大学生編 4
大学生活も順調に過ごし気づけば12月末になっていた。
山田と英雄も最初は不安だったけど、無事に日々を過ごしてくれてるし本当に良かった。
サークル活動も楽しく過ごさせてもらってるし、絵里ちゃんと愛ちゃんとの関係も良好。高校時代は友達と楽しく過ごすってことがあんまり叶わなかったけど、友達ってやっぱりいいよね。……橘さんも元気だといいなぁ。
「そういえば、今度飲み会があるんだっけ?」
最近出したこたつを気に入ったのか、腕と足をすっぽりつっこんでタロが聞いてきた。
ちなみにまだ一緒に住んではない。だけど、ほぼほぼ毎日やってきて入り浸っている。
「うん。私はまだ二十歳じゃないからお酒は飲めないけど、忘年会、みたいな感じかな?」
「お酒って、あれだよね、身体がポカポカ温かくなる飲み物だよね」
「うん。……タロは宇宙人だから飲んでいいのかもしれないけど、日本で未成年は飲んじゃダメだからね」
ちょっと狭いけど、タロの隣に座る。
こたつは温かいなぁ。
「本当は俺もついて行きたいけど……上司との通信の日だからついていけないんだ。ごめんね」
「大丈夫だよ。絵里ちゃんも愛ちゃんもいるし、飲み会だけなんだから。終わったらすぐに帰るよ」
心配性だなぁ。あれから秋山くんは必要最低限しか話しかけてこないから大丈夫なのに。
思わずタロの赤い腕に抱きついた。
そういえば、もうクリスマスなんだよね。
――一緒にいたいなぁ。
「ね、タロ。今度のクリスマスなんだけど――」「宇宙船、来る?」
かぶせるようにタロが言うので、思わず顔を上げた。
……のっぺらぼうの顔が赤く染まっていた。
「そのクリスマスの日……俺の宇宙船来ない? どこかに行きたいなら連れて行ってあげられるし……前みたいにモニターで好きなものを映せるよ?」
「た、タロと一緒ならどこでも……」
な、何か妙にドキドキする。このセリフ……俺の家くる? みたいに聞こえる。
というかそう言ってる。
タロは顔を真っ赤に染めながら、私のおでこにキスを落とし、そのままギュっと抱きしめた。
「その日……泊まる?」
「……え?」
ちょっと待って……泊まる? 泊まるって聞いた?
それ、どういう意味で言ってるの? わかってるの?
「それ――」
タロがギュっと力を込めた。
「俺と知美が一緒に寝るんだよ。意味わかって、言ってるよ」
タロが熱い。
抱きしめられてるからよく見えないけど、絶対全身真っ赤に染まってる。
「と、泊まっても……い、いいけど」
タロもそういうこと、したかったの? 宇宙人もそういう行為あるの? ……わからない。
そもそも私って、タロとできるのかな。
「……あの、無理しなくてもいいからね」
そういうと、タロがそっと身体を離した。
「俺は人間じゃないし、きっと怖いと思うんだ。実際俺も……人間の身体がよくわからないし。けど……」
私の手を両手で大事に握りしめた。
「そういう行為って、人間の中で、一番の愛情表現で大事なスキンシップなんでしょ? 知美のこと大好きだから、そういうことなら俺もしてあげたいよ。……知美は違う?」
タロの手が真っ赤に染まってる。
私はそれさえも愛おしい。
「ううん、私も一緒だよ。それに、無理なんてしてない。私もタロのこと大好きだから」
そう笑いかけるとトマトみたいに赤く染まって、再び私を抱きしめた。
温かい。
今年のクリスマスは、絶対特別な日になるんだろうな。
◇ ◇
時間は流れて、あっという間にサークルの飲み会の日となった。
朝からタロはため息をばかりして、本当について行きたかったんだと思う。何度も口酸っぱく「絶対油断したらダメだからね」と注意された。
そして、私が家を出ると同時にタロも自分の宇宙船へと戻って行った。
「今年一年お疲れ様でしたあああ!!! それじゃ、かんぱーい!!」
先輩の声かけとともに飲み会が始まった。
掘り炬燵に座り、二十歳に満たない私たち一学年はノンアルコールを手に持ってる。
左右に座る愛ちゃんと絵里ちゃんとも小さく乾杯をした。
「お疲れさま~」
コツンとグラスをぶつけてのどを潤す。
「……今日、山田くんは来てないんだね」
「うん。用事があるから」
「いつも二人揃ってるから、こういう日って珍しいねぇ」
「あはは……」
珍しいと思われるぐらい、タロと一緒にいたってことなのか。
そう考えると、最近タロは大学内で声をかけられる回数が減ったかもしれない。
……英雄は変わらないけど。
「みんなお疲れ~」
振り返ると、少し赤い顔をした秋山くんがグラスを片手にやってきた。
ちょっと……アルコールの匂いがする。
「秋山くんってアルコール飲めるの?」
「飲めるよ~。あれ、みんなは?」
「私たちはノンアルだよぉ。まだ二十歳じゃないからね」
「あ、そうなんだー。……あら、先輩のグラスが空いてるから注いでくるわー」
瓶ビールを片手に秋山くんは隣のテーブルへと去っていった。
ちょっと酔ってるみたいだったし、これで良かったかも。
「実は……ともちゃんからの話を聞いてから、秋山くんのことちょっと苦手なんだよねぇ」
と、持っているグラスを揺らしながら絵里ちゃんが苦笑いを浮かべた。
「なんかちょっとした親切が、全部下心があるかも、って思うと素直に受け取れなくなっちゃって」
「なんか……ごめんね」
「ううん。たまに距離感がおかしいなって思うことがあったから、きっと間違いないと思うよ」
タロから秋山くんの話を聞いた数日後に、二人にはその件を伝えてた。
二人にどう受け止められても仕方ない、と思っていたけど、絵里ちゃんはどうやら信じてくれたらしい。
「私はまだ……信じたくない、かな」
愛ちゃんは視線を落として、少しだけ笑っていた。
「ともちゃんのことを疑ってるわけじゃないんだけど……信じたい気持ちが強くて」
「うん。全然いいんだよ」
愛ちゃんは秋山くんのことが気になっているらしい。その気持ちを否定する気持ちはない。
パっと見の秋山くんはさわやか青年だし、そんな気持ちになっても不思議じゃない。
むしろ心配しているのは――。
「ねぇ、ともちゃーん、どうしたら興味持ってもらえるかなぁ?」
絵里ちゃんの方だ。
やっぱり英雄のことが好きになってしまったらしい。
何度か私たちが昼食を食べているところへ絵里ちゃんが一人で来た事があった。
が、英雄はまっっったく眼中にない。
私たちが話をしていても見向きもしないし、タロのように話に入ってくることもない。
「なんかさぁ、全く相手にしてくれないじゃん? 会話する気もないみたいだし、私、嫌われちゃったのかなぁ?」
「うーん、何なんだろうね……」
「ともちゃんはさ、どうやって知り合えたの? どうやってあんな風に会話できるようになったの?」
「確かにそうだよね。山田くんとのなりそめもめっちゃ気になる」
二人が急に目を輝かせてこっちを見つめる。
いやいや、なりそめなんて話せるわけがない。
あのイケメンは二人とも宇宙人で、私は実験体として見られてた――なんて誰が信じるのよ。
……誤魔化すしかない。
「……いやぁ、まぁ、色々あったんだよ……」
「ええー、教えてよー」
二人がゆさゆさと私の肩を揺らしているけど……負けるわけにはいかない。
心を鬼にしなければ――そう思っていると、おぼんを持って秋山くんが再びやってきた。
「なになにー楽しそうじゃん」
「……え、秋山くんそれどうしたの?」
そのおぼんの上に、グラスが三つ置いてある。
中は真っ赤に染まった飲み物――。それらをそれぞれ、私たちの前に置いてくれた。
「さっき先輩に、このテーブルノンアル飲んでるんですよーって言ったらさ、これを勧められたんだよ。俺もちょっと飲んでみたら、スッキリ爽やかで飲みやすかったよ。三人とも飲んでみなよ」
グラスを手に持って匂いを嗅いで見ると、甘い匂いがする。
確かに美味しそうではある。
三人ともどうするか顔を見合わせていると、秋山くんがため息を漏らした。
「も~ノリ悪いなー。先輩たちが勧めてるんだから、飲みなって。さ、ほら!」
はやし立てられて困っていると、一番最初に口にしたのは愛ちゃんだった。
「……美味しい。甘いんだけどスッキリしているから美味しいよ」
「でしょ~。さすが愛ちゃん! わかってくれるねー」
愛ちゃんは残っていた残りを全部飲み干した。
……一気に飲んじゃうぐらい美味しかったのか。
……じゃあまぁ、いただこうかな。
「……確かに、美味しい」
炭酸が入った甘くてさっぱりした飲み物。アルコールは入ってなさそう。
私が飲んだのを見てから、絵里ちゃんも一口口に入れた。
「……そだねぇ。悪くない、かな」
「も~三人とも用心深すぎ! 飲み会なんだから飲まないと!」
いつになく陽気な秋山くんを眺めながら、残りを全部飲み干した。
……美味しかった。
「よし! じゃあまた持ってくるから飲むんだぞー」
そう言ってまた秋山くんがテーブルから遠ざかって行った。
「なんか今日、秋山くん元気だね……」
「……酔ってるんじゃないのかな?」
その背中を見ていたら……なんだか、急に目が重く感じてきた。
なんだか眠いな。
「食べすぎちゃったのかな、なんだか……眠い」
耐えきれなくなって、少しだけ横になることにした。




