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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
2.ドッキュン聖者とガッカリ剣士
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男達の宴・5




 ――という大変なことがあった数日、私はアルスの無事を確かめるために、彼が相変わらず宿を借りているという黒猫横丁に、ジークとともにやってきていた。

 あの後の収拾はそりゃもう、私たちはほぼ逃げるように帰ってきたも同然でして。

 アルスにかけられた嫌疑は晴れなかったものの、魔物――じゃなくて、幻魔。幻魔って呼ぶんだって――に襲われた手前、そっちの処理や情報共有が忙しくなったみたいで、幸い、私やジークがやり玉に挙げられることはなかった。なかったけどもう二度とネロ先輩のお家には行けない気がする。

 ちなみにそんなお友達を呼んできてしまったネロ先輩だけど、「最初からウチに警備の不備があったことにする」ということで、ネロ先輩がグリュケリウス将軍の目の前で、メイドさんや使用人の人が寝泊りしている部屋の窓をぶち割り、しかも何故かそれで、「ネロが友達の為にそこまでするようになるなんて……」とかいう理由でお咎めなしだったそうな。やっぱ近寄らないのが一番だなあ。まああとキョウ先輩は普通に事情聴取されたらしい。

「ジークのも美味しそうだな〜」

「一口やるよ」

「わーいやった!」

「ほら」

「あーんっ。……んー!おいひ〜!」

 カフェの屋外スペースでケーキを交換し合う私たちを、向かい側に座ったアルスが蕩けそうな顔で見つめていた。

「……なににやにやしてるの」

「別にぃ~?」

「相変わらずよく分からん男だな……」

 ケーキ食べたかったのかな。アルス食いしん坊だし。

「ていうか何サラッと混ざってんだ!」

「ノリツッコミ……!?」

 ジークがまさかの反応。なんか心なしか、ジークがアルスに対して怯えているような。ここのところ、そういう過敏さが窺えるようになってきた。

「デート中なんだよこっちは!見ればわかるだろ!」

「デート中だから来てるんだよ!」

「も〜やめてやめて。せめてあと十分静かにしてて」

 ていうかデートではないですし。アルスの元気そうな顔も見られたし、三人でお茶でもしよっか~って流れでここまで来たでしょ。ジークはずーっと猛反対してたけど。

 ジークの意外なノリツッコミでようやく機会でも回ってきたと思ったのか、アルスが何か言いたげに、落ち着かない様子でもじもじし始めた。

「お、俺……」

「アルス?」

「もう我慢できないよ……」

 何度も私たちをチラ見してはきゃー恥ずかしいと顔を伏せる姿は、完全に恋する乙女だ。私のアルスはそんなことしない。むしろ私はアルスの前でこういう事してたな。あかん、恥ずかしなってきたわ。(突然の方言)


「俺も混ぜて!!!!」

「「は?」」


 ――は?


「ザラばっかりジークと仲良くしててずりーし、ジークばっかりザラと仲良くしててずりーよ!俺だって二人のこと大好きだもん!!!!」

 そう叫ぶなり、アルスは私とジークの間に割り込み、どっかと腰を据えた。

「だもんじゃないが」

 ジークは死んだ顔で、かろうじてそんな言葉をひねり出したようだった。いや、うん、そこだよね。ていうかジークウェザー、って呼んでなかったっけ?

「二人でいくらイチャついてもいいからせめて俺を真ん中にして!!」

 アルスはど真ん中で、子供のように私とジークの腕を片方ずつとって、風船売りのように離さない。

「駄目だ、入ってくるな邪魔者!」

「邪魔じゃない!!」

「いやそれは俺たちが決めることなんだよ!そんな強欲が罷り通る訳ないだろう!!」

「いーーーやーーーだアァーーーーッ!!!!!!耐えられないッ!!決められないッ!!」

 ジークが力ずくでアルスを引き剥がそうとするけど、アルスは頭突きで対抗していた。すごいちからだ……。

 そしてその光景を真横で見ていた私の口から飛び出たのは、

「かわいい〜……」

 という感想だった。ヤダー、こういうアルスもいいじゃない。推しがいる人生って素敵、全てが可愛く見える。

「かわいくねーよ!!異常者だろ!!俺たちの幸せを願うなら、大人しく壁か観葉植物にでもなってろ!!」

「そんなの我慢できない!俺は!二人を同時に!手にする!!!!」

「こ、こいつ……!一番嫌われるタイプのファンだぞ……!!」

 深刻な顔で何言ってんですかあんたは。

 とにかく狭いのと、このまま暴れるとケーキがひっくり返りそうで危ないので、アルスには一旦、もとの向かいの椅子に座り直してもらった。一時的な発作だったのならば、これで一度落ち着くはずだと思い、コーヒーを飲むよう勧めると、アルスも頷いて一服した。

 そしてやや冷静さを取り戻したアルスが、憂いを湛えた美しい表情で言い放つ。

「はー、じゃあこうしよう。二人は結婚する。俺はその養子になる」

「怖ッ!!何その病んだ未来!」

「何がじゃあだよ!!他人の人生設計に割り込んで来るな!」

「ならいっそ殺せーッ!!死んで二人の子供に生まれ変わってやるーッ!!」

 アルス、壊れる。

 とうとう彼は机に突っ伏して泣き始めてしまった。

 てーか私からしたらまだそんなけっ……け……アレとかもアレなんですけど!!?

「紛うことなき危険人物……ッ」

 ジークはこうなる気配をいち早く察知していたのか……。恐怖に支配されながらもケーキを食べる手が止まっていない辺りまだ余裕あるなコイツ。

「ア、アルスはそれでいいの?ちゃんと想像してみて。大人になってさ、仕事から帰ってきて、家のドアを開けたら、私とジークがいるんだよ?」

 私はアルスの涙をハンカチで拭い、目を見て説得する手段に出る。大丈夫、話せばきっとわかってくれる。だってアルスだもの。

「……」

 アルスは私にされるがままで、しょんぼり机を眺めていた。

 ほら、想像してごらん。やっぱりおかしいよね。何で男女三人でゼロ距離シェアハウスしてんの??爛れすぎだろ。

「せめて奥さんと子ど……」

「俺が二人を養うのかぁ……それもいいなぁ……」

「――価値観が独特すぎるッ!!!!」

 思わず力強く叫んじゃったよ。何なのコレ何?どうなってんの?アルスが変なんだよね?幻界生まれみんなこうじゃないよね?

 そんな捨てられた子犬みたいな顔してもダメだよ。隣では、青い顔したジークがぶつぶつ何か呟いていた。

「ここまで堂々と言われると、むしろ俺こそが古い既成概念に囚われているのかと錯覚するな……」

「なんで魔族側に効いてんの!駄目だよジーク、自分を強く持ってよ!!」

 ネロ先輩のお屋敷での一件は、アルスの隠された――いや、暴いてはいけない歪みを、露わにしてしったのかもしれない。

 私とジークは顔を見合わせて、これからの三人の関係に、思いを馳せた。






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・パーティー回終了。

ついでに登場人物の項目に、アルスのプロフィールを追加しておきます。

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