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札幌真南高等学校 1/5 吉川啓太と佐々木洋介

札幌真南高等学校は、地域でも指折りの進学校。

特に、名門の進学クラスで常にトップを争うのが、優等生「吉川よしかわ 啓太けいた」だった。彼の家庭は裕福で、幼少の頃よりエリート教育を受け、期待に応え続けてきた。父親は有名企業の幹部、母親は地元で有名な弁護士会の理事。何不自由ない生活を送り、誰もが羨むような人生。しかし、吉川の心には言葉にできない虚無感があった。


毎日、規則的な時間に目覚め、名門私立中学から一緒に進学した仲間たちと、校舎の中央に位置する進学クラスの教室へ足を運ぶ。そのルーティンは、吉川にとって一種の拷問だった。同級生や教師など周囲がどれだけ自分を賞賛しても、彼の中には何も響かない。幼少からのエリート教育のたまものか、たいして努力する事なく成績も優秀で、経済的にも裕福だった為、欲しい物は全て手に入れられていたが、言い表せない虚無感が常にあった。


(生きるってなんて味気ないんだろう。)


まぁ、人生なんてこんなものかと自分に言い聞かせて毎日を過ごしていたが、目の前に座るクラスメイト――「佐々ささき 洋介ようすけ」を見るたび、苛立ちがこみ上げてくる。


佐々木は、真面目でいつも前向きに見えたが、それは表面的な印象に過ぎなかった。クラスの隅で日々冷たい目に晒され、いじめを受け続けている彼には、吉川のような経済的な余裕はなかった。家庭の事情も厳しく、毎日同じボロボロの制服を着て登校していた。しかし、そんな境遇にも負けず、彼は勉強に励み、特に化学と生物の分野では校内でも常に上位にランクインするほどの成績を収めていた。疲れた表情に時折浮かぶ決意の色が、彼の静かな強さを物語っていた。


(なんだ、こいつの目は?)


吉川は心の中で何度も問いかけた。自分にはすべてが揃っているのに、何も感じられない。なのに、佐々木のような奴が、ボロボロの状態でも諦めないでいることに、理解できない苛立ちを覚えた。そして、それは嫉妬へと変わっていった。



佐々木洋介にとって、学校は地獄だった。クラスの優等生である吉川啓太を筆頭としたいつも同じグループの奴らが、机にゴミを入れ、上履きは何度も捨てられる。勇気を奮い立たせ教師に相談したこともあったが「お前の態度にも問題があるんじゃないか?」と面倒事を避ける大人の言葉が佐々木の心に追い打ちをかける。何を言っても、誰も助けてくれない。彼にとって、学校はただの居場所ではなく、逃げ場のない牢獄だった。


佐々木の家は、貧しいながらも両親が懸命に生き抜いていた。父親は大手映像制作会社の札幌支店の警備員をしており、母親は看護婦として家計を支えていた。

彼らは洋介に期待をかけていた。「洋介だけは、いい大学に行かせて、立派な人生を歩ませたい。」それが佐々木家の願いだった。


家には余裕がなく、学校で必要な教材や修学旅行の費用を賄うために、両親はできる限り節約していた。夜、父親が帰宅すると、疲れ果てた顔でテレビを見ながら発泡酒を飲み、虚ろな目で晩御飯を食べていることが多く、母親も無言で家事をするなど、疲労からくる重く暗い影が常に家庭内に広がっていた。


「洋介。お父さんもお母さんも頑張るから、お前も頑張ってな。」


父親が日常会話つもりで発した言葉だが、陽介にとっては何よりも重い圧力でしたかなかった。

両親の前で佐々木は気丈に振る舞っていたが、学校ではクラスメイトからのいじめが日々重くのしかかっていた。グループ課題では除け者にされ、買い替えたばかりのノートは破られ、廊下では多人数に肩をぶつけられる日々――彼の心は次第に擦り切れていった。



見上げた空には重く暗い雲が広がるその日、佐々木洋介はもう限界だった。


教室の片隅でまた笑い声が響いた。自分に対するいじめと反応を見て笑う者の声だ。洋介の中で何かが壊れる音が聞こえた。彼はもうこれ以上耐えることができないと悟った。昼休み、彼は屋上につながる非常階段に向かい、静かに最後の瞬間を迎えようとしていた。


「もう終わりにしよう…」


佐々木は涙を堪え「思ったより低かったんだな」と感じた転落防止のフェンスに足をかけたその時、校内放送が響き渡った。


始業のチャイムとは異なる緊急地震速報のようでありながら初めて聞くアラート音が響いた後、校内放送があった。


「政府より緊急発表です。石葉総理大臣より、国民の皆様に向けて重大な声明が出されます。全校生徒は、直ちに体育館に集合し、テレビでの報道を視聴するようにしてください。繰り返します…」


その放送は、佐々木の行動を止めた。彼の心に刺さったのは、今までとは違う冷たい感覚だった。何かが起こる。今までと違う何かが…。


その日、日本政府はパージ法を発表した。それは、1年に1度、12時間だけすべての犯罪が合法となるという、前代未聞の法律だった。


パージ法の発表を聞きながら、佐々木の胸の内には、今まで感じたことのない奇妙な感情が渦巻いていた。「全ての犯罪が合法」――それが許される世界が、すぐそこに迫っている。その時、彼の脳裏には、吉川啓太やいじめに関わった他のクラスメイトの顔が次々と映し出された。


「そうか…すべてが許される12時間なのか…」


佐々木は自分の中で、何かが変わったことを感じた。

さっきまで「自害」という選択しかなかった佐々木に、今までとは違う考えが彼の目の前に広がっていた。

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