侯爵様と愛しの雀ちゃん リカルドside
家族旅行は楽しかった。
温泉とやらも思った以上に気持ち良かったし、東方の少し変わった料理も美味かった。ワカサギ釣りも『刀』も興味深かったし・・・なにより、久しぶりにのんびりと気を抜いて過ごす時間が、心身ともにリフレッシュさせてくれた。
・・・最後の夜に、ユリウス様とエリオス様が乱入するというアクシデントがあったが・・・それもある意味結果オーライ・・・。
何故なら、その晩はエリオス様が父上と同室になったので、さすがにダブルベッドしかないロイド様の部屋に、俺が行く訳にもいかず・・・まぁ、夫婦だしね?俺とエミリアが同室になった。そうしたら・・・まぁ、新婚だしね?・・・うん、そういう事なんです。最後の最後で悲願達成的な、ね?
エミリアには「そういうトコだよ?」って言われちゃったけど・・・仕方ない、それが俺なんだ。そんなのカッコ良く言い出せるタイプなら、こんなにもだもだしてないってーの。
まあ、そんな訳で・・・大満足な旅行は終わった。
そして、旅行から帰ると、現実が待っていた。
俺とユリウス様とマーガレットは話し合い・・・マーガレットは外交官を辞め、ユリウス様と俺の秘書として働く事になった。外交官より給金がかなり下がるのだが・・・もう外交官としての仕事に見切りをつけいていたマーガレットは、それでも構わないそうだ。『作家マシュー』としての印税も豊富にあるそうで、特に金には困ってないらしい。・・・正直、羨ましい限りだ。
「でもさ、忙しいよ、ここは。ユリウス様は、とても人使いが荒いし・・・。マシュー先生としての活動に支障が出ちゃうかもよ?」
俺がそう言うと、隣に座るマーガレットはふんわりと微笑んだ。
ここは俺の癒しスポット。別名、雀ちゃんスポットだ。
俺の執務室からほど近くにある中庭で、ベンチと小さな噴水に可愛らしい花壇まであるのだが、全く人が来ない、穴場中の穴場だ。
・・・俺はマーガレットと二人っきりで話すために、ここへ誘った。
「私は・・・無視されるより、忙しい方が嬉しいんです。家柄と性別で何もさせてもらえず、全く評価されないのが辛かったから・・・。小説の方は大丈夫なの。ストックも十分に書いてあるし・・・むしろ今は少しネタ切れ気味だったから・・・推しカップルの話を聞けるとか、創作意欲が沸くし・・・。」
「おし???カップル???」
「あ・・・いえ。なんでもないです。先ほど聞いた・・・リカルドの家族旅行のお話が・・・とても楽しくて、創作意欲が沸きますって事です・・・。特にエリオス様が来たあたりからが・・・最高でした・・・。」
そう、この話を切り出す少し前、へたれの俺は・・・旅行の話をしたのだ。(も、もちろんエミリアとの話はしていない!俺はヘタレだが、エミリアみたいに迂闊にポロポロと漏らしたりはしないのだ。)いきなり・・・仕事の事とか給金の事とか、危険があるんだとか・・・少し殺伐としすぎだろうと思ってそうしたのだが、どうやらマーガレットには好評だった様だ。
「じゃあ、マーガレットは本当にいいの?・・・危険があるかも知れないんだよ?」
「リカルドもユリウス様もいますし、護身術程度でしたら少しは心得てます。・・・それにアーノルド殿下の為です。少なからず、危険は承知してます。」
「分かった。・・・だけど、約束して?いざとなったら、僕とユリウス様を裏切ってでも、安全を優先してね?・・・それで恨んだりはしないから。」
俺がそうマーガレットに言い聞かせていると、背後から声があがった。
「マーガレットは、それは心得てるだろ、心配しすぎなんだよ、リカルドは。」
「・・・ユリウス様!」
振り返ると、ユリウス様がいつもの笑顔をたたえて、こちらに近づいてくる。
「・・・マーガレットは、父上にさっさと私の行く先を話したくらいだ。かなわない相手に無理などしない。・・・とても優秀なんだよ。」
「・・・す、すいませんでした。ユリウス様・・・。あまりにもエリオス様が迫力があって・・・。ユリウス様のお父様ですし、命には関わらないだろうと判断して、お伝えしてしまいました・・・。」
マーガレットは、縮み込んで申し訳なさそうにユリウス様に言った。だけど・・・まぁ、あの殺気立ったエリオス様に逆らうとか、俺でも無理だし、仕方ないだろう。
「いや、正しい判断だと思う。・・・君は機転も利くし、判断力もある・・・私はそう評価してるよ。君の何も見ようともせず、何もさせずに、評価もしてこなかった奴らは・・・馬鹿だな。」
ユリウス様はそう言って、マーガレットの隣に腰を下ろす。
三人で並んで座る俺たちのベンチの前には、俺が餌付けしている雀ちゃんたちがやって来て、楽し気に跳ねている。
「・・・ユリウス様・・・。ありがとうございます。頑張ります。」
マーガレットは縮こまっていた体を緩ませ、嬉しそうに笑った。
そうだよな・・・学園では成績は全てだった。頑張れば、成績に応じて、ちゃんと評価されていた。・・・それなのに、外交官になった途端、頑張る事すらさせてもらえず、評価もされない・・・飾りでいろと言われたのだ。優秀で頑張り屋なだけに、マーガレットには辛かったよな・・・。
・・・確かに、ユリウス様は人使いは荒いが、人を家柄や性別では判断しない。プライドが高く、人を見下す所はあるのだが、それはどちらかと言うと・・・馬鹿か否か・・・理解力の有る無しによる所が大きく、性別や身分で相手を侮ったりはしないのだ・・・。(まぁ、俺はそれもどうかと思うのだが。だって、誰だって見下されたり、侮られたりしたくは無いだろ?・・・まぁ、それを嗜めるのが俺だとは思っているけど。)
「少しづつでも、変えていきたいな・・・そういうのも。・・・アーノルド殿下の事も含めて、よろしく頼むよ、マーガレット。」
・・・ロバート殿下も、従者であるマイルズの事を平民だが、高く買っている。二人の創る国には・・・きっとそういった可能性が広がっていくのだろう・・・。
俺は、未来に思いを馳せた。
「ところで、リカルド。」
「・・・はい、なんでしょうか?」
「雀は・・・確かに可愛いな。それに、本当にエミリアそっくりだ。・・・あの頭の丸い感じとか、地味な色合いとか、なんとなく鈍臭い動き方など、本当に良く似ている。」
ユリウス様は感心した様に、雀ちゃんたちを眺めながらそう言った。
可愛いと言われて、嬉しくなった俺は、ポケットからパンくずを取り出す。
「餌付けしてるんで、近くまで来ますよ?」
俺がそう言ってパンくずを撒くと、雀ちゃんたちは一斉に俺たちの足元へやってきて、パンくずを啄み始めた・・・可愛い・・・。
マーガレットも思わず顔を緩めて、愛らしく動く雀ちゃんたちを見つめている。
「リカルド、餌付けしてるんですね。こんなに側に来るなんて・・・すごく可愛いです。」
マーガレットはそう言って、興奮気味に俺を見つめる。
だよね、雀ちゃんて可愛いよな!・・・俺は手にパンくずを載せてかざす。雀ちゃんたちは俺の手にも群がってくる。マーガレットは歓喜の声を上げた。
いきなり、その腕をグイッとユリウス様に掴まれ、雀ちゃんたちは、驚いて飛び立って行った。
・・・え?
ユリウス様は・・・複雑な顔をしている。・・・何か・・・まずかったか???
「リカルド・・・雀は食べられるのだろう?・・・なのに、パンくずごときにこんな側によってきて・・・こんなの、簡単に捕まってしまうではないか・・・。本当に・・・アホな所も、エミリアだな・・・。お前がこうして餌付けなどして、他の奴に迂闊に近寄ったら、あいつらは簡単に捕まって、食べられてしまうのではないか?・・・リカルド、餌付けはやめろ。雀には、もっと人に警戒心を持たせるんだ。」
そう言うと、ユリウス様は突然、立ち上がった。
足元に集まっていた雀ちゃんたちも、一斉に飛び立ってしまった。
「・・・ユリウス・・・様・・・?」
「私は今後、雀を見るたびに驚かせて、怖がらせてやる。・・・人は怖いし、食われるんだと分からせてやるんだ。それがあいつらの為になる・・・。餌付けなど・・・良くない!」
・・・ええ・・・。なんか・・・ユリウス様・・・雀ちゃんが完全にエミリアに見えてない、これ?妹を溺愛する兄バカが発動してますよ・・・。
「あ、あの・・・。雀って、ああ見えて賢いんです。毎日ここで俺がエサを上げているから、近くまで来てくれるんです。本当に少しずつ仲良くなって、ここまでになったんですよ?・・・知らない人の手になんて、載ったりはしないし、ちゃんと見分けているんですからね?・・・だから、ユリウス様、雀は脅したりしなくても、大丈夫なんです。」
俺がそう言うと、二人は感心した様に頷いた。
「そうなんだ・・・。確かに・・・エミリアはああ見えて・・・確かに賢いよな。それをお前は・・・7歳の頃から少しずつ少しずつ、手懐けていったんだものな・・・。」
・・・なんだろう、ユリウス様、ちょっと雀ちゃんとエミリアを混同しちゃってる?まぁ、いいけどさ・・・。話しているうちに、またしても雀ちゃんたちは俺たちの足元へ集まってくる。
「マーガレット、私はもう完全に雀がエミリアにしか見えなくなった・・・。」
「ユリウス様・・・私もです・・・。」
足元の雀ちゃんたちを見ながら、二人はそう呟く。
あ・・・!!!
そうだ・・・。
「ユリウス様!そうだ、我が家で今度、マーガレットの歓迎会をしませんか?・・・東方で、エミリアが調味料やら料理本を買い込んできて、今の我が家は東方料理一色なんです!・・・エミリアが『マーガレットちゃんは東方のお料理が好きだと思う。』って言ってたし、ユリウス様も、せっかくいらしたのに夕飯も食べずに、とんぼ返りでしたよね。・・・どうでしょう?良かったら・・・。」
「ほう・・・それは嬉しいお誘いだね。マーガレットはどうかな?・・・リカルドの屋敷の料理人はとても腕が良いんだ。」
「え!!!嬉しいです!ぜひ、ぜひお願いします!!!・・・私、東方のお料理が大好きで・・・『月のリゾート』の常連なんです。」
・・・うーん。さすがベストセラー作家・・・そう・・・。あの高級旅館の常連・・・。
旅行の帰りの馬車の中で『お高い宿だし、きっともう二度と来れないね。』『でも、僕は何度でも思い出して想像の中で行くよ。』そう話していた、エミリアと父上を思い・・・胸が熱くなった。不甲斐ない侯爵で・・・ごめん。
「では、ぜひ我が家で歓迎会をしましょう!・・・なんと!スズメ焼きもお出ししますね!・・・エミリアと父上とロイド様で、頑張って捕まえてくるんですよ!・・・結構、美味しくって・・・あ、あれ???」
二人は完全に固まっている。
「お・・・お前・・・エミリアを食べる・・・のか?可愛がってるのでは・・・ないのか?」
「・・・リカルド・・・貴方・・・。エミリアさんへの愛に・・・狂気を感じるわ・・・。」
・・・???
あ・・・え???・・・勘違いさせてる???
「あ、あの。スズメ焼きは、雀ちゃんじゃないですよ?フナです。・・・父上たちがワカサギ釣り以来、釣りにハマっていて、川に魚を獲りに行くんです。東方の料理本に乗ってて・・・魚なのにスズメ焼きって、変わってますよね!」
俺がそう言うと、二人はホッとした様に笑った。
・・・全く、俺はエミリアも雀ちゃんも、絶対に食べたりしないって。
リカルドは貧乏だからこそ、人を家に呼ぶタイプ。
現代人なら「みんなでご飯行こう」じゃなくて「家で鍋パしよう」って言い出す、貧乏だけど気前が良いタイプ。たぶん自炊派。ちなみにユリウス・マーガレットは、きっと外食派。




