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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
2.ドッキュン聖者とガッカリ剣士
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魔界の車窓から・7




 魔界滞在二日目の正午過ぎ。

 いよいよ本命の、ヒルダさんの衣装を着て、教会での撮影の時間がやってきた。(魔族にも神様とかいるの、と訊いたら、一応偉大な魔導士や動物、魔物を信奉している集団ないし施設はあるとの回答でした。ここもそのうちのひとつなんだって。)

 鉄と銀と骸骨で出来た相変わらずのホラーテイスト建築も、衣装との雰囲気ばっちり。

 私達は、祭壇前の真っ青なビロードの絨毯の上で、互いの着替えが終わるのを待つことになっていた。

 撮影――といっても、これもヒルダさんの身内で固めたスタッフ数人で行うもので、しかも大部分の指揮はヒルダさんが執っている。

 実際に服を用意して私たちに着せて、シャッターを切るのもヒルダさんなのだ。緊張するけど、知っている人が目の前に二人も居るなら、心強いかな。私だって、これでも、近所では評判の美少女だったし。ていうか、顔は出さないし。あくまでメインの被写体は服。出しゃばってはいけないのよ。

「ジーク、お待たせ」

「……!」

「そんなに凝らなくていいって言ったんだけど、せっかくだからって本格的にヘアメイクされちゃった」

 その筈だったんだけど。何かがヒルダさんの琴線に触れたらしく、控室に入るなり、「うーん。顔も作るか」という呟きによって、およそ一時間弱、私はヒルダさんにされるがまま化粧を施されていた。

 髪型は、後ろから撮ったりするかもしれないし、ということジークも同様にある程度セットしてもらう予定だったんだけど。まさかここまでやってもらえるとは。……大事な衣装に粉ついたりしたらやばくない?逆に身が引き締まる思いよ。

「それで、長かったのか」

「うん」

「……似合うな」

「ほ、ほんと?へへ、照れるなぁ……」

 ま、……まあ、自分でも正直、鏡見てイケてると思ったし?

 髪はフォーマルに纏め、前髪も綺麗に分けてもらった。魔界式と聞いてちょっとびくびくしてたけど、出来上がったのは、寒色のアイメイクと透明感のある肌、血のように真っ赤なリップを塗った、退廃的なお人形さんのようなアンバランスなセクシーさを持った自分の顔面だった。さ……さすがヒルダさん!私の技術と道具では再現不可能では……?もうちょっと目に焼き付けておく必要があるわ。

「凄く、綺麗だ。女は花嫁姿が一番美しいと言うが、その通りだな。いつもと違って見える」

「そんな褒めなくてもいいよ、も~。大げさなんだから……」

 ジークもすっかり見惚れているじゃないの。私は心のなかで勝利の美酒に酔いしれた。ざま~見ろ、私だってこんなものよ。

 おほほと片手で笑う隙に、こっそりジークを盗み見る。

 クッ……。こっちも多少なりともイジってもらってるお陰で、昨日の三割増しくらいじゃない……。ピアスとか靴も揃うとそんなにか……そんなに……。髪……上げると急に大人に見えるなぁ……。

 結局私は棒立ちでジークを凝視する形になってしまった。

「…………ジークも、かっこいいよ」

「当然だ。俺にはお前が相応しいし、お前にも俺が相応しい」

 何の話してんだこいつ。嫌ぁね。

 私が顔を背けると、ジークがおかしそうに噴き出していた。失礼な男め。

「じゃあ、私達も準備してくるから、二人はそこで待っててちょうだい」

「はーい」

「服、汚さない程度に寛いでて」

 ヒルダさんはスタッフを集めて、別の部屋へ行ってしまった。

 普通こういうのって、もっと入念に何日も日数をかけて準備するものだと聞くけど、今日ぶっつけ本番で本当に大丈夫なんだろうか。昨日みたいに確認しては魔法、魔法使っては確認となると、時間も体力も上手く使える自信がないわ……。私マジのただの素人だし。

 まあ――それでもいいか。と、目の前にいるジークを盗み見る。ビビアンやロザリーに話したらまた根掘り葉掘り質問攻めに遭いそうだけど、今の状況は悪くない。悪くないどころか普通じゃ体験できないのでは。

 やばい。頬が。自然と上がって来る口角を下げようとして、頬のあたりが引き攣っていくのがわかる。やばいやばい化粧崩れるて。

 ジークはというと、こっちはこっちで私の全身を見返しては、腕組みを満足そうにしている。やめろやめろ、どこのプロデューサーだ。

 二人で教会の内部について、やれ劇場みたいに階段席になっている理由はどうこう、やれあそこのレリーフの由来はどうこうと話し合うこと数十分。

 さすがにやや暇を持て余し始めた頃――控室の扉から、見覚えのある角が覗いて、私達は姿勢を正した。


「やあ――親愛なるジーク、ザラ。」


 ――誰。


 知らん人、入って来た。

 今日、ヒルダさんに紹介された人の中に、あんな人は居なかった筈だ。

 灰色の肌をしていて、螺子のような角を生やした、有翼有尾の男性。やや未熟そうな顔立ちや体型から、少年といったほうがいいのか。

 人間と魔族の特徴を合成したような容姿に、私は、何か、脳裏に映像の破片が引っかかるような錯覚に陥った。

「あの人……どこかで」

 けれどそのデジャヴュも一瞬で、思い返せばただの勘違いだった気がしてくる。どこか……どこかで。

「あれ。これは……どういう状況?」

 思い出そうとする私を遮るように、少年が、わざとらしく首を傾げて、その中性的な声を響かせる。

「撮影中だ。許可は取っている筈だが」

「さつえい…………」

 少年は暫く停止していたものの、合点がいったところでぽんと手を打った。いちいち仕草が大仰だ。

「ああ、なるほど。そっかそっか!あっはは、これはつい早とちりをしてしまったようだ!我ながらこんなミスを犯すなんて――自分でも思うより、過敏になっていたみたいだ」

 愉快そうに大声を挙げて笑う少年に、私達は掛ける言葉が無い。

 いや……。

 どういう状況って、もうこっちが聞きたいんですけど。誰なんですか。ていうか。

「アレ浮いてんの?」

「飛んでるんじゃないのか。翼あるし」

 ジークと声を潜めて内緒話をしていると、笑い疲れて大きく息を吐いた角の少年が、今度はジークがいつもするみたいに、顎に手を当てて思案の表情を見せた。

「困ったなぁ。私が君達の前に姿を見せるのは殺す時って決めていたのに。本ッ当……この世界の神サマや吸血鬼の作った魔法にはウンザリさせられるね。私を誘き出したつもりかな」

「ぶつぶつ一人で何言ってんのあの人」

「さあ……」

 微妙によく聞こえない。少年は呟くたびに、暗い笑みを浮かべていく。私達、何か悪い事をしただろうか。

「……ああでも、こっちに双子はまだ来ていないんだっけ?」

「双子?」

 ようやくこっちにも聞こえる声量で話し掛けてきたと思ったら、また意味のわからない言葉が飛び出した。

 本当に何なんだこの人。ヒルダさんのスタッフでも無ければ――この感じだと、教会の人でも無さそうだし。でも彼は、私達二人を知っている素振りだ。

 私も馬鹿じゃない。大体、こっちを一方的に知ってるヤツに、マトモなのは居ないのよ。

「何のことだ」

「私を追い回してくる忌々しい餓鬼どもだよ。……来てないならそれに越したことはない」

「ザラ、下がれ」

 ジークの言う通り、私は彼の背中に隠れる。キャスリングは控え室の鞄の中だ。油断していた。ヒルダさん達はどこに行ったんだろう。もしこの子が何かしたなら、私は君を許さない。

「さて――せっかくだから()()()()()()()()()。今の私ならやれる気がするしな、うん。やれないこともないだろう」

 少年は独り言とともに、指を鳴らした。きっと魔法の発動の合図だ。

 私とジークが身構えた瞬間、少年の姿が消える。

 代わりに、そこに、教会の天上まで届くような、クリスタルで出来た巨大な魔物が出現した。透き通った全身のうち、心臓の部分だけ拳銃のようなものが埋め込まれている。唸りを挙げるでも、攻撃してくるでもなく、巨人はただ、虚ろな彫像のように佇んでいる。

「幻魔――!?」

 それを見たジークが一言、鋭く漏らした。そうか、幻魔は魔力の反応が魔物とは違うんだっけ。

『へえ。そんな名前をつけたんだ』

 姿が見えないにも拘わらず、どこからともなく先ほどの少年の声が響き渡る。

『こいつの個体名は、“霜の巨人”ってところかな。私が合成したものの中でも傑作でね。幻界のリソースをほぼ食いつくして、それでもまだほかの次元の情報を吸収するために暴れまわろうとするんだ。こんな世界じゃなきゃ、星ひとつは滅ぼせたかもね』

 ネロ先輩のお屋敷での一件が脳裏をよぎる。この口ぶりからするに、幻魔を操っている男とは――恐らく彼のことだったのだろう。

 召喚した筈の少年が見当たらない以上、対峙あるいは撤退するほかない。ジークと背中合わせになって、固唾を飲んだ瞬間だった。

「そうはさせるかーっ!!」

 教会の硝子窓を突き破って、見覚えのある剣士が、風と光を纏って、硝子とともに現れた。

 マントに包まった青年が、ごろんごろん転がって受け身を取りながら、私とジークの前に立ちはだかる。

「でっ、出たな!」

 幻魔よりも目の前のアルスの登場に、ジークが怯えていた。

「幻魔あるところに俺アリってね!」

「ていうかお前、どうやってこっちに来たんだ!?」

「ナイショ!」

 返事をウインクで誤魔化して、アルスが颯爽とミストラルを鞘から引き抜く。

 霜の巨人と呼ばれた幻魔は、こちらの様子を窺っているのか、黙したままその場から動こうともしない。

「俺が捜してるの、アイツなんだ!」

「どっち!?」

「でかい方!アイツ――俺の故郷を散々ブッ壊してったんだ。あんなの野放しにしておけねえ。絶対見つけ出して倒そうと思って、今日ようやくそのチャンスが来たってとこ!」

 アルスの言い分はよくわからないけどわかった。事情が何であれ、彼が心強い助っ人には変わりない。

「くそ……あの男をとっ捕まえたいところだが――!」

「頼む!力を貸してくれ!アイツが動きだしたら、ここも全部無くなっちまう!」

 躊躇うジークを差し置いて、アルスはその身体能力で、さっさと巨人の身体を登っていく。

「暴れ出すとどうなるの!?」

「ここの人も物も、全部吸収されちまう!起動処理してる間に叩き潰す!」

 私とジークは、顔を見合わせて頷く。先日のネロ先輩のパーティーで、幻魔が人を食う瞬間は見ている。あの図体であれをやられたら、堪ったものじゃない。

 幻魔と正面から戦うのはこれが初めてだ。先陣を切ってくれているアルスに、迷惑が掛からないようにしないと。幸い、魔界では私の魔力も安定するらしいし。

『おいおい、アルス。君まで居るのか。最悪だな』

 少年の苛ついた声がする。私達だけじゃなく、アルスも知ってるなんて。なんてきな臭い男!……男、かなぁ?

「弱点は恐らくあの心臓部だと思うが――通るのか?」

「私の雷、乗っけてみる?」

「やってみるしかないな」

 相手は得体の知れない魔物、よりも更に意味不明なモノだ。慎重に行きたいけど、そればかりじゃ現状を打開できないのも事実。こういうときは思い切りよね。

「全然、削れねーっ!」

 頭上から、巨人に攻撃を繰り返しているアルスの叫びが聞こえた。

「そいつの起動までどのくらい掛かるんだ!」

「えー!わっかんねー!目が開いたらー!」

 何ともいい加減な答えが返って来た。確かに今のところ、巨人に顔のようなものは確認できない。目だけ浮かんでくるのだろうか。

「ジークも、上行ったほうがいいんじゃない?」

「馬鹿言え、お前を置いていけるか」

 試しに言っただけですう。馬鹿じゃないですう。さすがの私も今回ばかりはジークに置き去りにされたら、と思うと、ちょっと怖いのだ。まるで動かないとはいえ、アルスの話が本当なら時限つきだ。三人がばらばらになった瞬間爆発するとか、あったら笑えないし。

 なのでやることは一つ。私とジークはそれぞれ、術の発動の準備にとりかかる。

 ジークが鍵で道具を色々と取り出す間、私は意識を集中させて、魔力の流れを探る。

 うん。大丈夫だ、人間界と変わらないどころか――やっぱり魔界のほうが少し掴みやすい。イメージするのは鋭さだ。砕くような、穿つような、そんな閃きが必要だ。

「これが……魔界の魔力(エーテル)……」

 瞼の裏に、瞳孔の中に、水晶体の表面に、視神経の通り道に、イメージした雷光そのものが走っていく。今なら目からビーム出るわ、マジで。

「“我は序列四十八位、地獄の大公である。朝を夜に、心臓を脳に、大地を海に変える者。ヒトに富と知恵を唆し、真理を視る紅き雄牛である。意志なき万物よ、有魂の万象よ、我が手によって汝らが到達すべき姿へと導かん。”」

 ちょうど私が集中しきったのと時を同じくして、ジークの錬金術も完成する。煙に包まれながら現れたのは、鈍色の筒だ。

 ええと。――砲台だ。そう、あの。ホワイトサロンでも、ドラゴンを迎え撃つ為に設置されていたのを見たことがある。車輪がついた、人ひとりぶんくらいの長さの砲身。本来ならここに、抱えるほどの大きな弾を込めて、発射する筈だ。

「最大火力で頼む」

「えっ、これに?」

「早く」

「よ、よーし」

 ――ふぁいあ!!

 全身の緊張の糸を一斉に解くようにして、私は纏った雷の魔力を目の前の砲台にぶつけた。

 普通なら、たぶん、私のありったけをぶつけただけで壊れるであろう砲台は、そのままばちばちと火花を散らして帯電していた。

「では――」

 ジークが砲台の前に屈みこみ、着火―ではなく、軽く指で弾いた。

 すると、青白い光を纏った閃光が、真っ直ぐなレールを描いて、巨人の心臓部を直撃した。時間にして一秒にも満たない。恐ろしい速度と光量、エネルギーを以て発射された魔力が、空間を引き裂く音を置き去りにして、教会の中を駆け抜けた。

「何だーっ、今のーっ!?」

「魔力変換ビーム砲」

「ビームじゃん!!先に言ってくれよ!!」

 アルスには可哀想なことをした。さぞ怖かったろうに。

 ややあって、ジークがドヤ顔で披露した魔力変換ビーム砲(名前のセンスどうにかならなかった?)は、衝撃に耐えかねて崩れ落ち、そして巨人のほうも、やはり見事に弱点を貫かれたのか、ここにきて初めて、膝をつくようにゆったりと身体を折り曲げはじめた。

 よく見ると、穿たれた心臓部を中心に、固く結晶化していた外郭が、大量の水蒸気を発しながら融解しはじめている。

「やったか?」

「いや……!」

 すかさずアルスが地面へ降りて来る。

「これで少しは、俺の仕事が出来るってもんだ!」

 よろめいた巨人に向かってアルスが振りかぶり――その切っ先は、宙を掠めた。

 身構えていた筈の手応えを失って、アルスがバランスを崩しながら、落下する。

 現れたときと同じように、巨人は突如として、忽然と消えてしまった。

 呆ける私達を嘲笑う少年の声が、耳に纏わりつく。

『残念。やっぱり分が悪そうだから、私は帰らせてもらうよ。この巨人も、あまり替えが効かなくてね。ここで君達に認識されてしまったこと、アルスのせいで君達を仕留めそこなったこと―非常に遺憾だけど。また戦力が揃ったら、殺しに来るよ。それじゃ』

 ぱちん。

 どこかでまた少年の指を鳴らす音がした。

 再び警戒する私達に、アルスが首を振って、事態の有耶無耶な終結を教えてくれた。

「何だったんだ、あいつ……」

 ジークが忌々しそうに、巨人がいた場所を睨みつける。私も同じようにして見ると、アルスが砕いた硝子の窓ごと、痕跡がごっそり無くなっていた。

「俺も正体は初めて見たよ。……俺はあいつと勘違いされてたってことだ」

「人間でも、魔族でも、神霊でもない……あいつも幻魔なのか?」

「わかんねえ。でも、俺たちのことを知ってるみたいだったぜ」

 いつかの朧蚕探しのときのように、三人で頭を突き合わせる。同じように、唯一私だけが、何か引っかかるものを抱えている。

「殺す……とも口にしていたな」

「物騒だね……」

「俺、後を追ってみるよ」

「追えるのか?」

「うーん。わかんないけど。案外その辺に居るかもしれないだろ。巨人の方も放って置けねーからさ!」

 じゃ、と、アルスは短く挨拶をして、今度はちゃんと開いている窓から飛び出そうとする。

 しかし、何かを思い出したのか、私達を振り返って、

「そういえば、いっつも変な服着てるよな」

 嫌な記憶ごと抉ってくれた。そういえば前会ったときは女騎士とゴスロリメイドだった。あの時何も言わないでくれたのは彼の優しさだったのか。

「でも二人ともすっげー似合ってる!次は俺のぶんも用意しておいてくれよ!」

 なんて、冗談なのか本気なのかわからない笑顔を残して、去ってしまった。

 これにはジークの思考も追いつかなかったらしく、私達はポカンと口を開けて呆気に取られていた。これから服のモデルとして写真を撮ろうという二人がそうしている様は、カメラ越しに見たらさぞ滑稽だろう。

「なーに二人してボケっとしてんの。そういう遊び?」

 アルスと入れ替わるように、今度こそヒルダさんが、スタッフさんたちを連れて戻って来た。

 私達ははっとして、自分の着ている衣装を見渡し、もう一度ヒルダさんを見て、堰を切ったように矢継ぎ早に質問した。

「どこ行ってたんだよ!魔物――じゃない、いや、魔物なんだが――ここに居たのに気付かなかったのか!?」

「ご無事でした!?あの角の男の子に何もされてませんか!?」

「いやいやいやちょっと……何……?」

 二人分の圧力に気圧され、ヒルダさんが困惑して後じさりする。

「魔物?男の子?何の話よ」

「だから、控室から出てきただろう」

「私達、さっきまで戦ってたんです」

「はあ?」

 血の気が失せた。

 ヒルダさんがふざけているようには見えない。まして、嘘を吐いているようにも。本気で、知らないんだ。

()()()()()()()()()()()あんた達も静かに待ってたじゃない。スタッフも、今日紹介した人達以外は、参拝者くらいなもんよ。それだってこっちじゃ見てない」

「教職の方……とかは」

「少なくとも、角は居ないわね」

 ねえ、と同意を求めるヒルダさんに、他の方々も頷いている。

「何でもいいけど、細かい話は後にしてくれる?」

 ヒルダさんに詰め寄る私たちの背後では、撮影の準備が着々と進んでいた。

「姉貴。最後に――俺たち、どれくらい待ってた?」

「五分くらいじゃない?」

 その言葉がトドメだった。

 私はジークと目配せを交わして、ひとまずこの件は置いて、無事に今日一日乗り切ろうと決意する。

 今あることに全力で挑まないと、後悔するから。

 ――何かとんでもない事に巻き込まれているような、予感がしたから。






.

.

.

.

・途中、シリアス展開に耐えかねて、本気でザラの目からビームを出そうと画策していました。が、友人たちに本気で止められました。

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