あるまじきコミュ障 下
ご賞味あれ
俺は財布から500円を出す、そしてあの客を無視してそれをおじさんに渡す。
その行為にはおじさんも客も驚いた様で目をパチクリさせている、でも二人は察してくれた様だ。
俺はコミュ障だ、でも俺はやる時はやる。
俺はレジの列を抜けて万引き少年の所へ向かう、万引き少年は俺の接近に気づくと更に挙動不審になる、萎縮とも言える。
俺はそんな万引き少年に無言で行くように促す、俺は無言である程度の事は伝える事ができるからな。
万引き少年は今にでも泣きそうになりながらも理解した様で、週刊少年ジャンプを持ったまま出口へ向かう。
ピロリンピロリン
そうして出て行った。
「え?万引きしたんじゃないの?あの子」
「現行犯〜?」
「ねぇ、このドリアンパルムって美味しいかな?」
「マジで?報せた方がよくね?」
ちなみにあいつは万引きじゃない、俺が週刊少年ジャンプの値段分を払っておいたから。
だから万引きじゃない、でもまだ終わってない。
俺は少年を追いかける様にコンビニを出る、そしてばれぬ様に尾行する。多分近場にいじめっ子達がいるんだろうな。
俺はやる時はやるんでね。
案の定、“そいつら”はコンビニの陰にいた。
少年の持ってきた週刊少年ジャンプを読んでいる。
「こいつマジで万引きしやがった」
「よくばれなかったな、もしかしてこいつ常習犯なんじゃね?」
「またやらせるか、今度はジャンプ二冊な」
人間のクズがすぐそこにいる。
少年はそんなクズの近くで震えていた。
そして同様に俺も震えていた、イジメを目の当たりにした俺はあまりの現実に震えが止まらなかった。
長谷川よ、行くんだ。お前はコミュ障だがやる時はやる男だ。あの『あり得ない耳を持つ、美少女を総取りしている、不良に見間違えられる、プリンヘアーの友達が少ない長谷川』とは真逆だか、やる時はやる男だ。それは唯一同じ所何じゃないのか?唯一男としての義務なんじゃないのか?長谷川よ、行くんだ。
自分に言われた共通性、そうだ俺はやる時はやる男だ。
震えが止まらなかった体は徐々に平静を取り戻して行く。
そして歩み出す勇気もプラスされる。
俺は角から身を出し、奴らに歩みよって行く。
自己暗示、それは俺の得意分野、あらゆる逆境はこれにより乗り越えて来た。
俺はできる、俺はできる、俺はできる、俺はできる、俺はできる、俺はできる
心は破裂しそうにバクバクしている、上がり症の俺がいじめっ子に向かって歩んでいる。
奴らは俺の接近に気づいていない、週刊少年ジャンプに夢中になっている。
音もなく忍び寄る俺、そんな俺に気づいたのはあの少年だった。
どんよりとした顔、かなりストレスだったのが分かる。
少年は俺をいじめっ子に報せる事はなく、ただうつむく。これぞ見て見ぬ振りだ。
そして更に歩み寄る、だがそこで気づいた。
俺って何をすればいいんだ?
そう思った途端、足がすくむ
そうだよ、俺って奴らに何をすればいんだよ。だって俺ってコミュ障じゃん。こんな奴らに物申せるのか?ヤバい、冷や汗が………
でも歩み出したら止まらない、どんどん近づく。
と、そこでまるで見計らった様に気づかれる俺。
「誰だお前?」
ドスの効いた声、こいつ高校生じゃないだろ!
「お?宅山どうした?って誰?この人」
こっちはチャラい。
「ナルト面白いな、誰だ?」
三人に気づかれた、ザ・不良みたいな奴らだ。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。
どうしよう、何か何か何かを言わなくちゃ、そりゃ、万引きの事だけど万引き万引き万引き万引きだけど。
ここにきて自己暗示が解けて来た、ただのコミュ障になっちまう。
そうなったらお仕舞いだ、ただのコミュ障は、ただの意味分からん奴だ。
でも何かを言わなくちゃ、ここまで来たら物申してやる、コミュ障を振り払え!
「お、前ら万引き——」
そこで俺の言葉を遮り
「にっ、逃げるぞ!」
ドスの効いたいじめっ子が突然の逃げるぞ宣言。その声は何故か知らんが裏返っていた。
そして一目散に我先に走って行く。
それに従って他のいじめっ子も
「「待ってくれよ!宅山!」」
同じ言葉を吐いて逃げていく。
その場に残ったのはわけの分からない俺とイジメられ少年。
何が起きたんだ……意味分からん
そして呆然とする俺に駆け寄ってくる少年。
「凄いです!睨みだけで奴らを追い払うなんて!」
お、元気になってる。ってか
「睨み?」
睨みってまさか俺の睨み?
俺のコミュ障たる睨み?
条件反射で無意識に出るあの睨み?
「そうです!それにありがとうございます、僕の万引きを助けてくれて」
いや別に500円くらいいいけど
「万引きはダメだって分かってるんです、でも万引きしないとイジメられるし、でもしたら捕まるんだろうなって……だからあの時お兄さんが僕の代わりに払ってくれて嬉しかったんです!」
え?マジで?気づいてたの?
「それに奴らもあの睨みで追っ払ってくれるし、これでもう万引きはしなくてすみそうです!本当にありがとうございます!」
そんなに感謝される様な事はしてないけど、まぁ悪い気はしないな。
俺はそんな頭を下げる少年を見ながらある事に気づく。
俺の右手に握られているドリアンパルム、これ万引きじゃん!
俺は少年を無視して急いでコンビニに戻る。
ピロリンピロリン
すると——
「凄いよ君!不良共を睨みだけで追い払うなんて!」
そこにはあのレジ打ちのおじさんが、他にも——
「やるじゃん。私でも思いつかなかったわ、あの方法は」
この人はおじさんと葛藤を繰り広げていた客。やっぱり少年を逃がそうとしてたのか
「やるな〜、まさかあんな方法で少年を助けるとは……やっぱり若いもんは頭が柔らかい」
知らないおっさん。
「安心した、あの子が罪に問われなくて」
知らない女性。
「勇気あるね、よくやった」
知らないガキ。
「長谷川くんがまさかそんな魂胆を目論んでいたなんて、見直したわ」
サークルの人。
「ただの根暗じゃなかったんだ」
サークルの人。
「ドリアンパルムうまいわ〜」
サークルの人。
「マジでやったじゃん」
サークルの人。
他にも色々、色々いたから以下略。
なんとまかさのまさか、コンビニ内にいた人はみんな万引きに気づいていた、気づいていて黙秘していたって事。
大丈夫かよ、この人たち、まぁ俺もヤバいけど。
「君、このコンビニで働かない?」
聞いてきたのはレジのおじさん。
唐突な発言にちよっと引く。
「最近、不良の溜まり場になってたんだよこのコンビニ」
へー、マジっすか。
「だから、君が居てくれれば不良達ものいてくれるんだよ」
俺はカカシか。
答えはもちろんNO、コミュ障が働けるわけない。
「いいじゃない、それがいいわ。不良がいて行きずらいのよね、まぁ私は強制しないけど」
いえいえ、それは強制です。強制にしか聞こえません。
「そうだよ、長谷川くん。ここでバイトしなよ、そうすれば根暗が治るかもしれないじゃん」
大きなお世話だ。
でもどうするかな……もしかしたらコミュ障を治すいい機会なのかもしれないし………
「“コミュ障”を治せたら美咲にも話しかけられるんじゃないの?」
ふと告げられた誰かの言葉。そうだよ、コミュ障を治せたら美咲さんに………
美咲さんとは俺がサークルに入る理由となった人、美咲さんはサークルの人ではないがサークルによく足を踏み入れる美人さんだ。
まぁ好きです、はい。
そしてそれが活力になる、コミュ障が治せたら美咲さんと話せる、見てるだけだった美咲さんと会話ができる、よし。
「やります」
「ありがとう!じゃあ明日か——」
おじさんは意気揚々と何かの話をしている、イントネーションがおかしくてなに言ってんのか分からんけど。
バイトか……出世したな。コミュ障たる俺がコンビニでバイト、それもカカシ役。
何かが始まりそうな予感がするな——
——そしてそれはただの予感だった
バイトが始まり一週間後、俺は解雇された。
コミュ障のせいで、予感は予感で幕を閉じた。
俺は空を見上げて一人でぼーっとしている、まだ青い空の色だ。
「何だったんだろうな……一瞬にして終わった」
あの日を思い返してみても俺は何かが進歩した訳じゃない、ただ500円を不意にして、パルムをオマケしてもらった程度だ、全く釣り合わない。
ちなみに俺はサークルを抜けた、いづらくなったからだ。まぁ実際何のサークルだか分からんやつだったし、抜けても心残りはない。
心残りは美咲さん。でもサークルの人に教えてもらった。美咲さんって付き合ってたそうだ。
俺の恋も終わった、でも気になるのは俺をバイトしようって気にさせたあの言葉
「“コミュ障”を治せたら美咲にも話しかけられるんじゃないの?」
あの声は俺の聞いた事のない声だった、サークルの人ではない。そもそもサークルの人たちはコミュ障ではなく根暗って呼んでいる。
なのに美咲さんの存在と俺のヤル気を絡ませて来た。
俺の知らない誰かの言葉。
俺の知らない誰かの存在。
まぁ俺が言いたいのは、それはコミュ障不幸な病気だって事、ただそれだけだ。
あるまじきコミュ障終わりです、続き書くかもです




