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転校生、山田くん  作者: ぱくどら
番外編
46/49

大学生編 3 

    ◆    ◆


 日中はつまらない講義を聞きながら、大体は先輩の傍にいる。

 できる範囲で先輩と周りの人間たちを観察する。正直、人間のことなんてどうでもいいが、命令だから仕方がない。

 大学での時間が終われば、船に戻ってレポートを作成、俺自身の体調、メンタルチェックなど――なかなか忙しい生活だ。

 

 ――それにしても、万人に好かれる容姿、にしたとはいえ、こうも毎日毎日女どもに話しかけられるのは面倒くさい。

 今からでも設定をいじって、目立たない容姿にしてやろうか。

 ……いや、やめておこう。余計面倒になりそうだ。


「……ヒデオ! 聞いてくれよー!!」


 振り返ると、嬉しそうに駆け寄る先輩がいる。

 ――一応ここ、俺の船の中なんだが。まぁ……いいか。


「二人だけの呼び方を始めたんだよ! それがさ、なんかさ、こう……きゅーっと……!!」

「あー……そうっすか」


 モニターに向き直り、文書作成を始める――。

 ……ったく、誰が好き好んで他人の惚気話をメモしなきゃならねぇんだよ。


「……それで?」

「呼び方なんて判別する名称でしかない、と思ってたけど……全然違うんだよ」

「具体的には?」

「ずっと栗原さんって呼ぶことに何も思ってなかったんだけどさ、今日、写真部の人間たちが『ともちゃん』て栗原さんを呼んでたんだよ」

「……とも、ちゃん? なんすかそれ」

「愛称だよ。栗原さんが今までそんな愛称で呼ばれているところ見たことなかったんだけどさ、そう呼ばれた栗原さんが嬉しそうで、楽しそうでさ。そんな様子を見てたら……あぁ、気が利かなかったなぁって。あんな顔してくれるって知ってたなら、俺が一番に呼んであげてたのになぁって後悔しちゃったよ」

「……はぁ」

「そんな嬉しそうな顔をする愛称をさ、別の男が呼んだんだよ」

「あー……例の男すか」

「そう」


 あの女は知らないだろうが、先輩があの女に送った指輪には様々な機能が備わっている。

 先輩の核の一部を移植した指輪だからな。……そんなことを知ったらあの女がどう出るか……それはそれで見たい気もするが。

 

「あんなに馴れ馴れしい人間だなんて思わなかったよ」

「へぇ。先輩に馴れ馴れしい態度だったんすか?」

「まぁ、男の俺がいたことが気に食わなかったんじゃないかな。他の女の子たちは、栗原さんといい関係みたいだから安心したけどね」

「……そいつ、女どもを取って喰おうとか思ってんすかね」

「だろうね。いづれ本性が出るよ」


 人間の繁殖行為がイマイチわかんねぇな。行為したらガキができるんじゃねぇのか?

 その男は自分のガキがたくさんほしいのか? それとも、その行為そのものをしたいのか? 

 ……わからねぇ。

 

「一応釘は差しておいたから、栗原さんからは手を引いてほしいけど……」

「手を引かなかったら?」

「もう一度忠告する」

「それでもダメなら?」

「その時は、ここをいじらせてもらうしかないね」


 そう言いながら先輩は自分の頭をぽんぽんと叩いた。

 ……先輩なら簡単にできそうだな。


「……それにしてもさー、なんか栗原さんがもう、可愛すぎるんだよー」


 ……。

 結局惚気話を聞かなきゃならねぇのか。


「二人の時にこの姿に戻るんだけど、すっごい可愛いんだよ。なんていうか……甘えてくれるんだ。人間の姿のときも顔を赤らめて可愛いんだけどさ、こっちのときは本当に嬉しそうなんだよ。あー、前みたいに栗原さんだけ本来の姿で見えるようになればいいのになー」

「あれはバグだったんすから、もう無理すよ」

「だよねー。可愛すぎて……我慢できる自信がなくなっちゃいそうなんだよ」

「……我慢する意味がわからないんすけど」


 好き合って、結婚する約束までしてるんだろ?

 やっちまえばいいじゃねぇか。……やり方しらねぇけど。


「……勉強しなきゃね」

「あぁ、先輩も知らないんすね。そりゃ対人間のやり方なんて、誰も知らねぇす」

「……いきなりこんな話したら絶対嫌われそうだから……ちょっと考えなきゃ……」


 ……真面目に悩んでるのか。

 面倒だな、異種間の恋愛も。きっと上もこの面倒なことを知りたいんだろうが……俺は聞きたくねぇよ。


「それはそうとさ、川本絵里って人間、知ってる?」

「かわもとえり? 知らねぇすよ」

「そう。……相手はヒデオのこと知ってそうだったけどなぁ」


 俺は人間の女なんて興味ねぇよ。


「……まぁいいや。じゃあねヒデオ。また大学で」

「そういや結局、呼び方って何にしたんすか?」


 そう言うと一瞬先輩の顔が赤くなったが、すぐにスーっと引いた。


「……大学内ではどんどん呼び合うつもりだから、その時に察してよ」

「……はぁ」


 もしかして、恥ずかしいのか?

 今更すぎるんだが。

 先輩は背を向けるとさっさと俺の船から消えていった。



    ◆    ◆



 いつものお昼休憩はタロと英雄と私の三人で食べるんだけど、今日は愛ちゃんたちから学食へのお誘いがあった。

 タロももちろん了承してくれた。……英雄は良い顔はしなかったけど、しぶしぶ付いてくる形になった。


「……おーい、ここだよー」


 私たちは普段あまり利用しない学食。

 声がする方を見ると、長テーブルを確保してくれてる愛ちゃん絵里ちゃんが手を振ってくれてる。

 目が合って私が手を振り返していると、後ろをついてきた英雄から小さく舌打ちが聞こえた。


「……面倒くせぇ場所だな。俺たちは見世物じゃねぇんだよ」


 背の高いイケメンな二人が揃って立っていると――まぁ、嫌でも目立つよね。

 近くにいる人たちはもちろん、遠くからもチラチラと視線を感じる。


「気にしなければいいんだよ。……知美、行こ」


 そう言うと、ニコッと笑い指を絡めてきた。

 ――こ、恋人繋ぎ……!! こんな人が多い場所で!

 あちこちから悲鳴に近い声が聞こえた。


「……先輩、計算高いすねぇ」

「正直俺もさ、毎日毎日じろじろ見られたり声かけられるのは面倒になっちゃってさ。……俺が相手にしたいのは知美だけなのにね?」 


 とか言いながら、繋いでいる私の手を自分の頬に引き寄せて、そっとキスをした。

 そして――ふんわりと微笑んだ。

 

 一瞬にして周りがザワッとどよめいた。

 見ていた女子からキャアアという悲鳴聞こえる。

 ――ひ、人前でなんつー行動してんのよ……!!!


「あの先輩、わかったから進んでください。俺、これ以上巻き込まれたくねぇす」

「……これだけ見せつければ大丈夫かな? じゃ、行こうか」


 恥ずかしすぎて顔が上げられない。絶対顔が真っ赤になってるよ……!! 周りからの視線が痛すぎる。

 混んでいるはずなのに、タロが変な行動をしたおかげかスムーズに進めてる。……みんな絶対ドン引きしてるよおおお!!


「みんなおまたせー」


 私の心中なんて知らず、タロはテーブルに到着すると明るい声を上げた。

 そっと顔を上げると、愛ちゃんも絵里ちゃんも顔を赤くして迎えてくれた。


「ふ、二人ともラブラブだねぇ」

「見てるこっちが恥ずかしくなるレベルだよ」


 うう……恥ずかしぬ。


「いやぁ女慣れしてそうなイケメンの行動はやっぱ違うねぇ」


 ……あれ、この声は……。

 声がする方を見てみると、奥の席に秋山くんがいた。


「あれ、今日秋山くんもいるの?」

「うん、一応声かけたら来るって言うから……」


 声をかけた愛ちゃんが、今の秋山くんの発言を聞いてか苦笑いを浮かべてる。

 この間もそうだったけど、秋山くんてタロに対して棘がある言い方するよね……。

 恐る恐る隣に立つタロを見上げると、前と一緒で張り付けた笑顔を浮かべていた。


「女の子に慣れてはないよ。ただ知美だから自然としちゃうんだよ」

「あ、名前呼びになったんだ。なんか、山田くんて見た目に反して結構独占欲高め? 余裕なさそうだね」


 クスッと笑みをこぼしている。

 なんか……嫌な態度だなぁ。

 ――その時、後ろにいた英雄がずかずかと前に来ると、ドカッと乱暴に椅子に腰かけた。


「俺、腹減ったんだけど」


 急に目の前に現れた英雄に対し、秋山くんは目をぱちくりさせている。


「……誰?」

「てめぇこそ誰だよ」


 乱暴な物言いと態度に、さすがに秋山くんも頬を引きつらせてる。

 ま、まずい……話を逸らそう。


「あはは……! こいつちょっと人見知りが激しいやつなの! み、みんな食券は買った? まだなら先に買ってきなよ! 私が場所を確保しておくから!」

「じゃ、じゃあともちゃんにまかせて、私たち先に買ってこようか……! 秋山くんも行こうよ」

 

 愛ちゃんのナイスアシストにより、秋山くんは一つため息を吐いてから席を立って食券を買いに行ってくれた。

 その後ろを愛ちゃんと絵里ちゃんもついて行く。――本当にありがとう……!!


「……ふう。ちょっと、あんた! もう少しまともなしゃべり方できないの!?」

「向こうがぐだぐだうるせぇから遮っただけだろ。……ほんと、気に食わねぇ人間だな」


 まぁ正直……秋山くんの言い方もちょっと気になったけどさ。


「ま、あんまり相手にしない方がいいよ。さ、座ろ」


 タロが自分が座った隣の椅子を引いてくれたので、そこに座った。タロと英雄の間に座った形だ。


「この際ハッキリ言わせてもらうんだけどね」


 そういうのでタロの顔を見上げると、いつになく真剣な眼差しを向けていた。


「秋山くん、とっかえひっかえ女の子と付き合ってるみたいだから注意してね。油断したらダメだよ?」

「え、秋山くんが?」

「うん」


 女子ばっかりのサークルによく男子一人で入ってきたなぁ、なんて思ってたけど……タロの言う通りなら納得がいく。

 タロが嘘をつく理由がないからきっと本当なんだろう。……どうやって知ったかは知らないけど。

 そうなると絵里ちゃんと愛ちゃんも危ないんじゃ……。


「高田さんと川本さんのことが心配なら、二人にも教えてあげた方がいいよ。……まぁ二人が信じるかどうかはわからないけど」


 そう言うと、タロは私の指にしてある指輪に触れながら私の手を握る。


「知美はこの指輪をしていれば大丈夫。何かあっても絶対助けてあげるから」

「……え、この指輪、何かあるの?」

「え? ……まぁ、お守り、だよ」


 ……怪しい。

 まぁ、今更外すことは考えてないけどさ。



    ◇    ◇



 しばらく待っていたら愛ちゃんたちが戻ってきて、私たちも注文をしに行った。

 二人とも学食を利用したことがなかったので、色々教えてあげた。というか……この宇宙人たち、お金ってどうやって調達してるんだろ。

 聞いてみたいけど、聞いたらマズイ気がするからスルーしておくか。

 三人それぞれ料理を手に入れたのでさっそくテーブルへと戻った。


「おまたせ」

「ううん、じゃあ食べよっかぁ」


 絵里ちゃんの呼びかけでそれぞれが食べ始める。

 けど、さっきの秋山くんとの衝突のせいかみんなよそよそしい。うーん……この空気どうにかしたい。

 ……あ、そうだ。


「そういえば絵里ちゃん、こいつと何かあったの?」

「えっ」


 呼びかけに絵里ちゃんの箸が止まり顔を上げてくれた。


「こいつって……?」

「この人、前田英雄」


 そう言うと絵里ちゃんの視線がそのままスライドし、英雄をじっと見つめる。

 その顔が段々と――赤く、染まって。

 ……え、なんで?


「……あの、私のこと、覚えてる?」

「……あ? 何?」

「あっ、覚えてないんだね。前にちょっと……助けてもらったことがあったから。ずっとお礼が言いたかったんだぁ」

「あっそ。別に覚えてねぇから気にするな」


 こ、こいつ……!!!

 もうちょっと言い方考えなさいよ!!!

 でも、この宇宙人が人間を助けるなんて……そんなことがあるの?


「絵里ちゃん、本当にこの人なの? 私この人とは高校の時から知り合いなんだけど……性格上考えにくくて。別の人とかじゃない?」

「ううん。あの時山田くんもいたから間違いないと思うよ」

「え、そうなの?」


 確認のためにタロの方を見ると小さく「あっ」と声を漏らした。


「思い出したよ。俺たちが満員電車に乗ってるときだね。英雄が人目もはばからず声出しちゃったことがあったんだ」

「あぁ……あれっすか。目の前の奴がもぞもぞ動いて鬱陶しかったやつか」


 満員電車でもぞもぞ動くって……もしかして、英雄のやつ痴漢から絵里ちゃんを守ったってこと?

 本人は守ったっていう意識が全くなさそうだけど。


「理由はなんであれ、私は嬉しかったから。……ありがとうございました」


 絵里ちゃんはふんわりと可愛らしく笑って見せた。……可愛い。

 けど、隣に座る英雄はその顔に見向きもせず「はいはい」というだけで箸を止めない。


「あんた――」


 と私が口を開きかけた瞬間、秋山くんの言葉が遮った。 


「絵里ちゃん。また被害に遭わないってことはないと思うから、俺が一緒に途中まで帰ろうか?」

「えっ……秋山くんが?」

「男の俺がそばにいたら、多少虫よけにはなると思うよ? 方向もそんな変わらないし、迷惑なんて思わないから」


 いつもの爽やかな顔で笑っていた。

 でも、さっきのタロの話が頭をよぎって、純粋な親切な言葉として聞こえない。


「んー……」


 絵里ちゃんは困ったように笑いながら、チラッと目の前の英雄を見ていた。けど……こいつ、マジで見向きもしない。

 本当に人間に対して興味ゼロ。

 ……絵里ちゃんが宇宙人の餌食にならないからいいのか? でも、秋山くんの餌食になる可能性もあるのか……?

 どうしよう。 


「あ、じゃあさ」


 愛ちゃんがひらめいたように声を上げた。


「時間帯をずらして帰ってみるとかは? 朝も時間をずらしてみるとか、行く手段を変えてみるとか」


 この提案に、絵里ちゃんがパァッと明るくなる。


「そうだよね! 単純なことなのに思いつかなかったぁ! とりあえず、その方法でやってみるね。だから秋山くん大丈夫だよ、ありがとう」

「……そう? また何かあったら言ってよ?」


 残念そうな表情を浮かべながら、秋山くんは再び料理を食べ始めた。

 絵里ちゃんは小さく息を吐いて――チラッとまた英雄を盗み見た。


 なんか、もしかして絵里ちゃんって英雄に興味ある? 気のせいだったらいいんだけど……。


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