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神に何も貰えなかった転生者、実は成長上限がありませんでした  作者: Nagiousen


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18/22

第18話 「三日間」

 試験まで三日あった。

 やることは決まっていた。毎朝カルロのもとで修行。午後にギルドでF級依頼をこなす。夜に試験の筆記対策をする。それだけだ。


 一日目の朝。

 鍛冶屋の跡に着くと、カルロがいつもと違うものを持っていた。小さな石だ。親指の爪ほどの大きさで、表面が滑らかに磨かれている。


「今日から少し変える」


カルロは石を俺に渡した。


「これを持って、いつも通り始めなさい」


 俺は石を左手に握った。目を閉じて、胸の奥の温もりを探した。

 すぐに見つかった。今では迷わない。


「見つけたら、その石に意識を向けながら、温もりを保ち続けなさい」


 石に意識を向けた。冷たい。滑らか。小さい。

 胸の温もりと、手の中の石を、同時に意識した。

 最初は難しかった。意識が片方に偏る。温もりを感じると石から意識が離れる。石に集中すると温もりが薄れる。

 二つを同時に保つことが、こんなに難しいとは思っていなかった。


「焦るな」


カルロの声がした。


「同時に意識することが目的ではない。一つを保ちながら、もう一つを感じることに慣れる作業だ」


 俺は力を抜いた。

 温もりを中心に置いて、そこから意識を広げるように、石の感触を受け取った。

 少しだけ、楽になった。完全ではないが、二つが共存している感覚がある。


「それでいい」


 十五分ほど続けた。

 終わったとき、じんわりと疲れた感覚があった。体ではなく、頭の奥が疲れている。


「魔力を意識し続けることは、脳を使う作業だ」


カルロは言った。


「最初は疲れる。慣れれば意識しなくてもできるようになる」


「いつ頃から慣れますか」


「人による」


カルロは石を指さした。


「それは持っていなさい。一日中、時々意識を向けるように」


 午後、ギルドで依頼をこなした。

 薬草採取の依頼を一つ片付けて、戻る途中でロックスに声をかけられた。


「昇格試験を受けるそうだな」


「はい」


「誰から聞いたんですか」


「ギルドは狭い。話が広まるのは早い」


ロックスは腕を組んだ。


「アルクが申請したと聞いた」


「そうです」


「あいつに気に入られたか」


ロックスは少し考えた。


「悪いことじゃない。ただ、アルクに関わると、面倒なことに巻き込まれることがある」


「どういう意味ですか」


「あいつは強い。それは本物だ。ただ、強い人間には、面倒なものが引き寄せられる」


ロックスは続けた。


「無冠の件を追っていると聞いた。お前も関わるつもりか」


「わかりません」


俺は正直に答えた。


「ただ、向こうが俺に関わってくる可能性がある」


 ロックスは少し黙った。


「まだ、お前のことを調べていた人間の続報はない。だが、消えたわけじゃない。気をつけろ」


「ありがとうございます」


 ロックスは何か言いかけて、やめた。それから、少し声を落とした。


「試験、通れよ」


 そう言って、大きな背中が人込みの中に消えた。


 二日目の朝。

 石を持って修行をした。昨日より、二つを同時に意識できる時間が長くなった。疲れ方も少し軽い。

 修行の終わりに、カルロが言った。


「昨日より安定している」


「慣れてきた気がします」


「石を持っていない時間も、意識を向けることはできるか」


 俺は試した。石を持っていない右手に意識を向けながら、胸の温もりを感じる。


「できます」


「それでいい」


カルロは頷いた。


「明日の修行は、試験の前に行う。朝一番に来なさい」


「試験は午前中ですが」


「わかっている。短くて構わない。来なさい」


 その日の午後、筆記試験の対策をした。

 エリナが手伝ってくれた。彼女はこの世界の知識を持っている。魔物の弱点、依頼の手順、緊急時の規則。俺が質問して、エリナが答える形で進めた。


「グリーンスライムの弱点は」


「火と塩。水には強い」


「スライムウルフの爪の毒の対処は」


「傷口をすぐに洗って、緑の軟膏を塗る」


「依頼を途中で。中断する場合の手続きは」


「ギルドに速やかに報告。理由を書面で提出。ペナルティが発生する場合がある」


 俺は知識として持っているものと、この世界で実際に経験したものが、少しずつ一致してきているのを感じた。知識だけあっても意味がない。経験と結びついて初めて使えるものになる。


「だいたい、大丈夫そうね」


エリナが言った。


「おかげで、整理できた」


「役に立てた?」


エリナが少し、嬉しそうな顔をした。


「ああ」


 三日目の朝。

 試験当日だ。

 いつもより早く目が覚めた。緊張しているのかもしれない。感情を表に出さない俺でも、体は正直だった。

 鍛冶屋の跡に向かった。

 カルロがいた。今日は木箱に座らず、炉の前に立っていた。


「来たか」


「約束でしたから」


「石を持ってきたか」


 左手の石を見せた。カルロが頷いた。


「今日は短い。目を閉じろ」


 閉じた。


「いつも通り始めなさい。ただし今日は、温もりに触れたあとで、石に向かって押し出すイメージを持て」


 俺は眉をひそめた。目を閉じたまま聞いた。


「押し出す、というのは」


「温もりを、外に向けるイメージだ。体の内側から、石に向けて流すような感覚を持て」


 やってみた。

 温もりに触れた。それを石に向けて、押し出すイメージを持った。

 最初は何も起きなかった。

 だが、三十秒ほど続けたとき。

 石が、わずかに熱くなった。

 気のせいかもしれない。ほんの少し、体温より高い程度の熱さだ。だが確かに変化があった。


「感じたか」


カルロが言った。


「石が熱くなった気がします」


「気がするではない。なった」


カルロの声に、珍しく力がこもっていた。


「目を開けろ」


 開けた。

 石を見た。

 変化はわからない。見た目は同じだ。

 だが俺は、ステータス画面を開いていた。

 見た瞬間、止まった。


 ゼロ Lv.1

 HP:12/12

 MP:3/3


 筋力:3 敏捷:4 魔力:1 耐久:2 知力:6

 スキル:なし

 備考欄:◆◇◇◆◆◆

 三文字目が、白くなっていた。


 ◆◇◇◆◆◆。

 二文字続けて白い。

 エリナが横から覗き込もうとして、見えないことを思い出した。


「何か変わった?」


「三文字目が変わった」


「ほんとに?」


エリナが声を上げた。


「カルロさん、今のが関係してるんですか」


 カルロは答えなかった。ただ、炉の方を向いて、静かに言った。


「試験に行きなさい」


「教えてくれないんですか」


俺は聞いた。


「全部白くなってから話す。それまでは教えない」


カルロは振り返らなかった。


「ただ、一つだけ言える」


 老魔法師が振り返った。その目が、いつもと少し違った。何かを確信したような、静かな目だ。


「方向は正しい。続けなさい」


 ギルドに着いた。

 試験官が待っていた。四十代くらいの、落ち着いた雰囲気の女性だ。Bランクのカードをつけている。


「ゼロさんとエリナさんですね。準備はいいですか」


「はい」


「では、筆記試験から始めます」


 俺は左手の石を握った。

 試験が始まった。


次回・第19話「試験の結果」


筆記、実技、面接。三つのパートを終えたゼロとエリナに、試験官が告げた結果は、予想とは少し違うものだった。

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