最終話 くっころ!
牧場を出て少し歩いた所にオーク君を見つけた。心配させやがって……。
「こらっ。どうして一人で出かけたの? まだ体の傷だって……えっ?」
彼はきょとんとして振り返る。
なんと、全身にあった酷い怪我の痕が綺麗に消えていた。
彼の顔もなんだか、テカテカしていて、血色がいい。
昨晩、特別なことをしたわけでも無いのに……。
「お姉ちゃんありがとう。すっごく調子がいいよ!」
「いくら何でもこれは……私にはそんな力はないのだけど?」
「よくわかんないけど、すごく調子がいいんだ。このまま第四柱を倒しに行こうよ!」
「え……お……おう……」
私は訳が分からないまま、彼にけしかけられ……。
訳が分からないまま、四天王の第四柱を倒したのだった。
「嘘でしょ?……」
私達は、ついにラスボス魔王の居城の一歩手前まで来ていた。
ここは寂れた祠。周囲は見渡す限りの荒れ果てた大地が広がっている。
祠には怪しげな神父さんとシスターがいて、私達を歓迎してくれた。
「おや、騎士殿とオークの組み合わせとは珍しい」
「彼を恐れないのですか?」
「ここは魔王の住処の近く。生きている者など殆どいません。誰だって歓迎しますよ」
私達は僅かな食事と、質素なベッドと、少しばかりの休息を得ることができた。
「それにしても、王国は酷い有様だと聞いています」
どうやら、王子が国王に即位したものの、政治の能力は低かったようで国民は失策に喘いでいるということだった。
彼を宰相が操っており、傀儡と化しているとも噂されているようだ。
私は見る目がなかったのだろうか。
あれだけ憧れていた王子が霞んだように感じた。
だったら……この旅も無理してまで続ける必要は無いのだけど……。
「もうすぐだね! お姉ちゃん!」
「……そうね。約束だもんね」
「約束?」
「あなたの呪いを解くための、旅だから」
「? うん、そうだね」
私達は、魔王の居城に一歩を踏み出した。
「はーはっはっはっは。よくぞここまで来たな。私が直々に相手をしてやろう」
魔王が目の前にいた。こいつを倒せば私の旅は終わりだ。
今までの敵より遙かに大きな力を感じる。でも、オーク君と一緒なら、なんでもできる気持ちになってくる。
「ふむ、王国の騎士と……オーク? しかも貴様は……」
「僕の記憶を……全てを……取り戻しに来たぞ!」
「はっはっは。記憶を取り戻したところで、現実は変えられん。貴様の力は知っている。その姿のまま我が配下になれば、それなりの地位を用意するが?」
「オーク君、耳を貸しちゃダメ」
「うん。僕は最後までお姉ちゃんと戦う。これからも、ずっと」
彼は、誓うような真剣な眼差しで言った。
これからも? ううん、今はこの戦いに集中しなくては。
「その意気よ!」
「フン、愚か者めが!」
最後の戦いが、始まった。
……激闘の末、私達はついに、魔王を撃破した。
「はぁ……はあ」
「………………」
「どうしたの? しっかり!」
またもや彼は重傷だ。今度は歩くことすらままならない。
オーク君を背負い歩いて行く。
祠までの道がとてつもなく長く感じる。だけど、彼の命がかかっていると思えば不思議と力が出る。
そうだ。
私はバカだ。
彼は、私のために攻撃を一身に受け怪我をしているのだ。
私が打たれ弱いことを、どこかで見抜かれていたのか。
たかだか十歳未満の子供に、そんなことを考える力があるのか? 分からない。
だけども、少なくとも彼は身を挺して私を守ってくれていたのだ。
「絶対、死なせない」
フラつきながら歩き、何度も倒れて、そのたびに起き上がる。
私は遠ざかる意識を、都度自らの頬をぶつことで呼び寄せた。
ついに、祠まで戻ることができた。
魔王討伐から丸一日が経っていた。
「あまりに疲弊していて……いくらオークの体力があっても……」
祠の神父さんが下を向き、とても辛そうに語った。
そんな……。せっかく目的を果たしたのに。
「何か……何か彼を救う方法は……?」
「あの、もしかしたら」
声を上げたのは、シスターだった。先日はまったく喋らなかったので極度の人見知りかと思っていたのだけど。
「あなたは、聖騎士ですよね? しかも女性の」
「ええ」
「だとしたら、同衾をし、一晩を共にすることで相手の生命力を復活させることができる処女同衾の奇跡というスキルをお持ちだと思います。ただし……男性経験があっては……いけませんが……」
あっ。そういえば、一晩一緒にいただけで彼がすごく回復したことがあったっけ。
そんなスキルのことなど、今まで教えてもらったことはないけど。そうか、男性経験があると失われるのか。
……男性経験って何だろ?
でも、そんなスキルが使えるのなら彼を助けることができるのかも。シスターにも手伝ってもらえたら……。
「あの、シスターと二人で行えばもっと回復ができそうな気がするのですが」
「私は……ぽっ」
そう言って、彼女は神父さんの方を見て頬を染めた。
彼女は残念ながら、処女同衾の奇跡スキルは失われているそうだ。
……だから、男性経験って何?
急いで彼をベッドに運び、私も肌着に着替え準備をする。身を清めるとより効果があるということで、彼を神父さんが、私はシスターに手伝ってもらって、体を清めた。
そしてベッドに二人で横になる。
「せ……狭い……」
「オーク殿が大きいですからね……我慢してください。あ、こうしましょう」
そういってシスターは、私の頭の下に、彼の右腕を置いた。続けてその腕を折り曲げ、私の肩に回す。
私は、彼に抱かれる格好になった。
「こ……これは?」
「腕枕ですよっ! 私、これ大好きなんですぅ」
「いや、シスターの好みを聞いてるわけでは無くて……近すぎじゃないですかね……」
彼の顔が目の前に、そして私の胸が彼に触れる。
もちろん、反応があるわけではないが……とても恥ずかしい。なんでだろう?
「では、若い人たちだけでごゆっくり……」
「ちょっ。ちょっとですね……」
ああ、行ってしまった。
気付けば、彼の胸は規則正しく上下しており、表情も穏やかだ。
案外、大丈夫なのかも知れない。
彼の腕に抱かれ、久しぶりに感じる安心感と、温かさで私はあっという間に眠りに落ちてしまった。
「ね、ミレー……お姉ちゃん。ね、起きて」
「ん……」
「相変わらずだなぁ……。まあいっか。お姉……ちゃんには世話になって、とても元気になった。ありがとう」
「ど、どういたしまして。そういえば、呪いはどうなったの?」
「呪いは……記憶は戻ったよ。でも、本当に戻ってほしいものは……」
「本当に戻ってほしいもの?」
「うん……でも、まあいいや……。お姉ちゃんは、王子様と結婚するのでしょうか?」
「うーん。それね……。なんだか、私はいいやって気になってきた……」
「そうですか」
「だからね、あなたと……あなたの故郷に行ってみるのも悪くないかなって……」
「えっ?」
「ダメかな……?」
「……。じゃあ、待ってる」
「どこで? どういうこと? 私、あなたの故郷知らないよ?」
「君となら……」
きっと、彼と話したのは夢で、現実で……。
起きたら彼の姿が無かった。神父さん達に聞くと、完全回復して朝早く出かけてしまったのだという。
どこに向かうのかは教えてくれなかったのだそうだ。
「バカ」
私は一人つぶやき、王都に向かう。王国に報告する必要があるからだ。それに、色々手続きがある。
全部終わったら彼がどこに行こうと、きっと見つけてやるんだと決意をした。
王都では、魔王が倒されたことを知った国民が祭を開いていた。
私達を監視する者がいたのだろうか? それとも……何者かの手によって、王国に魔王撃退との報が伝えられていた。
「よくぞ、魔王を倒してくれた。褒美を取らそう」
宰相は、そう言って、それなりの額の財宝をくれた。
元王子、現国王との結婚も約束通り……と彼が言ったところで、私は丁重にお断りした。
見た目だけの国王など、大して興味が無くなっていた。
「お暇を頂きます」
私は、騎士団長への誘いを断り、王都を離れることにした。
身につけていた鎧などの装備は全て返却し、身軽な軽装の武具を買いそろえた。
王都城壁の外に出て、うーん、と背伸びをする。
「やあ、ミレーナ様」
その声に振り向くと、美男子がそこにいた。私が今着ているような、いわゆる冒険者風の服装をしている。
振る舞いはとても優雅で、とても美しい。
しかし……彼の顔に見覚えがある。
「ディーノ殿下……いえ、陛下……?」
「ふふ……私はもう王子でも国王でも無く、ただの一国民ですね。ちなみに、私は元第二王子、今の国王は元第一王子ですよ」
「どういうことですか?」
「うーん、何から話したものか……そうですね、私のお尻に星形のほくろがあるのを知っているのは、最早あなただけです」
「えっ? えっ?」
「まだ分かりませんかね」
そう言って、彼はウインクをする。
「『今日だけ、甘えてもいいですか?』」
「…………!」
私は、彼がオーク君であると認識した。
しかも、そのセリフ……とても恥ずかしい。
「ふふ。とても可愛らしい……顔を真っ赤に染めて」
「ぐぬぬ…………。そういえば、膝枕膝枕とか言って甘えていたのは、誰なのかしら?」
やられた仕返しにと、私は反撃する。
すると、あっという間に無口になり、彼は顔を赤らめた。私は、さらに追い打ちをかける。
「他にも……色々あるよぉ? お姉ちゃんだっけ?」
「くっ。殺せ! 殺してくれ! 恥ずかしすぎて死にそうだ」
ついつい、意地く言ってしまったところ、彼はよほど恥ずかしかったのか、諦めるようにして言い放った。
でも、その目は楽しそうに笑っている。
私も、笑いながらそれに答えた。
「いやでーす! 一生、言いまーす!!」
……おしまい。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
この作品の他にも、悪役令嬢ものや、短編を書いています。
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