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転校生、山田くん  作者: ぱくどら
高校二年生
35/49

お弁当作戦

 元気がないとき、何をされたら嬉しいかな。

 ……遊びに誘われる? プレゼントもらう? いや……山田はちょっと違うからなぁ。人間の感性で考えちゃいけないのかな。うーん……。


「――……おい、栗原! 聞いてるのか!」

「えっ……あ、は、はい!」


 しまった……授業中なのにぼーっとしてた。立ち上がって、なんとか答えられたけど……周りから失笑されてるし、最悪。

 はぁ。山田がどうやったら元気になれるか、良い案が浮かばない。どうしようかなぁ。


    ◇    ◇


「珍しかったわね、栗原さんがぼーっと授業受けてるなんて。……そんなに悩んでるの?」


 ニヤリと橘さんが笑みをこぼす。……絶対面白がってますよね。

 チラッと山田に目を向けても、相変わらずダンマリでパンを食べてた。……こっちも考え込んでるのか。ていうか、本当に元気なさそう。


「ちょっと山田くん? いつまで暗い顔でいるつもり? いい加減、いつものようにさわやかさを振りまきなさいよ」

「え? ……あぁ、ごめん。暗くなってるつもりはないんだよ?」

 

 気のせいかもしれないけど、声にも元気がない気がする。


「山田……大丈夫なの? そんなに悩んでるんだったら相談にのるけど」

「いや……大丈夫だよ。なんとかなるから」


 また、だ。大丈夫って言うけど、心配させないためじゃなくて、単に私を拒絶してるように聞こえる。

 ……なんで? そんなに私に言えないようなことを隠してるのかな。……そんなに私のこと信頼してないのかな。


「……んー」


 小さな唸り声に目を移すと、橘さんが難しい顔をして私と山田を相互に睨んでた。

 ……ど、どうしたんだろ。


「わかったわ。来週の休みの日に、気分転換に二人でどこかに出掛けてきなさいよ」

「……えっ?」


 と、突然何を言い出すんですか。


「ただ出掛けるだけじゃつまらないから……そうね……あ、いいこと思いついたわ。栗原さん、お弁当作って公園でも動物園でも行くっていうのはどうかしら?」

「え? えっ!?」

「そこならのんびり過ごせるし、出歩くこともできてリフレッシュできると思うの。それに二人で話し合うには、邪魔は入らないでしょうしね」

「ど、どうしたんですか急に」

「ハッキリ言うと、二人を見ていたらなんだかイライラしちゃうの。さっさと問題を解決してほしいわ」

「い、イライラされてたんですか……!」


 そう思うとニッコリと笑ってる今の表情も、どこか怖く見えてしまうんですが……!

 でも橘さんはにこやかな表情のまま、小首を傾げた。


「イライラって言っても少しだけよ。気にしないで。……栗原さん、期待してるわよ」


 な、何の期待でしょうか……思わず視線をそらしてしまった。

 でも……これは良い機会かも。確かに出掛けたら気分転換になると思うし、あの拠点で引きこもってるよりも絶対に良い。……よし。


「……山田が嫌じゃないなら、動物園行こうよ……」


 恐る恐る……山田に視線を送る。……のっぺらぼうは真っ直ぐこっちを見てる。

 ……どんな顔でこっち見てるのかな。嫌そうな顔かな……めんどくさそうな顔かな。


「嫌なわけないよ! もちろん行くよ」

「……さっきの暗い顔が嘘みたいね」


 橘さんが呆れ顔で見つめてる。……笑ってくれたんだ。

 ……いいな、その顔が見れる橘さんが少し羨ましい。


    ◇    ◇


 その日の夜。寝静まった廊下をそろりそろりと歩いて、台所へ向かう。

 橘さんが言った、弁当を作るっていう案はすごく良いと思った。山田を元気づける意味でも、今までのお礼って言う意味でも、弁当ってすごく良いと思うんだよね。ただまぁ……料理は普段しないから、今日から少し練習して失敗しないようにしよう。

 まずは、試しに明日の弁当を自分で作ってみようかな。……えーっと、確か卵焼きが入ってたな。まずはそれから!


「……知美ぃ? いきなり弁当作るなんて何かあったのかしらぁ?」


 ビクッとして振り返ると、いつの間にか母さんが覗き込んでた。……顔、にやけてるし。


「べ、別に何もないよ。……邪魔しないでよね」

「しないわよ。ただ心配だから見てるのよ」


 ……そう言いつつ口元が緩んでるんですけど! できないって思ってるんだな。

 ……私だって卵焼きぐらい作れるし!


「……ちょっと、殻入ってるわよ」

「……え?」


 い、今のはちょっとしたミスだし……。


「……もっとかき混ぜないと綺麗にならないわよ」

「……うー」


 ……こ、これぐらいでいいでしょ!


「……油が少ないわ。それじゃあ焦げてまとまらなくなるわよ」

「……」


 ……。


「あーあ! 卵入れ過ぎよ! ちょっと貸しなさい!!」

「母さん!!」


 結局、口出したいだけじゃない!!

 

 この後母さんとバトルしながらも、料理を教わった。……まぁ一日じゃ身につかないんだけど。

 とにかく! 山田と動物園行くまでには、弁当のおかずぐらいは作れるようにならなければ!!


    ◇    ◇


 約一週間、不味い弁当から始まったけど、なんとか耐えてまともな弁当に進化した。頑張った、私と胃。

 そして今日が本番!! ふふ……この一週間の努力の結晶のお弁当!! 大事に保冷バックに入れて準備万端! ……服装も、今日はチャレンジしてスカートを穿いてみる! 制服以外でスカート穿くなんて、めちゃくちゃ久しぶりな気が……。似合ってるか不安だけど……今日は現地集合だからもう出よう!


 バスを乗り継いで、やっと動物園に到着。……正直、動物園とか小さい頃に来て以来な気がする。

 休日ってこともあってか家族連れが多そう。って山田は来てないかなぁ……。


「栗原さん!」

「あ……山田」


 そういえば、制服じゃない山田の姿も久しぶりに見た気がする。

 黒のパンツに、薄手のカーディガン……なんか今日はかっこよく見える。……中身はタコで変わらないけど。


「学校以外で栗原さんがスカートなんて珍しいね! とっても似合ってるよ!」

「えっ!? あ、ありがと。……あんたも、その服……似合ってると思う」

「あ、本当? ありがとう。……じゃ、行こうか」


 いつものように手を繋いで歩き始めた。


「あ、その荷物持つよ」

「え!? あ、いや、これは大丈夫! 全然重くないから平気!」

「そう?」


 さすがに弁当が入ってるこのバックを持たせるわけには行かない。せっかくだから驚かせたいしね。……口に合えばいいんだけど。

 ま、ひとまず動物園を楽しもう。



 休日の動物園は家族連れが特に多かった。柵にしがみついて、食い入るように見つめる小さな子たち。その視線の先には、大きなゾウだったりキリンだったり、サイもいた。

 私と山田もそんな子たちに混じって、動物たちの様子をまじまじと食い入るように見つめる。


「……久しぶりに見ると、迫力があるなぁ」

「へぇ……色んな生き物がいるね。面白い」


 動物ってテレビとかネットで良く見るけど、やっぱり実際目の前にしたら違うなぁ。……なんていうのか、生きてるっていう感じ。しかし、こうやって歩いてみると色んな動物がいるよね。子どもの頃は面白いとしか思わなかったけど、鳴き声だったり目の色だったり身体の動きだったり……ずっと見てても飽きないなぁ。


「……栗原さん、そろそろお昼にしようか」

「え? あ、もうそんな時間?」


 園内を歩いていたら、もうそんな時間になっていたらしい。結構あっという間だった。

 ……じゃなくて、今からが本番よ、私。……よし。


「や、山田。実はさ……私、お昼準備してきたの。だから良かったら……どこか座って食べない?」

「え……まさか、作ってきたの?」

「そ、そう――」

「本当に!? 食べるよ! あ、あそこなら日陰だからあそこに座ろう!」


 そう言うと山田は手を引っ張って、木で影になっているテーブルに向かって走っていく。

 な、なんか嬉しそうだった。どうしよう、期待はずれだったら。でも、今更悔やんでも仕方ない。この一週間、やるべきことはやったんだから。

 お互い向かい合う形で椅子に座った後、テーブルの上にバックを置く。そこから二段になった四角い弁当を取り出した。寄ってないか不安に思う一方で、山田はじっと弁当を見つめてる、ような気がした。


「うわー! これって栗原さんの手作りなんだよね!?」

「うん……その、美味しくなかったらごめん……。一応、味見はしてきたんだけど――」

「開けて食べてもいいかな!?」

「どっ、どうぞ」


 山田は弁当のゴム紐を外すと、二段の弁当をテーブルに広げた。

 一段目にはおにぎりを詰めた。海苔を巻いて俵むすびにして、中の具も梅とか昆布とか詰め込んでる。……どれが何か忘れちゃったけど。

 二段目は……下にレタスを敷いて、卵焼きにきんぴらごぼうに、からあげとウィンナー、ミートボールと隅っこにオレンジ。……からあげは少し母さんに手伝ってもらったからちゃんと揚がっているはず。……うん、寄ってもないし見た目も悪くないはず。山田の奴……どんな顔でこれ見てんのかな。


「……お」

「お?」

「美味しそう!! いただきまーす!!」


 そう言うと、箸も使わず手でおにぎりを掴み顔に押し付けた。みるみる減っていくおにぎり。……相変わらず、よく分からない食べ方。でもおにぎりはなくなって、すぐに別のおにぎりを顔を押しつける。空いているもう片方の手にも卵焼きを掴むと、おにぎりを少し離して卵焼きを顔を押し当てる。

 ……たぶん、人間で言うと掻きこんで食べてくれてる、のだと思う。


「あの……美味しい? 不味くない?」

「すっごく美味しいよ!」

「そっか……良かった」


 ……嬉しいな。この一週間、慣れない料理を頑張ったことが報われたかな。というより……山田の気分転換になればいいんだけど。どれ、私もからあげを一つ――……うん、おいしい。いつも家で食べてる味だ。……良かった、うまくできて。


「すごく嬉しいけど、大変だったんじゃない? もしかして、俺が無理させちゃった?」

「え? ううん、違う。前から山田にはお礼したかったし……それに最近元気なかったから……元気づけたくて。無理してやったわけじゃないよ」

「……そっか」


 そう言って、またおにぎりを手に取った。

 ……否定しないってことは、何か悩んでるのを認めてるってことよね。

 気になるけど……今日は山田の気分転換のためにここへ来たのよ。話を蒸し返したらまた気分が落ち込むかもしれない。だから今は……気にしない。


「ね、この先行ったところにアスレチックがあるんだけど、食べ終わったら行ってみない? 確か小高い丘があるから、景色が良かったはずなの」

「あ、そうなんだ。じゃあ行ってみようか」


 山田は手を止めることなく、おにぎりやおかずを食べてくれてる。……気に入ってくれたのかな。

 ……うん、今日はせっかく二人きりなんだから思いっきり楽しもう。

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