアと汚い顔で笑ってきた。


「てめぇも興味あるのか? もちろん、女を脅すに決まってるだろ? ナイフをちらつかせて、ちょっと血を見せればおとなしくなるのさ。後は写真なり動画なり取れば奴隷の出来上がり」

「……はぁ、趣味わりぃな」

「んだと?」

「今まで見てきた人間中でいなかった、まさに外道って奴の思考だな。そういう意味で興味が沸いてくる」


 まぁどこでもこういう奴はいるよな。むしろ今まで出会わなかったのが奇跡なのか。

 本気でこいつらの脳みそ持ち帰って色々抽出して、そうなった経緯やら人間の残虐性なんかを調べたくなるな。

 ――上司も満足するんじゃないか? いや、今はそういうのがほしいんじゃないんだよな……。やっぱダメか。

 けど純粋に俺の研究材料として持ち帰りてぇな。


「……怖気づいたのか? もうおせぇんだよ!!」


 俺が急に黙ったせいで勘違いさせたらしい。

 うーん、どうやって持って帰るか。一旦黙らせるか。こいつらの意思はいらねぇもんな。


「……たすけ、て」

「ん」


 床に倒れていた女――確か、なんとか絵里、だったな。

 薄っすらと目を開けて、口を動かしている。意識が戻ったのか。


「あー……そのまま眠ってた方が良かったんだが……しょうがねぇな」


 しょうがねぇとはいえ、面倒なことになるな。

 はぁ――と思ったら、急に目の前の男が血相を変えて向かってきた。


「おら死ねええええ!!!」


 汚ねぇな、唾飛ばすんじゃねぇよ。

 力任せに向かってくるナイフをさっと避けて、男のひたいにチップを張り付ける。

 ――ま、とりあえず眠ってもらうか。

 グッとチップを押し込んで――男はそのままバタッと倒れた。

 ……眠らせたけど、実験台まで運ぶのって俺だよな。

 ……やっちまった。眠らせるんじゃなっくて、一時的な洗脳にすりゃよかったな。


「おい! 何コケてんだよ!」


 秋山はどうやら男が勝手にこけたと思っているらしい。ま、傍目から見りゃそう見えるだろうな。

 

「……おい、てめぇはいい加減その女から離れろ」


 いつまでも跨ってんじゃねぇぞ。

 先輩が来たらどうなるか知らねぇぞ。


「うるせぇんだよ!! てめぇらさえいなけりゃ――」


 言葉を置き去りにして、秋山の身体がぶっ飛び壁に激突した。

 頭を強く打ち付けたのか、ぐったりと倒れこみびくともしない。


「……良かった、寝てるだけみたいだ……」


 元の場所を見れば、いつの間にか先輩がいた。

 心配そうにあの女を抱き締めている――いつ来たんだ?


「英雄、なんでさっさと動きを止めないんだ? 知美に何かあったらどうするんだ?」


 普段とは打って変わって驚くほど冷めた口調だった。

 これは、めちゃくちゃ怒ってるぞ。


「あー……変に動くとやばい、かなぁと」

「……まぁいいや。ほら、あいつもさっさと眠らせて」


 頭でクイっと指し示す方向には、残り一人の人間が唖然とした表情で固まっている姿だった。

 まぁそりゃびっくりするだろうな。マジでぶっ飛んでいったからな。


「こ、こっちに来るな!」

 

 俺が近寄るとそいつは女から離れて、ベッドから立ち上がった。

 が、広くはない部屋で逃げられる場所なんてない。


「ま、あいつみたいに痛くねぇからいいだろ」


 そう言ってチップをひたいに張り付けて――しばらくの間眠ってもらった。

 ……あー、結局全員眠らせちまった。


「英雄、こいつらのスマホを回収して、全データ消去するんだ」

「ぜ、全データ?」

「当たり前でしょ。動画やら画像なんかあっても意味ないんだから。あ、もちろん家にパソコンがあるならそれも全データ消すんだよ」

「……え、俺がするんすか」

「それぐらいできるだろ?」


 冷めた物言いに背筋がひやりとした。

 こいつらの自宅も特定しろってことだよな……本当に面倒なことになったな。

 あー……先輩の頼みなんて引き受けるんじゃなかった。


「……何の話を、してるの?」


 ……忘れてた。

 この女だけ目を覚ましてたんだった。まだ身体がだるいのか、頭を抱えて立ち上がることはできないみたいだが……。


「……川本さん、今の話聞いちゃった?」

「うん……山田くんたちって……何者?」

「うーん……」


 こりゃこいつの記憶も消すしかないんじゃねぇのか。

 じゃないと俺たちの正体がいつバレてもおかしくねぇぞ。


「……俺たちの秘密はね、知美は知っていることなんだ。だから心配しないでほしいんだけど……それでも知りたい? 返答によっては対処が変わってきちゃうんだけど……」


 え、なんで選択の余地を与えるんだ?

 

「……知りたい。絶対誰にも言わないから」

「そう。……じゃあ英雄、見せてあげなよ」

「……はい?」


 え、俺?


「本当の姿を見せてあげなよ」

「なんで俺が?」

「いいから」


 意味わかんねぇ。ま、見せりゃいいんだろ、見せれば。

 ――確かに見せれば、うっとうしい付きまといもなくなるかもしれねぇしな。


「……う、嘘でしょ」


 女は口を手で覆い、言葉を失っている様子だった。

 俺の頭から足の先までをじっくり眺め――俺の顔をじっと見つめてくる。


「黒い……タコみたい」

「タコじゃねぇよ」


 俺の声にビクッとする女。……まぁ声色も変えてたからな。

 さて、この女はどうするんだ? この姿を見ても、周りに黙ってることができるのか?


「あの……目とか口とか鼻もないみたいだけど……英雄くんはちゃんと私のことが見えてるの?」

「当たり前だろ」

「声も……聞こえてる?」

「……じゃなきゃ質問に答えてねぇだろうが」


 何言ってんだ、この女。


「じゃあ……私、英雄くんの秘密を知っちゃったから、お話相手ぐらいにはなってくれるよね?」


 にっこりと笑って小首をかしげる女――こいつ、何考えてんだ?


「お前……頭おかしいのか? 普通、ビビッて叫ぶぐらいするんじゃねぇのかよ」

「びっくりはしたけど……みんなには普通に人間の姿として映ってるんだよね? だったら関係ないかなぁ。それに今の姿、怖い見た目でもないし……私は平気だよぉ」

「いや、お前が平気でも関係ねぇよ。……ちょっと、先輩! この女どうするんすか!」


 先輩の方を見ると――笑いを堪えているみたいだった。

 どこに笑う要素があるんだよ。


「……ごめんごめん、そういう答えが返ってくるとは思っていなかったから。ヒデオの対応も面白くってさ」

「今は面白いとか関係ないんすよ。いづれこの女がバラす可能性があるんすよ? 記憶を消す方が絶対無難でしょ」

「私、絶対誰にも言わないよ!」


 女を見下ろすと、ムスッとした表情で睨み上げていた。

 ……何なんだ、この女。俺、今、本来の姿で晒してるんだぞ。


「ん~そうだね、川本さんの記憶は消さないことにしよう」

「やったー!」「え、どうしてすか!!」


 先輩は女と俺を交互に見てから、ニッコリと笑って見せた。


「ヒデオ、そんなに心配なら川本さんのことを見張ればいいんじゃないかな?」

「はぁ?」

「あ、もちろん人間の常識の範囲内でね。大学とかで一緒に過ごす時間を増やせば、誰かに言うかもしれないっていう不安は取り除けるでしょ? 川本さんもそう思うよね?」


 同意を求めるように女を見る先輩に釣られ、再び女を見下ろしてみると、目を輝かせながら頷いていた。


「山田くんの言う通りだよ! 私、英雄くんといっぱいお話したかったから嬉しいなぁ」


 何なんだこの女は……!!

 思わず頭を抱えると、先輩は栗原を横抱きにしてベッドから立ち上がった。


「ま、後はまかせたよ。……川本さん、この秘密は知美にはしゃべってもいいよ。多分いい相談相手になってくれると思うし、これからも知美とは仲良くしてほしいな」

「うん、もちろん。後の人には……愛ちゃんにも秘密にするから。山田くんも……ともちゃんのこと、お願いね?」

「うん。大事な人だから」


 そう言うと先輩はスッと姿を消してしまった。

 ……おいおいおい、この状況、俺が全部処理するのかよ。


「あの……英雄くん、手貸してくれないかな」

「あ?」


 見るとこちらに手を伸ばしている。

 立ち上がりたいのだろう――くそ、しゃーねぇな。


「……ありがとう。本当に助けてくれてありがとう。薄っすら意識があるのに身体が全然動かなかったから……本当に怖かったんだ。でも、英雄くんの秘密を知っちゃって、全部吹き飛んだよ」


 えへへ、と声を漏らし女が笑う。

 女の手を握り、グッと力を込め引っ張り上げた。よろけながらも、女はようやく立ち上がった。


「……手、丸いね。物とかちゃんと掴めるの?」

「見た目がこういう風なだけであって、細かい作業には困らねぇよ。……てかお前、さっきから興味ありすぎだろ」

「そりゃだって……私、英雄くんのこと好きだから。興味ありまくるに決まってるじゃん」

「…………はぁ!?」


 思わず手を払いのけた。

 マジで言ってんのか、こいつ。頭おかしいだろ、信じられねぇ。何なんだこの人間は。


「そんなに驚かなくてもいいじゃん。でも、これで英雄くんが私を無視しなくなるからチャンスあるよね?」

「お前……俺を脅してんのか」

「脅す、なんて言葉が悪いなぁ。仲良くしようねって言ってるんだよ?」

「あーー!!! 意味わかんねぇ! お前の相手してると時間の無駄だ!!」

「えー? ねぇねぇ、それより山田くんにいっぱいお仕事頼まれたんでしょ? 私も何か手伝おうか?」

「うるせぇ! お前は今から家に帰るんだよ!」

「私の名前、ちゃんと呼んでよぉ。か、わ、も、と、さん。英雄くん、わかった?」

「うるさい、さっさと帰るぞ」


 ぐだぐだうるさい女の腕をつかみ、さっさと瞬間移動をする。

 ……マジでやべぇ女に秘密を握られちまった。

 それにあの部屋の処理もしなきゃならねぇなんて……最悪な日だ。



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