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神に何も貰えなかった転生者、実は成長上限がありませんでした  作者: Nagiousen


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第16話 「帰路」

 昼過ぎ、荷馬車の前にアルクが現れたとき、ガレスは既に知っていたが、センは目を丸くした。


「Aランクが、なんで俺たちの護衛に」


「暇だから」


アルクは言った。

 嘘だとわかったが、センはそれ以上聞かなかった。Aランクが同行するなら文句はない、という顔をした。

 カルロはアルクを見て、一言だけ言った。


「大きくなったな」


「七歳のときぶりです」


アルクは頭を下げた。珍しく、少し緊張した様子だった。


「老師がゼロに同行していると聞いて、驚きました」


「そうか」


カルロはそれだけ言って、馬車の横に歩いていった。アルクが俺の隣に来た。


「老師、相変わらずだな」


「いつもああいう感じです」


「昔からだ」


アルクは苦笑した。


「七歳のとき会ったとき、俺が剣を見せたら『重心が右に偏っている』と一言だけ言って歩いていった」


 俺は少し想像した。七歳の子供に対してそれを言うカルロの姿が、妙にリアルに思い浮かんだ。


「出発するぞ」


ガレスが言った。


 来た道を戻る。

 行きと違うのは、一人増えたことだけだ。アルクは馬車の前方を歩いた。俺は右側、エリナは左側、という配置は変えなかった。


 アルクの歩き方を観察した。

 静かだ。体格がいいのに、足音がほとんどない。視線が常に動いている。前方、左右、後方と、一定のリズムで確認している。訓練で身につけた動きではなく、習慣になっている。長く前線にいた人間の動き方だ。


 二時間ほど歩いたところで、アルクが速度を落とした。

 俺も気づいていた。

 鳥の声が消えている。

 昨日と同じだ。だが昨日と違う点がある。風の向きだ。今日は北から吹いている。昨日と逆だ。


「右側の草原」


俺は小声で言った。


「風上から来る」


「わかってる」


アルクも小声で返した。


「昨日より数が多い。気配が五つ以上ある」


 俺はステータスを確認した。

 人間の気配が六つ。そしてもう一つ、昨日と同じ「???」の表示。


「魔物もいます」


「ブラックハウンドか」


「レベルが読めない。昨日と同じ表示です」


 アルクが少し眉を上げた。


「お前、索敵スキルを持っているのか」


「持っていません」


「なぜ気配がわかる」


「わかりません」


 アルクはそれ以上聞かなかった。今は状況への対処が優先だと判断したらしい。

 カルロが静かに前に出た。杖を両手で持っている。


 草原が揺れた。

 昨日と同じように、覆面の人影が出てきた。だが数が違う。六人だ。昨日の一・五倍。

 そしてブラックハウンドが二頭いた。

 二頭それぞれに使役者がついている。昨日一頭でCランクに勝てたなら、二頭なら確実に仕留められると判断したのだろう。


 リーダーが前に出た。昨日と同じ大柄な男だ。

 男は俺を見た。それからアルクを見た。

 一瞬、動きが止まった。

 アルクのギルドカードが見えたのかもしれない。Aランクの冒険者が護衛についているとは、想定していなかったのだろう。

 だが、リーダーは退かなかった。


「昨日の借りを返しにきた」


男は言った。


「今日は逃がさない」


 アルクが剣を抜いた。

 音がなかった。鞘から刃が出る音すら、しなかった。剣が光を反射して、昼の日差しの中で白く光った。


「六人と魔物二頭か」


アルクは静かに言った。


「ゼロ、魔物の使役者を頼む。俺が前の四人を引き受ける」


「一人で四人ですか」


「問題ない」


 断言だった。迷いが一切ない。

 エリナが石を構えた。


「私は弓の人を抑える。昨日もいたでしょ、後ろの方に」


「頼む」


 俺は言った。


 リーダーが合図した。

 覆面たちが動いた。

 アルクが走った。

 速い。俺がこれまで見た中で、一番速い動きだった。地面を蹴る力が違う。最初の一歩で、もう敵との距離が半分になっていた。


 剣の男二人が同時に斬りかかった。アルクは身を低くして両方を潜り抜け、振り返りざまに一人の剣を弾いた。金属音が響いた。弾かれた男がよろめく。もう一人がアルクの背後を取ろうとしたが、アルクはすでに横に移動していた。


 まるで相手の動きが見えているようだ。

 俺は使役者に向かって走った。

 昨日と同じルートを取るつもりだったが、今日は覆面の配置が違う。昨日の反省を活かして、使役者の周囲に二人を配置している。

 正面突破は難しい。

 俺は足を止めた。


 二頭のブラックハウンドが、それぞれ別の使役者に制御されている。二頭同時に動かれたら、手は使えない。

 考えた。

 二頭を同時に動かすには、使役者二人が連携する必要がある。連携には合図がいる。声か、手の動きか。

 俺は使役者二人を観察した。


 一人は右手に鎖を持ち、もう一人は左手に持っている。左利きと右利きだ。二人の位置関係を見ると、互いの利き手側が外を向いている。合図は目線だ。互いを見て、同時に動く。

 ならば、視線を切ればいい。

 俺は真っすぐ使役者に向かって走るふりをして、途中で急に右に曲がった。使役者二人の視線が俺を追う。互いへの注意が、一瞬だけ切れた。


 その瞬間にエリナが動いた。

 石が飛んだ。狙いは使役者の一人の手元だ。命中した。鎖を持つ手に当たり、男が声を上げた。


 ブラックハウンドの一頭が制御を失った。

 もう一頭の使役者が慌てて動いた。制御を失った魔物が暴れ始め、周囲の覆面たちが混乱した。


 その隙に俺は走った。

 もう一人の使役者に向かって、一直線に。

 使役者の前に立ちふさがっていた覆面の男が剣を構えた。俺は止まらなかった。男の剣先が俺に向く。俺は体を横にして、剣と自分の体の間の距離を最小にしながら、男の懐に飛び込んだ。


 近すぎて、剣が使えない距離だ。

 男の肘を掴んで、体重をかけて押した。男がよろめく。その隙に使役者の鎖を両手で掴んだ。

 引っ張った。

 使役者が鎖を手放すまいと抵抗した。だが、昨日と同じだ。細い腕だ。力では負けない。


 鎖が手から離れた。

 二頭のブラックハウンドが、同時に制御を失った。

 二頭の魔物が混乱して、草原の方に走り出した。使役者を含め、覆面たちが慌てて後退した。Aランクと戦っていた四人も、魔物が暴れ始めたことで隊形が崩れた。


 アルクが動いた。

 崩れた隊形の中に踏み込み、剣の腹で覆面の男の剣を弾いた。男が武器を落とす。別の男の足を払った。転倒する。残り二人が後退した。


「退け!」


リーダーが叫んだ。

 覆面たちが草原に消えていった。ブラックハウンドも、使役者に引きずられるように北側に去った。


 俺は荒い息を整えた。

 怪我はない。エリナも無事だ。カルロは馬車の横で静かに立っていた。障壁を使う場面がなかった。


 アルクが剣を鞘に戻した。やはり音がしなかった。


「うまくやったな」


アルクが俺に言った。


「使役者の動きを、読んだだけです」


「それが難しいんだ」


 ガレスが馬車の上から声をかけた。顔が青い。


「行くぞ。早く」


 一行は再び歩き始めた。

 アルクが俺の隣に並んだ。


「二度目の戦いで、昨日より対応が速かった」


「情報があったから」


「情報だけじゃない」


アルクは前を向いたまま言った。


「お前、戦いながら考えている。普通の冒険者は体が先に動く。お前は頭が先に動く」


 俺は答えなかった。


「スキルなしで、あの動きができる理由が、俺にはまだわからない」


アルクは続けた。


「だが、一つだけ言える」


「何ですか」


「ランドルに戻ったら、本当に昇格試験を受けろ。Fランクでいる理由がない」


 俺は少し考えた。

 エリナを見た。エリナが頷いた。


「わかりました」


 街道の先に、ランドルの方角が見えている。

 二つの太陽が西に傾き始めていた。

 帰りの空は、来たときより少し広く見えた。


次回・第17話「昇格試験」


ランドルに戻ったゼロとエリナに、アルクが昇格試験の手続きを取ってくれていた。Fランクからの脱却。しかし試験の内容を聞いたゼロは、少し考え込んだ。

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