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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
2.ドッキュン聖者とガッカリ剣士
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光属性剣士、現る。・2




 黒猫横丁。

 私の家からもっとも近い、魔導列車の停車駅であり、同名の商店街である。古い魔女の一族が興したこの通りでは、魔術の道具だけではなく、生活に必要なものが大抵揃う。

 狭い煉瓦道を抜けると、軒先にテントを張った飲食店の集合地帯があり、更にその先に魔物討伐を請け負う魔導士のギルドや工房が隠れている。

 我が家は賑やかな市街地からはやや離れた辺鄙な場所にあるので、私は子供の頃から、遊ぶといえば黒猫横丁に訪れることだった。もはや庭のようなもの。案内ならお任せよ。

「えーと、宿屋はここかな」

「おお。ありがとな。ちょっと部屋があるか確認してくるから、待っててくれ」

「はーい、行ってらっしゃい」

 ギルドの拠点が並ぶ通りに、観光客向けとは違う、予約無しでもすぐに泊まれる古い宿屋がある。

 この辺りで仕事を引き請ける為にやってきた外国の人たちも快く歓迎してくれる場所なので、悪いようにはされない筈。……そういえばお金あるのかなアルス。

 しばらく宿屋の広い玄関で待っていると、アルスが笑顔で戻ってきた。犬が尻尾振ってる感じに見えるなあ。

「どう?泊まれそう?」

「うん、お陰様でな。はいコレ」

「?」

 返事もそぞろに、アルスが私に紙袋を押し付けてきた。

「へへ、道案内してくれたお礼。中で売ってた。開けてくれ」

 そっか。奥には武器屋さんとか薬屋さんの他に、お土産屋さんもあるんだったね。

 アルスに促されて封を切ると、中からは軟膏の入った色付き硝子の容器が出てきた。

 開いた花の形をしていて、気泡一つない水色のグラデーションの中に、更に細かい花柄が彫られている。あとオマケで小さい飴も何個かついてた。かわいい。クリーム使い終わったあとも小物入れにできそう。

「わ……綺麗……!!いいの?」

「うん。俺、あんたのこと気に入ったし」

 お礼にしてはいいものを貰ってしまった……。

「あ、ありがと……」

「はは、照れてる?」

「照れてないよう」

「見かけによらずシャイなんだ?可愛いじゃん」

「も〜……からかうなら帰るよ」

「悪い悪い。でも本気だって」

「なにが」

「可愛いって思った」

 やだ……なにこの気持ち……。

 私のぶっきらぼうな態度にも、アルスはいちいち眩しい笑顔で頷いてくれる。はっとするような言葉で惹きつけてから、目を細めて微笑むので、こっちは心臓が保たない。この硝子の容器と同じで、すごく透明だ。青緑の瞳と薄い唇が弧を描くたび、自分が特別な人間になったような錯覚を覚える。

 ――いかん。いかんぞ。

 頬の内側の肉を思い切り噛みながら、アルスからのプレゼントを丁寧に鞄にしまう。

 いかんぞお~。ジークに同じことされても全くときめかないどころか怖気すら走るのに、何故こうもアルスの態度には簡単にキュンキュンしてしまうのだろう。顔か。顔なのか。大事だな、顔。あと人柄。ジークはお礼とかじゃなくてマジでただの趣味で貢いでくるし。やっぱ怖いなアイツ。

「……なんて、ナンパしに来たんじゃないんだった。ごめんな」

「ううん……」

「飯でも食おうぜ!腹減ってきちゃった!」

 アルスがぐっと私の腕を掴んで駆けだす。

 いかんな。デートだこれ。






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