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―51― エピローグ



 魔族ギャリンガーを倒すと同時に、王都を囲っていた結界は消え去った。

 これで王都を脱出することができる。

 ティルミお嬢様の話によれば、この世界にやってきた魔族は他にも大勢いるらしいが、魔族は瘴気が薄い場所に行くことはできないため、王都から離れることさえできれば、魔族に襲われる危険性はひとまず減るとのことだった。

 そういうわけなので、ティルミお嬢様を抱えて急いで王都から離れる。


「ねぇ、アメツ」

「なんですか? お嬢様」

「その、お嬢様というのやめほしいんだけど。私、もうお嬢様ではないんだから」


 まぁ、確かに、ナーベル王国が滅んだ以上、ティルミお嬢様の身分を保障する存在はなくなってしまったということだ。


「ですが、お嬢様はお嬢様ですし……」


 お嬢様というのが呼び方が染みついてしまった以上、それ以外の呼称を用いることに違和感を覚えてしまう。


「ねぇ、私たち恋人なのよね?」

「え、えっと、そうですね」


 肯定するのは恥ずかしかったが、僕たちはお互い好きであることを認め合った仲だった。


「恋人なのにお嬢様はおかしいわ」

「確かに、そうかもしれないですね。ですが、なんてお呼びすれば?」

「名前で呼んで」


 名前ってことは、つまり、


「ティルミ」

「うん、なぁに?」


 ティルミと呼ぶのが正解だったようだ。けれど、どうしても違和感を拭えない。


「これから、僕たちどうします?」


 故郷に戻ることもできなければ、仕事のあてがあるわけでもない。

 正直、不安でいっぱいといえば、その通りだ。


「アメツと一緒にいられるなら、なんだっていいわ」

「……そ、そうですね」


 そう直球に好意を示されるとどこかむず痒い。

 けど、ティルミお嬢様の言うとおりだ。

 二人なら、どんなことが起ころうと生きていける。





「お嬢様ぁああああああああッッッ!!!!」


 ひとまず、ネルの家に戻ると回復したらしいナルハさんがそう叫んではティルミのもとに駆け寄った。


「ご無事でなによりですッッ!!」


 と、言いながらティルミに勢いよく抱きつく。


「ナルハ心配かけてごめんね……」

「いえ、わたくしはお嬢様がご無事でなによりですわ」


 という感じで二人とも再会を喜び合っていた。


「お疲れさま、アメツ」 


 と、話しかけてきたのはメイド服を着ていたネルだった。


「エネもありがとうごさいます。見たところ、ナルハさんの手当をしてくれたんですよね」


 ナルハさんがここを尋ねてきたときは怪我を負っていたのに、今は包帯を巻くなどして手当されている。

 エネはナルハさんとは特に関係がないのにも関わらず、わざわざ面倒をみてくれたのだろう。


「あぁ、それに関しては、あなたにお礼に言われる筋合いがないかも」

「えっと……?」


 ネルの言葉の意図がわからず戸惑う。


「あ、そうだ。お嬢様にぜひ、ご紹介したい方がいるのですが、今よろしいでしょうか?」

「あぁ、うん、いいよ」


 ふと、ナルハさんとティルミの会話が聞こえた。

 ナルハさんの言ったご紹介したい方というのは、一体誰のこんなんだろう?

 とか思っていると、エネがとてとてと近寄っていった。


「わたくしの妹のエネです。不肖の妹ですが、よろしくお願いします」


 と言って、ナルハさんがエネのことを紹介していた。

 それに対し、エネは「どうも」と軽くお辞儀をする。


「あなたがナルハさんの妹ね。前々から話に聞いていたわ。こちらこそ、よろしくね」


 と、ティルミは笑顔で挨拶をする。

 それに対しナルハさんは「お嬢様の御前なのですから、もう少し礼儀正しくしなさいッ!」と叱っていた。

 叱られたエネはというと、ナルハさんのことをうっとうしいとばかりに目も合わせない。

 そんな中、僕はすごく動揺していた。

 えっと、つまり、ナルハさんとエネは姉妹ってことだよな……。

 全く似ていないから、そんなこと微塵も思わなかった。


「え、えっと、お二人は姉妹なんですか……?」


 未だ動揺収まらずの僕は震えながらそう尋ねる。正直、信じられない。


「そう。ナルハはエネの姉で同じスパイだったのに、ティルミお嬢様に惚れたからって同郷とエネを裏切った最低人間」

「そ、その件に関して今更責めるのはなしですわ。あなたのことを思って、こうして引き合わせたじゃないですか」

「え、えっと……?」


 さっきから情報量が多すぎて、処理しきれない。


「ナルハはねー、私の屋敷にメイドのふりをして潜入した敵国のスパイだったんだよねー」

「懐かしいですわね。恥ずかしながら、潜入して数ヶ月でティルミお嬢様にスパイだと見抜かれてしまったんですわ」

「その上、二重スパイとしてティルミお嬢様に雇われるという、まさにスパイの面汚し」


 うーむ、つまり整理すると、ナルハさんは元々敵国のスパイだったんだけど、紆余曲折のうち監視対象だったティルミに雇われたということか。


「それじゃあ、エネが連絡をとっていた王都にいる仲間というのは」

「もちろん、あの人」


 と、エネが指さしていたのはナルハさんだった。

 そうだったのか……。

 色々と判明して驚きだ。

 えっと、じゃあ、エネがクラビル家に雇われたのも偶然ではなく、もしかするとちゃんとした理由があってのことなのかも。

 これ以上聞いても余計混乱しそうだから聞かないけど。


「あ、そうだ。ナルハに報告したいことがあるの」


 ふと、話題を変えたいとばかりにティルミが言い出す。

 今更、報告ってなんのとこだろうか。

 なんてことを思っていると、ティルミが僕のとこに寄ってきては手を握っては、


「私たち付き合うことになったから」


 と、口にした。

 突然の宣言にちょっと驚きだ。

 ただ、ナルハさんはもっと驚いたようで、口を開けて固まっていた。


「お、おおおおじょうさま、つきあうってのは、ほ、ほほほほんとうですか……っ?」


 やっとしゃべり出したと思ったら、今度は呂律が回っていない。

 ちなみに、ナルハさんの問いに対して、残酷にもティルミは「本当よー」と笑顔で肯定した。結果、ナルハさん大きなショックを受けたらしく、しばらく動かなくなってしまった。


「エネとあんなことしておきながら、他の女に走るんだ……」


 謎の言いがかりをつけてきたのはエネである。

 エネの言うあんなことに心当たりは全くない。

 すかさず否定しようとして、


「私以外にも彼女がいたんだ……。じゃあ、もしかして私って、いらない存在……」


 なぜか本気にしたティルミが落ち込んでいた。


「ティルミ、この子の言っていることはあまり真に受けないでください」

「でも、私なんかよりもずっとかわいいし、私なんかすぐ捨てられるんだわ……」

「いや、ティルミのほうが何億倍もかわいいから」

「……ほ、本当?」

「本当です」

「本当の本当の本当?」

「本当の本当の本当の本当です」

「そ、その、ギュッとしてくれたら、信じてあげることができるかも」


 と、上目遣いでおねだりされた。

 その表情が、なんかかわいいかった。


「こ、これで信じてくれますか?」

「うん、信じる」


 言われたとおり彼女を腕で抱き寄せる。

 すると、ティルミは照れながら頷いた。


「………………」


 ふと、冷たい視線を感じたので、見ると、エネが無愛想な表情で僕たちのことを見ていた。


「えっと、なにか用かな……?」

「別に……」


 話しかけると、拗ねたようにエネはぷいっと視線を外してはどこかに行ってしまった。

 知らずして機嫌を損ねるようなことをしてしまったのかもしれない。

 もしそうなら、後でフォローしておく必要があるのかも。


「アメツ、こんな私だけど、末永くよろしくね」

「僕のほうこそ、よろしくお願いします」


 ひとまず、彼女がこの手の中にいることを喜ぼうと思った。





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