奥様の悩み相談 エミリアside
GW期間中は不定期更新になりそうです。
「リチャード様って、お父様とイチャつくの得意ですよね。」
私は釣り糸を垂れながら、リチャード様に言った。
ここは、屋敷からほど近くにある小川だ。ワカサギ釣り以来、釣りに目覚めたリチャード様に付き合って、私とロイド様は、小鮒釣りをしているのだ。・・・これを、東方の料理本に乗っていた『スズメ焼き』ってのにしてもらうと・・・結構美味しい。食費も浮くので一石二鳥?まぁ、珍味って感じでメインのおかずにはならないけどね。
「はぁ?!・・・僕、エリオスとイチャついてなんかいないよ?!」
リチャード様がムッとした様に反論する。
「・・・いや・・・してるだろ・・・。あれをイチャついて無いとするなら、お前のイチャつくは・・・どんなだ。」
「ですよね、イチャついてますよね?」
ロイド様も苦笑いで突っ込む。・・・ですよね、誰がどー見ても・・・やっぱりイチャついてますよね。
「ええ・・・?・・・じゃあさ、具体的に、どの辺が?僕は、そこをまず聞きたい。」
如何にも不服、という感じでリチャード様言うけど・・・じゃあ、無自覚であれをしていたのか・・・さすがリチャード様、『無自覚受け』ヒロイン。
「ほら、旅行の時に、お薬塗ってもらったりしてたじゃないですか?あれとか、相当イチャついて見えましたよ。」
「ああ、確かにあれは、居た堪れない感じになったよな。私たちは、それで退席したようなものだ。」
ロイド様も同意する。
「はあっ?・・・薬を塗ってもらったら、イチャイチャなの?・・・君たちの方がどうかしてるんじゃない?」
ええっ・・・?どうかしてんのは、リチャード様とお父様だよね?
「あのな、リチャード・・・私なら、薬は自分で塗るぞ。」
「うーん・・・だけどさ、ロイド、君は自分の背中に手が届くの?僕は無理なんだよ。体がとっても硬いからね?だから、塗ってもらったんだ。それって普通だろ?」
確かに、背中に薬を塗るのは、一人じゃ難しいけれどさ・・・。
「だが、ほら・・・お前、腹にも塗って貰ってただろ?」
そう、そう!そうですよ。お父様がリチャード様のシャツをめくって、なんだかいやらしい雰囲気になってましたよね???
「それはそうだけど・・・。でもさ、ついでだろ?塗ってくれるって言うから、塗ってもらったんだよ。エリオス優しく塗るって言ってたし・・・自分で塗って、しみたら嫌じゃん。エリオスは器用だしさ・・・それでイチャイチャになるかなぁ?」
私とロイド様は、もう突っ込むのをやめた。
ロイド様は半ば呆れた顔で、釣りに集中しはじめる。
これは馬鹿ップルにイチャつくなって言って、イチャついてないよ?普通だよ?って返されたようなもんだ。
うん・・・余計な事聞いたな・・・私。
分かってはいたが、リチャード様は確実にお父様エンドを迎えている様だ。ロイド様や見知らぬヒーロー様方、ごめんね、この子はもう攻略済みみたいですよ。・・・他とのフラグを折るどころか、立てる隙が無いほどお父様のフラグを立ててしまった様です。
「てか、エミリアちゃん、急にそんな事を聞くなんて、どうしたんだい?」
あ・・・。
そう、そうだった・・・。
そう、実は私は悩んでいるのだ。
この際、無自覚受けヒロインの天才イチャイチャ物理化学者に相談に乗って貰おう。まあついでに、ムッツリ純愛派英雄(ヒロイン未攻略)にも聞いておくか・・・。
「イチャイチャとは・・・何でしょう?」
「は?」
「え?」
二人はポカンと私を眺める。
「あの・・・私もまだ新婚だし、イチャイチャしたいなって、思うんです。でも、リカルドと見解の相違が激しくて。だんだん、普通のカップルって、どういう事をしてるんだろうって思えてきて・・・。」
二人が息を飲む。・・・ん?何かおかしいかな?
「・・・えっと、まだ明るいし外なんだけど、僕たちそれ、聞いても平気かな?」
「聞いてくれないんですか?・・・相談したくて言ってるんですけど?」
私が詰め寄ると、リチャード様はヘラリと笑った。
「別に、聞くよ?聞きますけどね・・・なんだろう、ちょっと聞きたく無い気持ちもあったり、なかったり・・・?・・・うん、何か僕、複雑だわ。」
「リ、リチャード!?お前は経験豊富だし、エミリアの相談に乗ってやれ。・・・わ、私も少しなら相談に乗れるぞ!・・・その、リカルド殿とは、どういう感じ、なのだ?」
・・・え。
何だか、思ってたのと逆の反応だわ。
リチャード様は親身になってくれて、ロイド様は冷めた反応すると思ったのにな・・・。まぁ、いいけど。
「・・・あの、私が思うイチャイチャは、ロマンス小説が基準なんですね。・・・でも、それってちょっと違うのかなーって。」
「んー・・・どういう意味?エミリアちゃん?」
リチャード様は釣り糸を上げて、餌を確認しつつ私に尋ねる。
「例えば、ロイド様がコソコソ読んでる、男性向けロマンス小説に出てくる女性とか、シチュエーションは、女性から見ると・・・ちょっと無いなぁって思ったんです。で、気付いたんです。もしかして女性向けのロマンス小説も・・・男性から見ると、ちょっと違うんだよなって、感じなんじゃないかって!」
私は、ロイド様の男性向けロマンス小説を、盗み読んで得た知識から、自分の偏ってしまっているであろう見方について、二人に尋ねた。
すると、ロイド様は先ほどまでは、相談に乗り気だったのに、何故か真っ赤になって取り乱し始めた。
「エミリア、お前・・・いつの間に私の本を・・・!?てか、どこにあるヤツを読んだんだ・・・?!あれは!違うからな、違うんだ!私の性癖じゃない!私は・・・その、たまたまだ。たまたま読んでみただけだからな?!断じて違うからな!!!誤解、するなよ?!」
ロイド様に掴みかからんばかりに声を上げられ、私は驚きと怖さで目を見開く。・・・勝手に本を読んだ事で、どうやらロイド様を怒らせてしまったらしい。
「ご、ごめんなさい、ロイド様!勝手に本を読んですいませんでした!!!どーしても、男性向けってのに興味あって・・・。この間、リチャード様とロイド様のお部屋で将棋を指した時に、棚に置かれてるから、何冊か勝手にお借りしちゃいました・・・。そうですよね、あれはロイド様のお好みでは無いのですよね・・・。」
焦ってロイド様に謝る。
別に、ロマンス小説の内容がロイド様の望みじゃない事くらい分かっている。・・・あんなちょっとエッチでドタバタなハーレム系ラブコメ・・・本として読んでは楽しいが、ロイド様のお好みでは無いだろう。娯楽として楽しんでるくらい分かってるんだけど、な。
「あ、えっ?それか?!その本か?!そっか・・・。ああ、焦った・・・。」
ロイド様は、ホッとした様な顔になり、グダリと座り込む。・・・うーん。勝手に本を借りるなんて、悪い事しちゃったな・・・。確かにあの顔で、ちょっとエッチなラブコメを読んでるなんて、知られたくは無かったよね・・・。うん、次からは許可を貰おう。
「ロイド。良かったね?セーフみたいじゃん。・・・後で、どんなのがお好みなのか僕には見せてよ。・・・僕、ちょっとロイドの性癖に興味出ちゃった。」
「・・・絶対に嫌だ。」
「なんだよ、見せろよー。」
そう言って、リチャード様は座り込むロイド様にのし掛かる。・・・これだよ、こういう感じ!・・・こういうのがイチャイチャだよねぇ・・・。だけど、二人はイチャついてる意識は無いんだろうなぁ。ロイド様は嫌そうにリチャード様を押し返す。
・・・うん。確かに甘い雰囲気じゃ無いもんなぁ。
・・・。
甘い雰囲気・・・。それを考え、私はため息を吐いた。
「・・・リカルドが下手なのかと思ったのですが、喜べないで嫌な気持ちになる、私がおかしいのかも。」
「え・・・。」
「下手・・・。」
二人は唖然とした様にそう言った。
・・・そう、リカルドは口下手だ。表現下手とも言えるかも知れない。自分の気持ちを上手く伝えられずに、変に拗らせる事は良くあった。・・・だから・・・あんな事を言ったのかも知れないが・・・。
それにしても、だ。
「エミリアは雀に似ていて可愛い・・・。」
・・・そう言われたのだ。それは・・・無くないか?
旅行の最後の夜、二人きりになれた私たちは、それはもう甘ーい新婚さんらしい夜を過ごしたのだが、その時にリカルドにそう、ウットリと囁かれたのだ。
ウットリと、だ。
私は余りの暴言に・・・数分間、その真意について考えて・・・やはり、理解できずに「私って、雀に似てるの?」と聞いたら、蕩けるように「ああ、そっくりだよ・・・。」と言われたのだ。
蕩けるように、だ。
・・・嬉しくない。全く、嬉しくない。
雀に似てるって・・・何?色?茶系だから???
意地悪で雀に似てるって言われたなら、こんなにモヤモヤはしなかった。ちょっとイラっとした位だろう。・・・だが、ウットリ蕩けるように言われて、私の心は大ダメージを受けた。・・・こいつ、本気で言ってる!・・・と。
以前から、リカルドは少しズレているとは思っていた。
海老や蟹を剥いてやるのがイチャイチャだと思っていたり・・・それじゃない感が凄かった。
だから・・・「雀」に関しても、きっと本気で褒めてて・・・リカルドの中では最大級のデレ方なんだろう。・・・でも、喜べない。喜べないんだよなぁ・・・。フリでも喜ぶべき?嫌って言うべき?はたまた、喜べない私がおかしいのか?
・・・そもそもイチャイチャって何?周りからそう見えてても本人達にその気が無ければ、なんか違うんだよね?・・・じゃあ、イチャイチャだとリカルドが思ってて、私がそう思わない場合は???・・・もしかして、逆もある?私がいい感じだと思ってやったイチャイチャが、リカルド的にはドン引きみたいな・・・。
・・・私の思考はそれ以来、迷宮を彷徨っている。
「エミリアちゃん・・・聞きたくないけど、聞きたい!リカルドはそんなに・・・下手なのかい?」
「私は凄く聞きたい!・・・リカルド殿は、そんなに下手なのか?具体的に、どう下手なんだ?」
あまりの二人の剣幕に、私は驚いて後退る。
な、なんだろう、二人の圧がすごい。
「下手っていうか・・・口下手?」
「くちべた。」
「クチベタ?」
二人の顔から表情が抜ける。
あ、あれ???
「あの、リカルドが口下手なのは知ってました。だけどこの間、いい雰囲気だった時に『雀に似てる』なんて言われて、私・・・全然喜べなくて。でも、嬉しくないなんて言いにくい状況で・・・。それから凄く悩んでて・・・。」
・・・あれ。
・・・おい?
おーい。
私がそう言うと、二人は釣りに集中しはじめた。
「・・・あのー?」
「エミリアちゃん、似てるよ。雀。可愛いし、良かったね。」
「ああ、そっくりだ。可愛いだろ、雀。エミリアそのものだ。」
・・・え。
やっぱり、男性的に雀はアリな褒め言葉なの?
◇◇◇
その夜、リカルドにコッソリと「チュン」と鳴いてみたら、驚く程強く抱きしめられた。
・・・前世でネコミミってジャンルがあるのは知ってたが、どうやら、こっちの世界には雀ってジャンルがあるみたいだ・・・。
しばらくして、リカルドが茶色のフワフワしたコートを私に買ってきてくれた。それを着たのを見たリカルドは感激で言葉を無くしたが、リチャード様とロイド様は、「マジで雀だねー!」「ああ、雀、そのものだな。」と爆笑した。・・・え?爆笑、なの?
「チュン」
私がそう鳴くと、リカルドは真っ赤になって身悶えたが、二人は引き付けを起こす程に笑った。
・・・え?
ロイドの棚にあった男性向けロマンス小説は、少年誌くらいのレベルのエッチさ。ガチなやつも所持してるが、棚には無いし、この後にさらに厳重に隠したと思われる。




